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夏の終わり/フルスロットル(ドリュー・バリモアに)

はるか南の海上で台風が発生した夕方に、
3人の姉と1人の妹は、ミッキーマウスが
車道に飛び出し、それをよけた車が
壁に激突し、運転手が死ぬ事故を目撃する。

ミッキーマウスはそのままどこかへ消え、
四姉妹も家に帰った、その翌日、
台風はさらに接近していたが、
上の2人の姉は、服を買いに町に出掛ける。

一方、3番目の姉が勤めるビルの前では、
通りに蝉がひっくり返っていて、
死んでると思い近づくと、突然羽をバタつかせ、
彼女は驚き、悲鳴を上げてしまう。

その時声をかけてくれた若い男と、
たまたま同じカフェで昼食を食べることになり、
2人は『白鯨』の話をして打ち解けた。
そうこうするうち、ついに台風は上陸する。

台風はありとあらゆる物を吹き飛ばす。
家だとか、家具だとか、結婚指輪だとか、
自転車はもちろん、車だって飛んでいく。
乞食だって、ロックスターだって吹き飛ばす。

線路は外れ、電車も止まり、3番目の姉は、
駅の前で「今日は帰れない」と電話を入れる。
振り返ると、昼間の若い男が居合わせていて、
2人は目と目が合って、互いに微笑む。

台風が月まで飛ばしかけた頃、
一番下の妹は洗面台の隅に、
黒い生物を見つけて驚くと同時に、
彼女の心はヒッチコックの目になる。

黒い生物と、うろたえる若い女、
それぞれのカットが交互に映し出される。
震える唇、掴んだスリッパ、
黒い生物、振り上げる右手、そして

バン!

しかし攻撃は外れ、黒い生物は消える。
鋭く尖った沈黙が彼女の耳を刺す。
気配だけの存在が『エイリアン』の展開を思わせ、
彼女は忍び足で洗面所から出て行く。

一つひとつの物音に敏感になる。
身の回りにあふれる原因不明の音。
アルバムにひっそり収められたジャズの、
スネアドラムのようなカサカサする音。

一方、3番目の姉のハートはバスドラム。
彼に聞かれるんじゃないかと、さらにドタドタ。
彼が彼女の手を取り、2人は踊り出す。
ちょうどそれが映画のミッドポイントになる。

家に、上の2人の姉が帰って来る。
2人は台風の状況をドローンみたく喋る。
一番下の妹は文学的に「青ざめた口調」で、
黒い生物について上の2人の姉に語る。

2人の姉と1人の妹は各々武器を用意する。
長女は殺虫剤、次女は(何故か)イヤホン、
四女は丸めた新聞を手にしたその時、
台風が電信柱を倒し、町中が停電する。

稲妻によって窓がストロボの効果を起こす。
パッと光ると、黒い生物が床に現れる。
また暗くなる。あらゆる物を飲み込む闇は、
宇宙にも、黒い生物の羽にも似ていた。

一番下の妹は新聞を振り上げながら思った、
自分も3人の姉たちも、宇宙の中の点であると。
その当の宇宙は今も広がり続けているという。
多くの命を抱えて、そう命、黒い生物にも

バン!

そして1つの命は役目を終えた。
丸められた新聞紙の下で。
その時がちょうど台風の目の中だった。
朝はまだ雨が降っていたが、午後には晴れた。

3番目の姉が駅から歩いて帰る途中、
蝉の鳴き声がひとつもしないことに気づく。
彼女は、巨体にエイハブ船長をくっつけて、
何度も海面に潜る「夏」を思い描いた。

リビングに2人の姉と1人の妹がいて、
丸めた新聞で何を仕留めたかを三女に語る。
新聞にはミッキーマウスの事故が載っていて、
そして南に、もう台風はなかった。

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