4歩歩いた先にコーヒーがある 10
巡さんは、写真を撮るのが好きだった。休日にどこか出かけると、高そうな一眼レフをいつも持っていっては、たくさん写真を撮った。花、海、空、動物。たくさんの写真を撮っていた。私の写真も、もちろんあるんだろうけど、見せてもらえなかった。
「何してるの?」
夜、お風呂から出ると、巡さんが何やらパソコンをいじっていた。
「ん?この前行ったとこの写真整理」
先日休みが一緒だったので、2人でフラワーパークへ行ってきた。今はちょうど秋バラの季節なので、バラ園をやっていたのだ。海が近いこともあり風も強かったけれど、本当に綺麗で楽しかった。
「見たーい!」
私は巡さんの隣へ座って、パソコンを覗き込む。いつもは「ダメー」と笑いながら私を押し退けるけど、今回は
「はいはい」
と、笑いながら場所を詰めてくれた。
「え、巡さん今回やけに素直じゃない?」
「いい写真がいっぱい取れたからね。君に見せたくもなるよ」
そう言って、巡さんはあるフォルダをクリックする。赤や黄色、白やピンクなどの、さまざまな色のバラの写真が。
「え、すごい。生で見るより鮮明に見える!」
「はは、生で見ても素敵だったじゃん」
「それもそうだけど、すごいこうなんか、4K的な感じがして…」
巡さんは笑いながら、
「どういうこと」
と言った。私もなんだかおかしくて笑えてしまった。
しばらく2人で写真を眺めていると、私はあることに気づいた。
「私たちの写真少なくない?」
「それは菫の写真フォルダにあるでしょ。スマホの」
「ええー!そうだけどさ!巡さんのカメラにはなくない?あんまりこのカメラで写真撮らないじゃん!」
「そう言われてみれば、そうだね。でも、このカメラで2人で撮るの、結構大変だよ。三脚もないし」
「でもいいじゃん、4Kの私たち!」
「意味がわからないよ」
巡さんはそう言いながら別の写真にしていたが、次の写真は、バラの香りを嗅ぐ女の子の写真が。よく見た服装によく見た髪型。
もしかして、これ……
「ねえ、巡さん」
「ん?」
巡さんがそう返事した後で、すぐに気づいたようですぐに次の写真へ飛ばしてしまった。
「ねえ!今の私でしょ!絶対!」
「違っ、違うよ!別の人!被写体の人!!」
「嘘じゃん!絶対!別の人ってそれはそれで問題だもん!」
「別にいいでしょ!今のは違う写真!」
そう慌てる巡さんと、必死に元の写真に戻そうとする私。ワーワーやっていると、巡さんのスマホが鳴った。
お店のアプリの通知のようだった。でも、ふと見たロック画面は、同じようにバラの香りを嗅いでる私の写真。
「えっ」
ロック画面に…?前まで、綺麗な空の写真だったじゃんか。
巡さんは、照れ臭そうに、
「この時の君が、あまりにも綺麗で。君に気づかれないように、スマホに移しておこうって思ってたんだけど…。パソコンにも残ってたみたい」
優しくて大人な余裕をもつ巡さんだけど、こうして私を大好きでいてくれるところ。
本当にありがたいし、私も大好きなんだよなぁ。
私は、巡さんの肩にもたれかかると、
「……嬉しい」
とだけ呟いた。巡さんの体温が、優しく伝わってきた。
彼氏が撮った写真で、初めて自分が写っている写真を見た。
写真を撮られるって、こんなに嬉しいんだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?