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葵むらさき
2019年1月30日 14:46
「マハドゥ?」私は訊き返した。「何それ?」「さっすが!」父が大きく叫んだので、私は少し肩をすくめた。「よく知ってるなあ! 物知りだね、君、えーと」「ユエホワ」私が代わりに答えた。「ムートゥー類だよ」 そしてちょうどその時私たちは丸太の家に到着し、テラスのテーブルの上には祖母のお手製のピザやサラダや冷たいスープなどがいっぱいに並んでいた。「お帰り、マーシュ」「ただ今、お母さん」父
2019年1月26日 08:51
「まあ、あなた方がここに来る途中で声だけ聞いたというその鬼魔――恐らくね――ここ何か月かの間、私の家の周りに時々こっそり近づいて来たわ」祖母は真面目な話を続けた。 私とユエホワは一瞬目を合わせ、それから祖母を見た。「私もまずは様子見と思っていたのだけれど、特に悪さをしかけてくるでもなく、ただ周りをうろちょろしているだけでね。キャビッチや他の畑の作物を盗むでもなく」「ふうん」私は唇をすぼ
2019年1月15日 22:31
「あらま」祖母は口に手を当てた。「ユエホワって、あのフリージアの言ってた、性悪鬼魔? あの子が?」「う、うん、えと」私は祖母を見て頷くやらユエホワの方を見て口をあんぐり開けるやら、忙しかった。「森で出くわして、なんか一緒に来ちゃったの」「まあ」祖母はおどけたように私から少し身を遠ざけた。「あなたたち、お友達なの?」「ううん、全然」私は全身で首を振った。「いてえー……」ユエホワはうめ
2019年1月8日 07:59
私ははっとして目を大きく見開いた。 でもその前に、右手でリュックを叩いてキャビッチをすでに握りしめていた。「誰?」叫ぶ。 かさかさっ 葉っぱの擦れる音がしたと同時にキャビッチスローの体勢に入る。 けれど“そいつ”は、現れなかった。 逃げたんだろう。 私はキャビッチを構えたまま、しばらく周りの様子をうかがった。 かさ、かさ、かさ やがて、もっと呑気そうな音が遠く
2019年1月3日 07:06
「ポピ――」母が、階段の下から大きな声で呼ぶ。「支度できたあ――?」「は――い」私も部屋の中から大声で返事する。 下に降りると母は、大きな紙袋と小さなバスケットを私に差し出した。「はい、じゃあこれをお願いね」にっこりと笑う。「はーい」返事しながら私は紙袋の中を覗き込む。「うわあ、きれい!」 紙袋の中にあったのは、オフホワイトの生地。きらきらと小さな光の粒が表面に輝いている。「き