葵むらさき

大人のためのお伽噺を書いています。 著書ページ: https://www.amazon…

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  • 負社員

  • 魔法野菜キャビッチ3 キャビッチと伝説の魔女

    ポピーは魔法の世界に住む少女。その世界では「キャビッチ」という、神から与えられた野菜で魔法を使う――「食べる」「投げる」「煮る」「融合」など。 13歳になったポピーは、新たに「シルキワス」という伝統の投げ魔法を会得し、充実した毎日を送っていた。 そんなある日ポピーは母親に頼まれて、祖母の家までおつかいに出た。その祖母こそ、ポピーにシルキワスを教えた人であり、魔法界に――そして鬼魔(キーマ)界に名だたる伝説の魔女・ガーベラその人だった。 おつかいの途中でポピーは、ふしぎな声を耳にする。気になりながらもその正体はつかめずにいた。 そして祖母の家でポピーは、長いこと旅に出ていた父親と再会するが、彼女にくっついて来たポピーのライバル鬼魔・ユエホワを見て祖母と父が言った言葉に、はげしく動揺するのだった――

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カウントアップが始まる

カウントアップが始まる 公園のベンチに座りスマホをいじっていると、こちらに近づいて来る足音が聞こえた。  顔を上げると、白いレースのついたワンピースを着た、小学三年か四年ぐらいの女の子だった。両肩から三つ編みを前に垂らしている。その子は確かに俺に向かって歩いて来ていた。 「こんにちは」女の子は俺を見ながら少しだけ頭を下げた。 「あ」俺は一瞬、返事をしていいのかどうか迷ったが、まあ害はなさそうかと判断し「こんにちは」と少しだけ頭を下げた。 「あの」女の子はまじめな顔で俺に訊い

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    • どうぶつたちのキャンプ 7

       サバンナゾウといったか。この動物はあまり眠らない。常に草木を探し、食んでいる。 「食べ続けていないとだめな気がするんだ」  以前、なぜそんなに食べ続けるのかと問いかけた時、そういう答えが返ってきた。やめたらそこで終わり、きっとそうなのだ、と。  そういうものか。キオスはひとまず納得の顔を見せた。なにしろサバンナゾウたちにとって、キオスは『ちょっといびつな形をした子ども』なのだそうだからだ。  キオスは自分がサバンナゾウではないこと、ましてや地球産の動物でもないことを主張しな

      • どうぶつたちのキャンプ

        1 レイヴンは窓外の超高速雲流を眺めるともなく見遣りながら、ハヤミ総司令の待つオフィスへと浮揚推進していた。  呼び出しを受けたのは、昨日の夜だった。 「明日の朝、私のオフィスに来てくれたまえ」  感受帯角質に届いたメッセージはごくシンプルなもので、何々の用件でとか、何々について君に確認したいとか、それどころか「君に話がある」という基本的な呼び出し事由さえ、書かれていなかった。  それは何故か。それは、そういう“余計なこと”を書くと、レイヴンがオフィス訪問を拒否する可能性が

        • RENT оr BUY?

          「入金を確認致しました。ありがとうございます。本日十五時ゼロ分ゼロ秒よりサービスをご利用頂けます。」 というメールが届いた。 「よし」  亜一郎は呟いてメールを閉じ、代わりに、すでに設定済みのアプリを立ち上げた。  それは 『ファイナルパートナー』 なる名称のものだ。  白い画面の中に、 『ご用をおうかがいします。』 というメッセージが、浮かび上がる。 「あーあー」  端末のマイクに向かい、亜一郎は意味もなく発声練習をした。 『あーあー』  白い画面の中に、亜一郎の発した言葉

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        • 魔法野菜キャビッチ3 キャビッチと伝説の魔女
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          DV幽霊

          第1話  この理不尽さ加減はどうだろう。  足は、私の腰をさっきから蹴りつづけている。  いつからだろう。  いや、腰を蹴りつづけられているのがではなく、この、足が私にとり憑いているのは。  きっかけは何だったか。  バグか。  ウイルスなのか。  もしかしたら、エロ動画を堪能した報いの――  と、そんなことを布団の中で横向きに寝転んで考えながら、私は腰を蹴りつづけられている。  随分と余裕たっぷりに対応できるようになったものだ。  もちろん当初は、まず驚き、おののき、う

          負社員 第83話 負社員惑いて星に立つ(了)

          「なんなんすかねえ、あのおっさん」結城が建物に向かって歩きながら口を尖らせる。「本原ちゃんが怒るのも無理ないよ」 「ははは」女型依代の天津は元々の天津と同様に苦笑した。「まあ、いろんな人がいますから」 「申し訳ございません」本原が謝った。「神さまに対して、あまりにも許し難い行為だと思ったので」 「いえいえ」天津は歩きながら手を振った。「ありがとうございます」 「ああいう人間に対しても、神は感謝を抱くのですか」時中が質問する。 「はい」天津は淀みもせずに頷く。 「まじすか」結城

          負社員 第83話 負社員惑いて星に立つ(了)

          負社員 第82話 踏んだり蹴ったりうんざりがっかり

           ブナの木肌に、朝日の紅が色をつける。あたかもその皮の下に、血潮が流れているかのように、まるでそこには摂氏三十六度ほどの体温があるかのように、温かそうに見える。  ――君の中には、誰かがいるの。  ふとそんなことを訊ねてみたくなる。  スサノオ。  そう呼んでもいいのか、あの“新参者”は最後、結城の体の中に潜り込むようにも見えたが、同時にこの星に棲息するあらゆる木々の中に潜り込むようにも見えたのだった。どうすればそんなことができるのか、とふと不思議にも思ったが、例えばそれぞれ

          負社員 第82話 踏んだり蹴ったりうんざりがっかり

          負社員 第81話 我々に教育担当を選ぶ権利はありますか

          「地球との対話」大山は苦いものを噛み締めるような声で説明した。「それと、我々の依代はじめ業務に必要な機器類の調達――こちらに関しては今後、これも社員のフルスキルを使って、代替策を講じて行く所存です」 「依代」結城が呟く。「またあの天津さんの姿の天津さんにお会いできるんすか」 「何とも言えません」大山はますます苦いものを噛み締めるような声で回答した。「もしかしたら、また別の形態の依代で対応することになる、かもです」 「まじすか」結城が叫ぶ。「天津さんが天津さんじゃない形になるん

          負社員 第81話 我々に教育担当を選ぶ権利はありますか

          負社員 第80話 この宇宙が滅び去るその時まで対話を

           縦二つに割られた青白い蛇は、それを形作る煙の粒子が一粒ずつ拡散していくように薄くなり、消えていった。もはやスサノオ――ガセスサの声も、鯰の声も、出現物の声も聞えては来なかった。  そして楽しげにはしゃいでいた恵比寿もまた、無言の状態に戻り作業を続けているようだった。その証拠に、神舟は数分と待たないうちに空洞の外へ到着したのだった。 「けど、今回俺らって、特に何の働きもしてないよね」結城が、金色に輝く空洞内を肩越しに見返りながら言う。「いいのかな、このまま帰っても」 「もちろ

          負社員 第80話 この宇宙が滅び去るその時まで対話を

          負社員 第79話 はっきり言わないとわからないしはっきり言うと配慮に欠ける事になるし

          「うー」結城は再度、かすれた声で呻いた。 「結城さん」天津が叫ぶように呼び、 「結城君気づいたか」大山が喜びの声を挙げ、 「結城さん」木之花が泣き声になりかけながら呼ぶ。 「あいつ、また戻ったのかな結城さんの中に」伊勢が小さく呟く。 「まあ、何にしてもよかった」酒林が安堵の声で言う。  神たちはそれぞれに喜びの声を洩らし新人たちを労った。 「結城」時中が結城の頭上から呼びかけた。「動けるか」 「結城さん」本原が結城の足の上から呼びかけた。「大丈夫ですか」 「うー」結城はやはり

          負社員 第79話 はっきり言わないとわからないしはっきり言うと配慮に欠ける事になるし

          負社員 第78話 結論そこすか

          「カマビスしい」そんな声が、聞えた。 「え?」結城は声のした方を見ようとした。しかしその声がどこから聞えてきたのか、わからなかった。「誰……」体を起こそうとする。しかし思うように自分を動かせない。「ここは……」周囲を見回す。  そこは薄く水色に染まる、寂しげな場所だった。どこまでも続くかのような、どこまで行っても果てのないような、そして何もなく、誰もいない空間だった。 「ここ、どこだ?」結城は自問した。 「ヘビのナカ」誰かがそう答える。 「蛇の中?」結城はただ驚いて繰り返した

          負社員 第78話 結論そこすか

          負社員 第77話 対応方法不明の場合は穏便にいなして次へ行きましょう

          「あ、やば」 「ス、スサ」 「おい、落ち着け」神たちは息を呑んだ。 「なんだ?」古参者は訝しげな声で呟いた。  地球は、黙って様子を見ていた。  ごり ごりり ごり ごり  何か、硬質のものが強い力で擦り合わされるような音が響いた。 「何だ? 何してる、スサ」 「おいスサ、やめろ」 「皆さん」伊勢が冷静に皆を制する。「今は、呼びかけないで欲しいす」 「え」 「あ、ああ……」 「うん」神たちは大人しく従った。 「すいません」伊勢は静かに謝った。「なんか高まってきてるす、あい

          負社員 第77話 対応方法不明の場合は穏便にいなして次へ行きましょう

          負社員 第76話 思った事を何でも話す行動ほどエネルギーを大量消費するものはない

          「話の続きだけど」地球は新参者への問いかけを再開した。「何故……どうして神は、木を依代にしようとしたの? その……人間、ではなく」 「あー」新参者は雰囲気的に上方を見上げ、他の神たちの意見を待った。しばらくして「ニンゲンは、ソウテイ、ガイ、だった」と答えた。 「想定外?」地球はまた、比喩的に驚いた。「どういうこと?」 「ドウブツ」新参者は途切れ途切れに話を続けた。「が、シュツゲン、した、のはー、ヨソウ、してなかった」 「動物が」地球は小さく反復した。「つまり、植物だけをつくる

          負社員 第76話 思った事を何でも話す行動ほどエネルギーを大量消費するものはない

          負社員 第75話 ワンオペもツカれるまではキラクだが

          「スサ」伊勢は、依代の身においては磯田社長はじめクライアントの社員たちと笑顔で労いや状況説明の言をかわしつつ、自社につながるチャネルの上では新参者に呼びかけた。「さっきお前が見たヒトの中に、女の子――娘がいただろ」 「いた」新参者は頷く声で答える。 「彼女がクシナダかどうか、わかるか?」伊勢は続けて訊いた。 「あ。そうか」 「うむ。そうだ」 「クシナダだったか?」他の神たちも思い出したように口を揃える。  新参者は訊き返した。「クシナダって、ダレ?」 「お前の妻だろうが」伊勢

          負社員 第75話 ワンオペもツカれるまではキラクだが

          負社員 第74話 転がる岩のように使途不明

           ごろごろごろごろ  ごろんごろんごろんごろん 「これは何の音でしょうか」本原が質問する。 「何の音だ」時中が質問で返す。 「何か転がって来る音? 岩?」鯰が推測し、 「岩ですか」本原が確認し、 「岩?」時中が訊き返す。  ごろごろごろごろんごろんごろん  音はみるみる大きくなり、近づいて来た。 「入っちゃえば? あの亀裂に」鯰が促す。 「入れるのでしょうか」本原が懸念を示す。「水があるのではないのですか」 「結城が出て来ないということは」時中が推測を述べる。「中に入っ

          負社員 第74話 転がる岩のように使途不明

          負社員 第73話 スゲー・ヤバイ等は使用せず色・形・大きさ等の物理量で報告しましょう

          「スサ」伊勢は叫んだ。「起きたか」 「あー」寝ぼけたような声が答える。「ヨリシロ、ダメんなった」 「遅いからだろうが、お前が」伊勢は怒った。「何やってたんだ」 「駄目にはなってないよ」鹿島が言葉を挟む。「宗像さんと俺が、ギリギリで酸素補給したから。気を失ってるだけだ」 「ホント?」声は光を得たかのように明るくなった。「じゃまだウゴかせる?」 「ああ……けど応急処置ぐらいはしてやらないとな……ああ、けどこの依代じゃ無理だよなあ」鹿島が困った声を出す。「後の二人の新人くんたち、入

          負社員 第73話 スゲー・ヤバイ等は使用せず色・形・大きさ等の物理量で報告しましょう