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自由な色彩 〜プロローグ 前半〜
そう広くないある広場で、ひとりの少女が小さな平筆を持ち、仁王立ちしている。次の瞬間目を開いた女の子は、力強く{炎|ほのお}の絵を描いて叫ぶ。
「フレイムッ」
うまいらくがきと言葉で発せられた炎は、茶色い前髪の前を熱くこがし、すぐに消える。彼女は何を思ったのか、同じ動きを何度も繰りかえしていた。
ここはどこかに存在するといわれている魔法の世界。筆と言葉で創りあげるそれは、決められた学科に入れば誰でもでき、とくに難しいものではない。もちろん攻撃魔法を使うマジシャンだけではなく、武器をあつかうコンバテントや同じ道具をもちい回復魔法を使うプリーストなど、ほかの職業も同じ条件である。
ちなみに、先の3つ以外では、弓を使うアーチャー、ワンドをもって精霊をあやつるスピリッチ、ムチをふるって動物類をあつかうアニマリティなどがある。
「フィラ~、何してんのさ」
「中級卒業試験にむけて勉強してんの」
「うわ、そんな冷たく言わなくてもいいじゃん」
「あんたねぇ」
必死になって練習しているフィラをからかうように話しかける少年。彼は、彼女と同級生だ。
「私は忙しいのっ。ロージャのように成績よくないんだから」
「なぁ~んだ、もしかして試験のことか。あんなもん初級魔法を中心にして進んでいけば平気だって」
「だーかーら、それの持久力を鍛えてんだってば」
「簡単じゃん。何ならオレがコツ教えるよ」
「気持ちだけもらっとく。私とロージャじゃあマジック・パワー違うし」
むくれた口からでる息に、純粋なうらやましさがにじまれている。それを知っているのか、ロージャはますますフィラに身をよせていく。
なお、マジック・パワーとは、魔法を使うときに必要な力のことであり、強弱はあるが生まれながらに持っている素質のことである。
「んまあ、たしかにそーかもしれないけど。知識として持っていてもソンはないよ」
「はぁ、そんなもんなの」
「そそそ。見ててみん」
軽い口調と同じように、ロージャは腰につけている筆をしまう専用の箱からものをだす。彼は指先でそれを踊らせながら小さな炎を描き、フレイム、とつぶやく。すると、火の外側が簡単に描かれたそれからは、フィラのものよりふた回りほど大きな火炎が放出された。
彼女は、彼が自分と格がちがうことにますます気づかせられる。
「フィラの場合、連発自体に問題があるんじゃなくって、絵の大きさだよ」
「お、大きさ」
「先コウにも言われたんじゃないか。描く絵が大きすぎるからマジック・パワーも余分に使わなくちゃいけなくなるって」
「う、うん」
「元はともかく、絵を小さく描けばそれだけ連打するスピードも上がるってワケ」
小さすぎも判定されないから問題だけどねー、とつけ加えるロージャ。まるでフィラより上級者の口ぶりだ。
「ロージャは今回の試験受けるの」
「フィラが受けるならそうする」
「な、何で私に判断させんの」
「んー別に、何となく。てきとうだよ」
「んもう。せっかく高いマジック・パワー持ってるのに何でそうなまけるかな」
「メンドくさいから」
刃物で切るようにいったロージャは、くちびるの形をタコのそれにかえながらそっぽをむく。彼の目は、口調とは逆の、青い光を宿していた。
「それよりさ、何歳で何やってもいいんだから急ぐ必要なくない」
「そんなことないよ。今のうちに力つけとけばナルニムに近づけるもん」
ロージャはため息をつく。
「あのさぁ。いつも言うけど、やめといたほうがいいって」
「何で。いいじゃない」
「んまさ、フィラの夢つぶすのはイヤなんだけどー。忠告しとく、これ以上近づかないほうがいいよ」
普段はしない真剣な目に、思わず引いてしまうフィラ。ロージャは怖がらせてしまったと思い、ごめんごめん、と話した。
「とにかくオレも受けるよ。あ、そうだ。どうせなら一緒に合格したいし、お守り持ってくる」
「え、あ、ちょっ」
フィラが何かを出そうとするのを待たず、ロージャは巨大化させた筆に乗り、飛びたっていった。
ロージャが帰ったあと、フィラは朝から続けている勉強を再開。つかみどころのない幼なじみはともかく、目的としている人物に近づくためだ。
しかし、彼女はいつもあのような態度に疑問を持っていないわけではなかった。そもそも、ロージャの家系は代々、高いマジック・パワーを授かることが多い。その力が高い、ということはつまり、魔法に関する才能がある、といっても過言ではないからだ。
しかも、ロージャの従姉弟にあたる人がめったに生まれないほどの強いマジック・パワーを天から与えられている。この事実は周知だし、本人も有名だ。
だからこそ彼は引け目に感じ、あのようにふるまうのかな。でも、このことは流れの問題であって、必ずしもその道に進まなければならないわけじゃないけど。
このように色々と考えが浮かんでしまい、フィラは試験対策に集中できなかった。1週間後には、憧れの人と距離をちぢめるチャンスがくるというのに。
「試験勉強かしら」
と、フィラは突然声をかけられる。見開いた器官をむけてみると、数人の中に何と希代なマジシャンのお顔があるではないか。
「今の時期だと中級試験かしらね」
「はは、はい、そいです」
「まあフィラったら。そんなに緊張しなくてもいいじゃない」
右手を口にそえながら上品に笑う女性。彼女は、ロージャと同じ金色の髪をなびかせながらフィラのほうへ歩いていく。
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