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携帯を機内モードにするデート A date with our phones in airplane mode

私は活字依存症だ。食事の時は調味料の原材料を読んでしまうし、電車に乗っている時もトイレの個室でもそこに掲示や文字があればそれを隅々まで読んでしまう。中国語が分からなくても、だ。孕婦という単語は電車の中で覚えた。YouTubeも動画の試聴時間よりコメントを読んでいる時間の方が長い。

スマホがなくても常に文字を追っているのに、そこにスマホが加わるともうひどい。活字依存症の人は共感してくれると思うが、我々はネットニュースやTwitterを1度開くとなかなか止められない。本なら章ごとに休憩がはさめるが、スマホの中の情報には終わりがない。とめどなく脳内に情報が流れ込んでくる。これはものすごく体力を消費する。

いつも通りタイムラインを眺めていたら(読むに近い)、彼氏に「またTwitter見てる。You are addicted.」と言われた。ハッとして時間を見ると家に帰って来て2時間が経っていた。バイトから帰って来て身体はすごく疲れているのに、それとは反対に目はずっと文字を追っていた。頭の中にゴミを溜め続けている感じですごく気持ちが悪くなった。

これはダメだ、良くないぞ、と思った。
そこで彼に1日中機内モードにして写真を撮る以外に携帯を使えないルールを設けて、今度のデートは美術館に行こうと提案した。そうすれば会話に集中できるし、作品にももっと集中できる。

結果から言うと、それが凄く良かった。

彼とは英語で会話するのだが、たまに英語でどう表現したら分からない時がある。そんな時は辞書で調べるか画像検索して説明するのだが、携帯が使えないとその都度ジェスチャーゲームが始まる。

彼が怪我について話している時、ligament(靭帯)という単語が出て来た。
その単語が分からなかった私に彼は「骨と筋肉をつなぐやつ」と説明した。それにも関わらず私はjoint(関節)と勘違いして、「関節が破裂って…怖!手足千切れる怪我ってどんな感じなの!?」と肘や膝がちぎれるグロテスクな図を想像していた。肘が爆発するジェスチャーをした時にお互い勘違いに気付き、私は新しくligamentという単語を学んだ。

いつもはすぐ携帯の辞書に頼っていたけど、自分の力で相手に伝える方がコミュニケーションが捗って楽しいな、と思った。

その日は台北市立美術館に行き、『摩登生活:臺灣建築1949–1983という台湾と中国の近代建築展を見た。模型や設計図と実際の建築の写真、動画が交互に置かれていて屋根の下の柱の組み方などが興味深かった。屋根の中なんて普段想像したこともなかったから新鮮だった。外格が皮膚だとしたら、内側の柱や壁は骨みたいだと思った。模型なんて国立西洋美術館でチラッとしか見たことがなかった。集中して見れたのもオフラインで世界と切り離されたからだと思う。

帰る前に絵を描くコーナーがあって、2人で一緒にチケットの半券に落書きして交換した。もし携帯があったら簡単なイラストなんかを調べて上手に描こうとしてたかも知れない。それはただのコピーなのに。100%想像に頼って描く方がオリジナル感があっていい。因みに彼が描いたのはペンとパイナップルとりんご、それとりんごに突き刺さったペン。PPAP。くだらん。

普段目的地までの道は音楽を聴くことが多いけど、携帯がないとそれもできない。だからその日は雨の音やバイクの音、飛行機の音も含めてBGMだった。普段の会話も携帯がないと集中して耳を傾けられる。

スマホが誕生して私たちの生活は桁違いに便利になった。iPodもカメラも携帯もゲーム機もパソコンも辞書も財布も持ち歩かなくていい。スマホだけで全てことが済む。しかし、それと同時に私たちの生活は窮屈になった。休みでも仕事や学校からの連絡に返事をしないといけないし、ソーシャルメディアを開けば画面の向こうに気を取られる。特にネガティブな情報なら最悪だ。自分の力ではどうにもならないことに一喜一憂して、理不尽なことに怒りが湧いてくる。

普段から人といる時は携帯を触らないよう気を付けていたが、ただ機内モードにするだけでこんなに集中力が上がるとは思っていなかった。今度から人と会う時はオフラインにして、携帯の代わりにデジカメを持ち歩いてみようと思った。


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