見出し画像

【不登校漫画原作】 phase B #本心

SIDE: 実香子

学校に行かない。
一切勉強をしない。
家から出ない。
友達とも遊ばない。
昼夜逆転している。
起きている間は一日中スマホを見ている。
お風呂もまともに入らない。
歯磨きをしない。
片付けなどもちろんしない。

私はとにかく頑張って我慢した。
小言をなるべく言わないように。
何か言おうものなら烈火の如く怒り狂うので、不要な諍いも避けたかった。

思春期反抗期の子は、何もわからずにやるべきことをやらないわけでは無い。
幼い子とは違う。
生活に関する事などを逐一言うことは逆効果にしかならない。
自分にそう言い聞かせて小言を飲み込んだ。

しかし何もしないでただ遊んでいるだけのように見える凛花を、ただ見守ることはかなりの胆力を要した。
私が何を言ったところで凛花が聞くわけもなく、本人が思ったことしかやらないのだから。
言っても仕方ないのだ。
繰り返し繰り返し自分に言い聞かせる。

そうやって我慢をしていたので、どうしてもイライラが溜まる。
些細なやりとりから、喧嘩になる。
あまりに理不尽なことをされ続けると、堪忍袋の尾が切れる。

その日も私はついに爆発して大げんかになった。
こんな言葉は今は言うべきで無い、という言葉が、うっかり口から滑り出た。

どうせアンタなんて何もしてないじゃない!
やるやるって口だけ言って、ウソばっかりでしょう!

凛花も爆発した。
凛花は泣きながら喚いた。

ママは何も分かってない!!
私が苦しんでいること、ママは全然わかってない。

私はみんなと同じことが出来ない。
普通になることが出来ない。
普通じゃないことが平気なふりしてるけど、全然平気じゃない。
本当は普通がいい。
学校に行った方が良いなんてわかってる。

ママはちゃんと学校に行って、仕事をして、お金を稼いでる。
ママがすごいことなんて分かってる。
ママが言うことが正しいなんてわかってる。
こんな子でごめんなさい。
普通に出来なくてごめんなさい。

夜寝ようとして部屋を暗くすると、怖いことばっかり考える。
、、だから、怖くて寝れない。
電気をつけっぱなしで、YouTube流しっぱなしで、寝落ちするようにして寝ないと寝れない。

YouTube見て、ゲームして、好きなことだけやってると思ってるでしょう。
そんなこと好きじゃない。
好きでやってるわけない。
ママが、凛花ちゃんが楽しそうにしてるのが一番嬉しい、って言うから、楽しそうにしようとしてるだけ。

本当は苦しい。
めちゃくちゃ辛い。
苦しくて苦しくて、これをどうやって紛らわせばいいのかわからない。
スマホを見て過ごすのが精一杯なんだよ。

外に出たくない。
人に会いたくない。
知ってる人も、知らない人も、会いたくない。
みんなちゃんとしてて、私以外のみんなはキラキラしてる。
キラキラしてる人に会いたくない。

ちょっとでも自分を好きになりたいから、可愛くなりたいと思ってる。
でも全然可愛くならない。

もう色々言わないで。
一人にして。
考えさせて。

凛花はそれから自室に閉じこもり、1週間、口も聞かず、顔すら合わせてくれなかった。
もちろんLINEは未読のままだった。

私は何も分かっていなかった。
凛花がこれほど苦しんでいたのだという事を。
そして凛花を追い詰めていたのは、他でも無い私自身であったという事を。

凛花ごめんなさい。
気づいてあげられなくてごめんなさい。
そんなに苦しいと思っていたなんて。
私は自分の事だけでいっぱいいっぱいになっていた。
私は一体凛花の何を見ていたのだろう。

SIDE: 凛花

自分の弱みを晒け出すことは、絶対にやりたくなかった事だ。
むしろ死んでも嫌だと思っていたくらいだ。
ましてやママに、自分の本心なんか、絶対に絶対に言いたくなかった。

でも言ってしまった。
自分が本当は辛いと思っていた事を。
友達にだって、言いたくなかった事を。

本心を晒す事がどうしてこんなに嫌な事なのかは分からない。
負ける気がするからだろうか。
とにかく嫌だった。

ママは泣きながら謝っていた。
ママが悪いんじゃないことなんて私はわかっていた。
でも私はそんなママに無性に腹が立った。
何を今更偽善者顔してるのかと思った。

しばらくママと顔を合わせたく無い。
ママが家にいる間は部屋から出ないようにした。
作ったものも置いてあったけど、それには手をつけなかった。
お金も置いてあったから、お腹が空いたら自分で食べ物を買いに行った。

ママからLINEも来ていたけど、未読スルーした。
ママは、リビングに毎日手書きの手紙を置いていた。
最初の手紙にだけ、返事を書いた。
ママを傷つけるであろう言葉を書いた。

その後は何も書かなかった。
リビングの目立つところに毎日長文の手紙が置いてあるから、読むだけは読んでいた。
毎日よくやるなと思った。
ママが悪いんじゃないのに。

苦しみをぶちまけて、ママを無視して、私はずっと部屋に1人で閉じこもっていた。
寝ている時間も長かった。
自分が、わがままで、甘ったれな、ただの子供だということは、誰よりわかっている。
自分が、とても恵まれた環境にいることも知っている。

食べることや、寝る場所に困るわけではない。
安全に怯えて日々を送らなければならないわけでもない。
ママは、色々わかってないけど、私の事を大事だと思っていることは知ってる。
ゲームも、スマホも買ってくれた。
塾に行きたいと言えば行かせてくれた。
私は贅沢な環境にいる。
なのに、なんで私はこんなに何もできないのだろう。

最初の数日は、絶対にママと話したく無いと思っていた。
でも、だんだん、なんだかどうでもいい事のようにも思えてきた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?