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【不登校漫画原作】Phase C #毎日を楽しむ

SIDE: 実香子

私は日々学んだ。
凜花の苦しみを知ったことが一番のターニングポイントだった。
凜花は私とは違う。
凜花の生きる時代も私とは違う。
私はこれまでに私が良いと信じてきたものを沢山手放さねばならなかったけれど、私の人生が根本から覆されたわけではない。

凜花は自分で自分の人生を選ぶ。
学校に行かないという選択は簡単なものではなかったはずだ。
本だけでなく、ブログや、YouTubeでも学んだ。
実際の経験者の声も聞いた。

Twitterには不登校に悩む親の言葉が溢れていた。
不登校になる子の状況は千差万別だけれども、親の悩みには共通点が多いと思った。
たまに、不登校の子本人のつぶやきもある。
不登校の子がいかに苦しんでいることか。
元不登校経験者の言葉は、一つ一つがとても大きな学びとなった。

子に「明日が来てほしくない」「生きていたくない」と思うような日々を過ごして欲しくない。
人生は、生きていれば楽しいことがある。
と思って過ごしてもらいたい。
学校や、勉強や、自立というようなことが子を追い詰めて、人生を絶望するような気持ちにさせるくらいなら、そんなものはいったん全て取り払わねばならない。

いつもとても忙しそうなのに、常に明るくエネルギッシュなその先生は言った。
「患者さんは弱っているからね。僕が元気にして、明るくしてなきゃダメなんだよ。僕が患者さんにエネルギーをあげられるくらいでないと。」

悩み、苦しんで、弱っている子に対して、私が出来ることは何か。
少なくとも、子のことで悩み、辛いと苦しんでいる親の姿を見せることではないはずだ。
凜花への心配と不安に囚われた私の姿は凜花の苦痛を助長するものでしかない。

私が思っている以上に、凜花は私のことを見ている。
私がまず、私の人生を楽しまねばならない。
誰かが教えてくれたように、私自身の人生を充実させることが最優先だ。
私が楽しそうにしていることが、凜花にとって重要なことなはずだ。

凜花のことが心配にならない日はない。
産まれる前からずっと心配だったのだから。
しかし、自立しようとする思春期の子にとって、「親の心配」は「信頼されていない」ことと同義に聞こえる。

色んな人からの「大丈夫」、という言葉が、私を勇気づけてくれた。
「過去と他人は変えられない。変えられるのは自分と未来。」
これが私の座右の銘だ。

凜花のために、ずっと早々に仕事を切り上げていたけれど、それをやめた。
好きでやっている仕事だから、残業は苦ではない。
むしろ時間を気にせず残業が出来るのはとても助かる。
休日に出勤することもあるけど、納得がいくまで作業が出来た方が良い。

デスクワーク中心の仕事なので、慢性的な肩こりに悩まされいたた。
朝のジョギング(殆ど散歩だ)と軽いストレッチを始めたら、肩こりと頭痛から解放された。
昼夜逆転して朝まで起きている凜花と早朝の散歩に行くのも楽しい。
一緒に散歩をすると、凜花は驚くほど饒舌にお喋りしてくれる。

凜花からリクエストがあった時以外は、凜花の食事の支度を特にしないので、朝の時間も夜の時間も比較的ゆっくりできるようになった。
凜花の好きなもの、薦めてくれるものは食わず嫌いをせずに全部試すようにしてみた。
漫画もアニメもYouTubeも、ちゃんと見ると面白いものだ。
凜花とお喋りをするネタが増えて楽しい。

職場の人にも、友人にも凜花の話をするようにした。
私があっけらかんと「うちの子学校に行って無いんですよね。」というと、一瞬驚くけれども、みんな普通に話を聞いてくれる。
昼夜逆転が固定の時はまだよくて、時間がどんどんずれるほうが面倒だとか、お風呂に何日も入らなくて、シャンプーを何日しないことに耐えられるかチャレンジをしていた、というようなことを明るく話すと面白がって聞いてくれる。

凜花が私と過ごしてくれるとき、一緒に散歩をしたり、一緒にYouTubeやアニメを見ているとき、私は凜花と過ごす時間を楽しもうと思った。
きっと何年も経ってから、暗闇の中の嵐のような苦しい時間を乗り越えたあと、凜花と過ごした穏やかな時間はとても貴重な時間だったと思い出すに違いない。
小さな凜花を育てているとき、「子供が小さい時は大変だけど、本当に幸せな時期なのよ」と多くの人に言われた。
思春期を迎えた今も、一緒に過ごせるこのひとときは私の幸せな時間なのだ。

凜花はもちろん今でも学校に行かないし、一切の勉強もしない。
しかし、私が凜花の不登校をいったん受け入れて、一切の登校刺激や、普段の生活の小言を言わなくなり、私が日々をくつろいで過ごすようになったら、凜花はだんだんと落ち着いてきた。
小言や登校刺激を我慢して言わないようにしていた時はまだ全然ダメだった。

荒れ果てていたあの頃が嘘のように、凜花は穏やかに日々を送るようになった。
あれだけ反抗し、暴言や暴力がひどかったのが嘘のようだ。
まだ14歳で思春期なはずだけれども、反抗期を過ぎたのだろうか。
魚を飼い始めて、昼夜逆転をなんとか戻そうと自主的に頑張り始めた。
幼馴染と連絡を取り合い、幼馴染の家に時折遊びに出かけるようになった。

この先どうなるかはまだ何も分からない。
夜明けが見えないと思っていたし、出口が見えないと思っていたけれど、ちゃんと夜が明け、嵐は止んだ。
私と凜花を乗せた船はどこに向かっているのかは分からない。
陸地はまだ見えない。
私は凜花を日々愛でて、毎日を楽しもう。








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