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築38年の家を出る。

当日は6時過ぎに起き、まだまだ荷作りの疲労が癒えていない身体をひきずって着替えを済ませた。
洗濯カゴに45リットルの透明袋をはめて、前日出た汚れものの衣類や最後まで使っていた洗面用具なんかはそこにぶち込んでおく。
朝食用にと、前日に買っておいたバターロール(5個入り)を奇数だが喧嘩することなく食べ、またぬくもりが残っている布団に潜り込みたい気持ちを堪えて、それを布団袋に押し込んだ。

約束は8時。ほぼ定刻通りに引っ越しスタッフは若い男性2人組でやってきた。なるほど、うちくらいの荷物の量だとスタッフ2名なのか。特別にこやかなわけではないが、かといって「愛想ないなぁ」という感じもなく丁度良い温度感の2人だった。そう思っているのもつかの間、運び入れた段ボールをどこに置くかとか自転車はないかだとかそういうことを手短に話した後、積み込みが開始した。
荷作りはほぼ全部終わっていたので、専用のハンガーラックに自分たちで洋服を入れ込む以外は特にやることもなく、ましてや部屋の中をうろうろしていては邪魔になってしょうがないので、寝室に置いたままのマットレスに小さくなって座っていた。時々、荷物に関してわからないことを聞いてくるくらいで、終始スタッフさんは黙々を作業をしていて、前回引っ越し業者のオジサンに怒れながらパッキングした私からすると「なんていい人たちなんだ……」と感動したのである。

「素手で運ぶんや」「軍手とかないほうがやりすい人もおるんよ」などと、私たちは寝室から作業を覗きながらどうでもいい会話をしてみたり、無駄に窓から外の景色をぼーっと眺めてみたりして過ごした。

全ての段ボールと家具・家電が運び出された時、「こんなに広かったんだ」とリビングを見渡してそう思った。
築38年の66㎡、2LDK。エアコン・追い焚き・モニターホン付きの家賃6万円。
確かに古い箇所はあるが、アラフォーを思わせるほどの古さはそれほど感じられず、しかもお互いの職場に近い。当時3件ほど内覧した時にひとめ見てここに即決した記憶がある。
埃とか黄砂がすごい、たまに勃発する隣マンションの夫婦喧嘩が騒音レベル、風呂に黒カビが生えやすい、という点以外は住みやすかった。主要駅が近いし、なによりバス・電車の交通の便が良かった。駅周辺や市内で飲んでも、遅くまで何本もバスが通っていたし、最悪タクシーもつかまりやすい場所だったので、プライベートを充実させるのにここの立地は大きく影響していたのである。

結婚してほとんどの月日をここで過ごしたので、後々思い返す時も記憶に濃い住まいとなるだろう。

家




冷蔵庫と洗濯機が部屋から運び出された時、露になった埃の大群にだいぶへこみはしたものの、それ以外は問題なくトラックに全て積み込まれた。

契約していたのはおそらく2.5トントラックで、買ったばかりのクイーンサイズのマットレス、ベッドフレームとソファが果たして入るのかという不安(見積り段階でまだ家になかったので、口頭では伝えていたが)があったが、無事クリアしたようだ。だいぶぎゅうぎゅうで、「ギリギリですね」と言われる始末。写真とっときゃよかったなー。積み込みも入れる順番とか、テトリスみたいにちゃんと考えないといけないのだろう。本当にうまいこと積んでくれたスタッフさんに感謝。

では準備整い次第出発しますんで、と業者さんに言われたのは11時頃だった。

さようなら。思い出深きマンション。本当に、健やかなるときも病める時もお世話になりました。

退去清算は引っ越し1週間後なので、掃除はその時きちんとやることにして、私たちは足早に思い出のマンションを後にした。


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