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【詩】なんら躊躇いもなく歩を進める

何年か前に、猟師をしている友人と長野県の山に入った時のこと。本当に冬の山は静かで、ぴぃーんと張り詰めた緊張感があった。アナーキーでオルタナティブ。なんのことかわからないけど、ここに、書き散らかした文章と写真を残します。

遠くから吹く風


遠くの谷から風がゆっくり吹いてくると、木々は揺れ、
枯れ枝に積もった雪を振り落とし、熊笹がカサカサと音を立て、
まるで山全体が風に呼応しているかのようである。
その自然現象からは独特のリズムさえも聞こえてきそう。
不規則でありながら調和のとれた心地よいリズム。
山の声に耳を澄ませる。



山の寝息


冬の山が静まり返った様子を、「山眠る」と表現する。
山も谷も空も静寂に包まれたとき、微かな風が地を這うように通り抜けると、何とも言えないからからとした侘しい気持ちになる。つげ義春じゃないけれど、「僕は今こうして山の中にいるんだなあ」と思わずにはいられない。
辺りを見渡すと寂寥の白で、モノクロームに編集された山々が浮かび、しんしんと雪の降る音だけが、山の寝息となって聞こえてくる。


石仏

自然の岩に石仏が彫られている。そのすぐ近くには、岩によって自然形成された穴と呼べるだけの隙間があった。岩の隙間には熊が冬眠していることがあるそうだ。そういえば、ここまでの道中でもしばしば石仏を見かけた。人の名前が彫られたものや、どこか一部分が欠損したもの、中には首から上部がないものもあった。いつからそこにあったのか。きっとこの先もじっと動かず山河を俯瞰し、侵食する苔にも逆らわず久遠の世界を漂流するのだろう。


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