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=LOVE『あの子コンプレックス』、音の跳躍でたどる劣等感の突然な爆発

=LOVE楽曲『あの子コンプレックス』の「mucome」ピアノ譜を見てみると、歌詞における音程の跳躍は3度・4度・5度が何回かある程度で、基本的に2度ずつ音が高くなることが分かる。失恋を味わっている女の子の心が不安定であることは歌詞で十分表現されており、楽譜的には四分音符や八分音符の少なさに表れている。

この曲にある5度の跳躍は以下の通り。

1. 
イントロ5小節目ラ レ♭ ミ ラによる和音
2. 
「未練があることだけが気付いて 泣いている」の「空(そ→ら)」
3. 
「それでも海を孤独に彷徨う」の「彷徨う(ま→よ)」
「あなたに導かれて 雪になる」「に→な」
4. 
「足りないもので 溶かして」の「か→し」
「目を逸らさずに言ってよ」の「言って(いっ→て)」
5.
「宝物じゃないなら
事にしないでほしい」の「じ→に」
6.
「あの子に 触れているのでしょうか?」の「る→の」

この6つの5度跳躍でも歌手としては「あー結構音が飛ぶのね」という印象を持つ。「決断したようで未練がある」「私の目に映ってる/あなたは嘘をついてる/あなたに映ってる/私は知らないふりした」と意地を張る彼女は、歌詞の終盤「Ah あの子コンプレックス」で初めて10度跳躍の声を出してしまう。

10度の音程跳躍はこの1カ所で、その後「沈んでも沈んでもいい/それでも恋は走って行くから」で9度音程を跳ね上げるだけ。

歌詞や音型で心が揺れまくる『あの子コンプレックス』だが、音の10度・9度跳躍は全体で2回。相手の男性の心移りに気付いていないふりを自分で静かに認め、妙に落ち着いている姿が跳躍の少なさに映し出されている。歌詞全体で「あの子」が出てくるのはたったの2回。恋愛であの子に負けた辛さを隠していたのが、最後の「Ah あの子コンプレックス」で一気に噴出。

「私の彼」のハートを新たに射止めたあの子が気になって仕方がない。仕方がないのに隠しまくって最後に全ての感情として表れ、「私」の感情の波は止まない。音が跳ね上がったからといって私は落ち着いているわけでないし、彼を諦めたわけでもない。『あの子コンプレックス』では解決しない女の子の感情のぐちゃぐちゃが歌詞、楽譜の両方において絶妙バランスで表現されているといえる。

私とあの子とを比べて自分が劣っていると感じて、私の方が可愛いのに! とは思わない彼女の心はそのまま海の中へ沈む。気持ちが沈むときはそのまま沈んだ方が楽だと感じる人が、劣等感を感じてそこから抜け出せない状態を歌詞と共有して、いつかまた次の何かに踏み出せるときが来るだろう。

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