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ショートショート 若津仰音

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若津仰音の超短編集です。詩やショートショートを収録したマガジンです。
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2021年7月の記事一覧

【超短編】雨に真似る

【超短編】雨に真似る

窓際に立っていたM教授に、完全オリジナルで作ったイヤホンを見せたところ、彼はいかにもつまらなそうに鼻をほじった。

「オリジナル、とかいう前置き、いらんで」

今度はケツを掻きながら、大きな欠伸をひとつした。

「イヤホンでもメガホンでも、それを100に分解できるとして、そのなかの1/100でも、オリジナルってものは存在せんでな」

そう言ってこちらを振り向いたM教授の顔は、窓からの逆光で真っ暗だ

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【詩】とんとチンとカン。

【詩】とんとチンとカン。

とん、チンとカン。

魚の群れが、二手に別れ、またその先で合流した。

とん、チンとカンカン。

着地した流木に、運よくカメが乗っかってて、適当に挨拶をした。

「誰も知らねえんだよな」

呟いたことばは、幸い無視され、ことばが Blowin' In the Wind。

とんとん、チンカン、トン!

あらゆる角に端に隙に、無名のキズが、模様をなす。

そこまでして見たかった景色は夢は、聴きたかっ

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【超短編】ティッシュのさきっぽ

【超短編】ティッシュのさきっぽ

ボックスティッシュは一枚出すと、次の一枚が顔を出す仕組みになっている。

ティッシュの口から一枚分の面積の半分ほどが、へなりと出ている、常に。

ヘンデルはそれが許せなかった。

「くそっ!なんでやねん!」

ティッシュをひっぱり出すたびに、次のティッシュを丁寧に箱の中に戻した。

そしてヘンデルは考えた。思いついた。作り出した。生み出した!

ボックスティッシュのさきっぽが出てこないように制御す

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【超短編】アブラカタブラ

【超短編】アブラカタブラ

アブラカタブラの隅っこには、宛てのない絵葉書がころがっていた。

「ただでさえ忙しいというのに」

吐き捨てるように言ったことばは、それほどエキゾチックでもなかった。

アブラカタブラらしくない、と、彼はおもった。

らしくなくても、自分のほんとうの気持ちを言えたのだから、それでいいじゃないか、とも思った。

足を磨き、靴を投げ捨て、頬杖をついたあたりは、耐え難いほどの日陰だった。

「耐え難くっ

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