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かわいそうな石原さとみを鑑賞する映画 | 映画「ミッシング」感想

⚠️ネタバレあります

 たまたま平日休みになったので、何かいい映画ないかなと思って上映予定見て目に止まった映画。

 この予告編を見てちょっと興味が出てきたので、見に行くことにした。予告編からして日本の映画にありがちな感動押しつけ系かなあ、とも思わないでもなかったけど、実際に見てみるとそんな心配は杞憂だった。感動なんてなかった。

あらすじ

とある街で起きた幼女の失踪事件。
あらゆる手を尽くすも、見つからないまま3ヶ月が過ぎていた。

娘・美羽の帰りを待ち続けるも少しずつ世間の関心が薄れていくことに焦る母・沙織里は、夫・豊との温度差から、夫婦喧嘩が絶えない。唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田を頼る日々だった。

そんな中、娘の失踪時に沙織里が推しのアイドルのライブに足を運んでいたことが知られると、ネット上で“育児放棄の母”と誹謗中傷の標的となってしまう。

世の中に溢れる欺瞞や好奇の目に晒され続けたことで沙織里の言動は次第に過剰になり、いつしかメディアが求める“悲劇の母”を演じてしまうほど、心を失くしていく。

一方、砂田には局上層部の意向で視聴率獲得の為に、沙織里や、沙織里の弟・圭吾に対する世間の関心を煽るような取材の指示が下ってしまう。

それでも沙織里は「ただただ、娘に会いたい」という一心で、世の中にすがり続ける。
その先にある、光に—

公式より

 一言で、「娘が失踪してもがき苦しむ夫婦の話」で説明できてしまうほどシンプルな話ではあるね。

感想

 よかった。今年一番に刺さった映画かもしれない。何が良かったかというのは非常に難しい。単純に見てスッキリするタイプの映画ではないし、ストーリー的な仕掛けとか、どんでん返しみたいなのはないし、最後に真相がわかるような映画でもないし、アクション的な見どころも当然ない。娘が失踪した夫婦がもがき苦しむのをただひたすら見せつけられるんだよね。この映画は心をえぐってくる。

 娘が失踪した夫婦が体験する地獄。娘が死んだわけでもないのに、誰かが殺人犯だったというわけでもないのに、夫婦はひたすら苦しめられ続ける。地獄としか言いようがないんだよね。この夫婦は悪くないのに、とにかく辛い。娘に会いたいって言って行動しているだけなのに、何故か世界は優しくない。ものすごい残酷なんだよね。

石原さとみすごい

 とにかく石原さとみ。石原さとみの映画だった。石原さとみの凄さに圧倒させられた。この映画について、これ以外語る必要がないんじゃないかとさえ思う。

 石原さとみは失踪した娘の母親役。Wikipediaで調べたら現在37歳だから年齢的にはぴったりなんだね。何がすごいって、こんな人いそう感がハンパないんだ。(めちゃくちゃ美人である点を除けば)ちょっとガラの悪そうな元ヤンの美人ママって感じ。昔、目撃ドキュン(古い)にそういう人いっぱい出てた気がする。

 この映画、母親の沙織里が引くほど追い詰められるんだよね。あまりに追い詰められて、石原さとみが壊れていく様子がたっぷりと時間をかけて伝わってくる。映画が始まった時点で、娘が失踪して3ヶ月過ぎていて、ロクに手掛かりもなく、世間の関心も薄れてすごい焦っている。余裕がなさ過ぎて、周りへの配慮も全然できなくなっているんだけど、そこからさらに何段階も追い詰められる。

 世間の無関心、警察への不信、マスコミの報道姿勢、ネット民のバッシング、ネット民からの監視、家族関係の悪化。普通の人にあるはずの優しさなんかはあっという間に削り取られてしまう。オープニング等では本当は良い家族だったはずなのに見る影もない。どんどん余裕なくなっていってヒスってしまう。そんな感じの悪い母親役が本人役なのかと思えるぐらい、石原さとみにハマっていた。

 一番ヤバかったのは、娘が見つかったと警察から電話が入って、大喜びで警察署まで駆けつけた結果、イタズラ電話だと判明する場面。それまでの溜まりに溜まった感情が爆発して石原さとみが壊れるシーン。声ではなく、聞いたことのない音が石原さとみの口から出てくる。とんでもないものを目撃しまったという罪悪感を観客に押し付けてくる。

 フィクションだけどあのシーンだけは本当にひどすぎる。娘を探して心をすり減らし続けボロボロになった夫婦にする仕打ちなのか。「人の心とかないんか?(画像省略)」とマジでツッコミを入れたくなる。可哀想な美人フェチの人はあのシーンだけで飯が10杯食えるレベル。

 他にもネットで情報提供者が現れたので、わざわざ沼津から蒲郡(静岡の東側から愛知の中央付近)まで出かけていったのに、情報提供者がアカウント削除で逃亡したのもなかなかひどいエピソードだった。映画には現れないああいう積み重ねが山ほどあったんだろうね。だから壊れてしまった。

 あとは、失踪の原因を作ったダメダメな弟に対する接し方もものすごいリアリティーがあった。ああいう身内に対してめちゃくちゃヤンキーじみた態度とる感じ既視感あるよね。どっかで見たことある。あの既視感のある感じは誰がどうやって演出したんだろう。石原さとみの素の演技だったらすごい。

 とにかく石原さとみを見に行く映画だと思う。

その先にある光とは

 公式サイトや予告編で「その先にある、光に」というフレーズが出てきて、夫婦に希望があるような表現になっているんだけど、どうもここがしっくりこない。最後の最後まであの夫婦は救われていない。だって娘見つかってないよ? 失踪から二年経っても探し続けてるよ? いうほど希望があるような状況? あの夫婦はこれからもずっと見つかるまでビラを配り続けるんだ。そして、たぶん今後も見つからない。地獄継続。砂漠で井戸を掘るようなものだよ。

 あの夫婦は娘がいない生活に、娘を探し続ける生活に慣れてしまい、すぐに娘が戻ってこないことを理解し、焦ること怒ること憎むことに疲れ果て、冷静さや穏やかさを取り戻し、半分ぐらい諦めて受け入れてしまったんじゃないかと思う。果たしてそれは光だろうか。地獄に慣れてしまっただけではないのか。

 この物語はフィクションだけど、日本中にこの夫婦のように失踪した子供を探し続けている人たちは存在することを考えれば、この映画をただエンターテイメントとして消費していいのだろうかというのはあるよね。

マスコミの葛藤

 よくあるテーマなんだけどさ。数字の取れる報道が評価され、社会の役に立ったり、真実を求める報道が評価されづらい。そして、報道の拡散力が持つ暴力性、扇動性。マスコミを扱う物語ではよくあるタイプの葛藤なので、特に思うところはなかったかな。まあ、マスコミなんてものは自分たちの持ってる力を自覚して常に葛藤しているぐらいがちょうどいいと思う。

おわりに

 石原さとみが好きな人ほど見に行ったほうがいいんじゃないかと。なかなかメンタルにダメージを与えてくる映画なので、映画館で一気に見た方が楽しめると思う。

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