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相変わらず嫌な話を作る作者 | 雨穴「変な家2 〜11の間取り図〜」感想

 ⚠️ 確信部分のネタバレは避けていますが、話の内容には触れています。

 変な家2。2だから前作がある。この作者の出版してる3作品全部読んでる。変な家、変な絵、変な家2の3作品。雨穴の作品結構好き。

あらすじ

あなたは、この「11の間取り」の謎が解けますか?
前作に続き、フリーライターの筆者と設計士・栗原のコンビが不可解な間取りの謎に挑む。

1「行先のない廊下」
2「闇をはぐくむ家」
3「林の中の水車小屋」
4「ネズミ捕りの家」
5「そこにあった事故物件」
6「再生の館」
7「おじさんの家」
8「部屋をつなぐ糸電話」
9「殺人現場へ向かう足音」
10「逃げられないアパート」
11「一度だけ現れた部屋」
後編「栗原の推理」

すべての謎が一つにつながったとき、きっとあなたは戦慄する!

https://www.asukashinsha.co.jp/bookinfo/9784864109826.php

とりあえず前作の話

 前作、変な家はAmazon見てる時に偶然目に入って、あらすじを読んで気になったので買った。とはいっても、気になるだけの理由があった。

 その頃、怪談界隈では松原タニシの「恐い間取り」が流行っていた。事故物件住みます芸人の松原タニシが実際に事故物件に住んで体験したノンフィクション。映画化をして一気に一般化したけど、あまり一般知名度は高くないと思う。

 これを知っていたので、僕はてっきり「変な家」がノンフィクション作品なのかと思いこんでしまっていた。なぜなら、本の表紙に間取り図が載っているから、恐い間取りのパクリというと言葉が悪いので、インスパイア系の本なんだと思って買ったわけだね。だから、実話系作品で実在する変な家をテーマにした作品だと思いこんで読み始めた、ということになる。

 で、読んでいってみると……。「なかなか面白いけど、これフィクションじゃね?」と序盤を過ぎたあたり疑念が浮かび上がり、中盤あたりで「これ100%フィクションじゃねーか!」と気づいてしまった。実話を読む気満々だった僕は怒り心頭で、「金返せ!😡」となったわけだけど、6秒経って(アンガーマネジメント)怒りが収まると、「よくよく考えてみると、なかなか面白いし、とりあえず最後まで読んでみるか」という気分で読み続けることになった。

 そして最後まで読んだ結果、「面白かったけど、なんて嫌な話を考える作者なんだ!」という感想にいたった。間取り図を使った仕掛けと、その先に展開される話がぶっ飛んでて、ついつい先を読み進めてしまう面白さがあった。だけど、冷静になって考えると、この人の作る話ってのは本当に嫌な話なんだ。テンポよく話が進むからあまり考えないんだけど、読み終わったあと、話を思い返すと「後味悪っ!」となる。

 そして、セリフが対談形式になっているから、すごい読みやすい。小説形式で「◯◯は頬をポリポリとかきながら言った」みたいなかったるい地の文が入らないからスラスラと読める。テンポがいいんだね。もちろんどっちの表現が優れているという話ではなく、小説読むのがだるい(老化)昨今ありがたいという話。

今作の感想

 あらすじにある通り、11個の間取りに関する謎を解明していく短編集になっている。一つ一つが完全に独立した話なのかと思って読んでいったら、特定のキーワードで緩やかに繋がっていることが段々と分かっていく。2話目の途中で、「ああ、これは最後にすべての事件の真相が明らかになるタイプのミステリーだな」と早々に見抜いて悦に入っていたわけだが、なんのことはない。あらすじに書いてあった。

すべての謎が一つにつながったとき、きっとあなたは戦慄する!

あらすじ

 まあ、前作の「変な絵」(これも本当に嫌な話)でも、無関係と思われた絵が一つに繋がる話だったしね。この作者は、そういうバラバラに散りばめられた話を一つに繋げるのがすごい上手だね。こういう構成力ってどうやって養うんだろうね。先に本命の事件を考えて、それに繋がるように枝葉の事件を考えていくんだろうけど。間取りを絡めたネタをそんな簡単に思いつくはずもなく、作者は本当にすごい人だと思う。前作の絵を絡めたネタも普通思いつかないよ。

本当に嫌な話ばかり

 なんだろう。嫌な話って表現してばっかりで具体的なことを何も言ってないんだけど、例えるなら、ニュースを見ていて「嫌な事件だなあ」って思えるような事件ってあると思う。例えば、日々のニュースで、老老介護で長年連れ添った奥さんを殺した老人、みたいな事件とかたまに出てくる。こういうニュースを見ると、この人たちの人生はよくわからないけど、ホント大変で辛いことがあったんだろうなと、想像してしまって暗い気持ちにさせられる。これが嫌な事件。注意しなければ見過ごしてしまうけど、意識すると本当に嫌な気分になる事件。この作品(正しくはこの作者の作品)では、そんな感じの嫌な事件が大量に出てくる。

例えば2話目の事件

 2020年、静岡市葵区の北部で、当時16歳の少年が、家族を殺害するという事件が起きた。
 被害に遭ったのは、仕事で外出していた父親以外の家族全員……津原少年の母親、祖母、弟の3人だった。母親の叫び声を聞いた、近隣住民の通報によって警察が駆けつけたが、そのときすでに3人は死亡しており、津原少年は無抵抗なまま拘束された。

資料②闇をはぐくむ家より

母親……台所に倒れている状態で発見。胸部に1か所刺し傷があり、衣服にはもみあった跡があった。

祖母……自室で布団に横になり、目をつむった状態で発見。体にかけていたタオルケットの上から、複数箇所を刺されていた。足が悪く、歩行が困難だったためか、一切抵抗することなく、死亡したものとみられている。

弟……台所の入口で倒れている状態で発見。腹部には包丁が刺さっていた。

資料②闇をはぐくむ家より

 こういう事件があって、家の間取り図とともに事件を読み解いていくんだね。本当はどんな事件だったのかって。

 読んでいくとさ、この事件の真相にばっかり目が行くわけなんだね。つまり、ミステリー的な謎解き。ミステリーだから、そういう見方は正しいんだけど、冷静になって事件を受け止めてみる。するとどうなるだろう。

 父親、母親、祖母、兄、弟の家族が住んでいる家がある。父親の外出中に兄が母親、祖母、弟を殺してしまう。帰ってきた父親はどうすればいい? 家族全員が目の前から消え失せ、家は大量殺人現場になり、被害者家族になり、加害者家族にもなる。マスコミがめちゃくちゃな記事を書き、近所であるとこないこと噂され、まともに働くこともできず、退職を余儀なくされる。辛い時に寄り添える家族はもういない。しかも、殺人犯の兄はまだ生きている。裁判もある。ロクに生活の見通しも立たない。住宅ローンもある。家は売れない。まさに地獄。辛すぎる。

 冷静に受け止めるとこんな事件なんだよね。もちろん、殺された側、殺した側の事件前の生活に寄り添った想像もできる。そういうレベルの事件。このネタで長編小説書く人だっているかもしれない。でもこの作者はさらりと一つの事件としてねじ込んでくる。エゲつない。

受け止めるべきなのか、ミステリーとして流すべきか

 世の中のミステリーってのは、酷い事件ばっかり描くわけだよね。他の作家もね。インパクトが大事だから、人の命とかよりも、面白い話を作るのが大事。面白いトリックで人を殺すのが大事。作品中の人死になんてなんとも思ってないまである。

 これは読者も同じかもしれない。ミステリーマニア的な人たちは、トリックの良し悪しを語りがちだ。完璧なトリックほど評価が高いようだ。トリック中心主義の人が多いのかもしれない。

 僕はミステリーマニアではないから、トリックとかミステリー的な謎解きはどうでもいいわけだよね。話のスパイス、話を読み進めるための推進力でしかないと思っている。トリックの出来が凄くても、正直、「ふーんすごいじゃん」なんだよね。

 僕は物語の方が大事だ。好きなミステリーは全部探偵のキャラクターが好き。探偵が嫌いなミステリーのシリーズは読まない。トリックがどんなに優れていたとしても。だから、僕はトリックや謎に大して関心がない代わりに、物語やキャラクターを重視するし、こうして話の中の事件に寄り添ってみたりする。

 そして、この作品を読んで、嫌な話ばっかりだ!という結論にいたるんだね。

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