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妹がツンデレ過ぎてまともな恋愛が出来ません! 第19話

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第19話 「まさかの三角関係!?」

「なぁなぁ、忍。お前T高の帆宮ちゃんとお付き合いしてるってマジ?」

「んぁ? 一体どこからその情報出てくるんだよ」

 楽しみにしている昼飯時間。いつものように前の席に勝手にどかっと座りニヤニヤ顔でおにぎりを持ってきた雄介を見る。
 リア充の雄介は人の恋愛事情によく介入してくる。モテるからってお前みたいに付き合う女をコロコロ変えたりはしない。意外と一途なんだよ俺は!
 紹介とは言え、出会った栞はまさに俺にとって最高の相手だった。
 気さくで裏表がない。それに空気を読むのも上手いし何よりも一緒にいて居心地がいい。そして羽球をやっている!
 性格が合うとか、趣味が合うとか何かしら共通点が無いとお付き合いするのはまず無理だろう。
 問題は、まだ告白した訳じゃないからただの”友達以上恋人未満“なんだけど。

 先日栞が言っていた言葉がまだ耳に残っている。



だって麻衣ちゃんに勝たないと忍とお付き合いできないでしょ?」



 俺って、栞に好かれてたのか?
 女の子に好意を持たれている事がとにかく嬉しい。俺の周りにはツンデレとヤンヤン(デレはない)の属性を持った妹しか居ないので、普通の女子というものが分からない。

 思わずデレっとしてしまい、雄介に「忍が壊れた!」と笑われてしまった。そんなに俺ってデレデレした事無かったっけ。
 給食のスタッフが減った事で母さんはさらに朝忙しくなってしまい、家に居る時間は夜くらいだった。今は顔を合わせる事も少ない。
 だからと言って子供放棄しているわけではなく、弁当のおかずや仕込みはしてくれているし、俺と麻衣の弁当は作ると言ってくれたのだが、それを麻衣が頑なに拒んだ。

 「お母さん、仕事忙しいから私が兄貴の弁当も作るよ」と可愛い娘に言われたらそりゃあ母さんも涙するしかない。
 俺には「アンタこんなに可愛くて優しい妹がいる事を誇りに思いなさい」なんて言う始末。

 毎日色取りよく作られたお弁当は一体何時に起きて作っているのか。羽球の朝練もあるというのに、完璧にこなす麻衣には頭が上がらない。

「──お前、麻衣ちゃんに愛されてるんだな」

「んだよ、シスコンの道連れにする気か弘樹」

「そうだそうだ! 忍がリア充とかウザくて敵わん。お前は妹チャンとイチャイチャしてろ」

 冷たい友人達は俺の恋人候補の出現をあまり快く思っていなかった。男の友情なんてこんなもんなのか、薄情め!



******************************



 俺は今日もT高校の体育館を訪れていた。ちらっと中を覗くと端の方で羽球部がコートを使って練習している。

「おっ、忍。来てくれたのね! ありがとう。今日もよろしくね~」

 ツインテールをお団子にした栞は、白いTシャツにハーフパンツで練習していた。中に着ている黒のキャミソールが汗で透けてしまっているので、少しだけ目のやり場に困る。

「俺がこっちばっかり贔屓ひいきしてたら、真里菜様に超怒られるんですけど……」

「三上ちゃん? 仕方がないでしょ、うちの羽球部だってそんなに強くないし」

 栞が在籍しているT高校羽球部は“そんなに強くない“と言う割に、一部の強メンバーのお陰で地区大会には毎年名前を連ねている。
 今日は基礎基本の1人打ち練習について後輩にレクチャーする事にした。地味な単調作業だけど、これが基本。
 フォアハンドでシャトルをぽんぽんと天井に向けて高く上げる。この一定の動きを全員にさせる。残ったメンバーはコートで打ち合いをしていた。俺も手持無沙汰だったので、栞のラケットを借りてシャトルを打ち上げる。

「おい、あの子! S女の制服着てるぞ!!」

「誰だあの可愛い子!!」

「やべー、やっぱS女はレベル高えな!」

 体育館の端で他の男子部員達が妙にざわついていた。可愛い子、に反応して思わず体育館の入口の方をちらりと見る。サラサラストレートの黒髪に、黙っていると人形のような顔立ち。
 その顔を見た瞬間、俺の手からぽとりとシャトルが落ちた。

「ま、麻衣……どうして!?」

 T高校とS女学校は理事長が一緒で、先日も親善試合をしていた。
 女学校の生徒がこんな獣もいる共学高に一人で来ちゃダメだろっ。
 俺は練習を一旦中断し、慌てて麻衣の下へ駆け寄った。大体、麻衣も自分の部活があるのに、ここまで遊びに来る時間なんて無いはず。

「ああ、私が麻衣ちゃんを呼んだの。ちょっと話しがあってね」

 栞は麻衣に駆け寄ろうとした俺の背中をばしっと叩き、体育館の隅で獣達に囲まれかかっている麻衣を笑顔で迎えに行った。

 そもそも、練習試合は来週だ。何の用事で栞がわざわざ麻衣を呼んだのか全く理解できない。唖然と佇んでいると、くいっくいっと可愛い栞の後輩ちゃんにTシャツの裾を引っ張られた。

「あのぉ、田畑先輩。次は何したらいいですかぁ?」

「あ、あぁそうだな。じゃあアンダーハンドストローク出来るようにしようか。俺が打つから順番に並んで取れよー」

 軽くオーバーヘッドストロークで打ったシャトルを栞の後輩達が順番に並んで拾っていく。
 俺もブランクが長いから、ただ上げて打つだけの作業も、シャトルが時々変な方向に飛んでしまうので結構恥ずかしい。
 俺の出来が悪いと紹介してくれた栞にまで格好悪い思いをさせてしまうので真面目にやらないといけない。
 後輩達の相手をしている間も、栞達の様子が気になって仕方がない。何か深刻な話をしているようで、時々こちらをちらちら目で確認してきた。

「忍~ちょっと、こっち」

「あぁ?」

 栞に手招きされて俺はやっと2人の間に入る。

「なに?」

 んふっと笑った栞が俺の顔をぐっと引き寄せて頬に触れるだけのキスをした。
 驚いた俺よりも麻衣の表情が一気に凍り付くのが分かる。右手に握っているラケットが折れるのでは、と心配するくらいギリギリと強く握られていた。

「な、なっ!? どうした、栞……お前熱でもあんのか?」

「私さぁ、忍のこと本気で好きになったの。初デートの時も私より妹を優先したり、次のデートも怪我した妹を優先したり……そういう優しいトコが」

 それって、全部麻衣絡みじゃねえか。俺が栞に対して何か良い事をしたって話が出てこない。

「だからね、麻衣ちゃんと勝負したいの。報酬は忍を独占する権利!」

「いいですよ。私も栞さんとは蹴りをつけないとって思ってましたから」

 制服のまま、麻衣は「受けて立ちましょう」と見えない火花を散らした。
 戦いの火ぶたが切られたのを見ていた羽球部員達がきゃあきゃあと黄色い声を上げている。



 えっと……これって、俺が景品?



 俺の意思は一体どこに行ったんだろう……。


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