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妹がツンデレ過ぎてまともな恋愛が出来ません! 第33話

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第33話    「来年も、よろしくな?」

 12月31日。今年もやってきた大晦日に、俺は麻衣と2人で近所の神社へやってきた。
 毎年この時期は人が多いので、俺は時刻が変わるまでこういう場所に来るのは好きではなかったのだが、俺が来年留年せずに過ごせるようにと、いよいよ始まる就職活動祈願も兼ねてだ。
 麻衣は大学受験に向けて来年から確かクラス編成があったはず。願わくば数少ない親友の雪ちゃんと同じクラスになって欲しいものだが、多分志望が違うからそれも難しいだろう。

「くっそ、こんなしょぼい神社だってのに人多いな。これ何時間待ちだよ」

 こんな時に限って一緒にお参りしようとしていた友人達は不在だった。
 弘樹はお母さんの実家に帰っているので、北海道に帰省している。
 雄介はあれだけイチャイチャしていたまっち〜とついに別れたらしいが、舌の乾かぬ内にまた新しい彼女を作り、今日はそのコとデートだとか?    
 全く、サッカー部のイケメンリア充め。非リア充連合に染まった俺としてはあいつのチャラ具合に反吐が出る。

「……兄貴、お参りしたくないの?」
「いや、そんなわけじゃねーけど」

 俺が不貞腐れている様子を不安に思ったのか、麻衣は申し訳無さそうに項垂れていた。別に麻衣のせいで年末にここが混んでるわけじゃ無いし、元々人混みは苦手だからしょうがない。
 それに、こういうお参りはなんか分かんないけど試練と腹を括って諦めるしか無いだろう。

 隣を歩く麻衣は、少し大きめのダッフルコートの中にニットワンピースを着こみ、珍しくスニーカーではなく黒のブーティーを履いていた。
 いつものラフスタイルとは全然違う、麻衣にとってはかなり背伸びしたおデート服だ。

「そう言えば、あの何とかくんとお参り行かないのか?」

 俺は当て馬にされていたやつの名前を覚えていないので、うまく麻衣に伝えられるか自信が無かったが、すぐにピンときたらしい。

「落合先輩?」
「そう、多分ソレ」
「先輩は、もう彼女いるから」

 何だよ、麻衣に振られてすぐに別の女作ったのか。うちの学校の後輩とは言えなんかけしからん。そう考えると、柿崎ちゃんの麻衣へ一途な事、一途な事……。

「柿崎ちゃんとは初詣に行かないのか?」
「……誘われたけど、別の日に雪ちゃんが帰って来てから行く」

 柿崎ちゃんがいくら女とは言え、麻衣も少しは身の危険を感じているらしい。ほわわんとしていてもしっかりしている雪ちゃんが一緒ならば柿崎ちゃんも大人しくするだろう。

 時計はまだ11時で、日付が変わるまで1時間もあると言うのに、既に本堂までびっしり人で賑わっていた。
 様々な出店が並び、子連れの親子や普段であれば外出時間を制限されているであろう学生達も多く見えた。

「麻衣、何か食べるか?」
「……おみくじ引きたい」
「って、まだ日付変わってねーよ」

 少し気の早い麻衣のコメントに苦笑しながら、俺ははぐれないように麻衣の手を握った。普段であれば「手なんて握らないで!」とか、「恥ずかしいからやめて」と言いそうなのに、麻衣は顔を赤くしただけで大人しくしていた。
 羽球のやり過ぎで麻衣の左手はグリップタコと変な皮剥けがあちこちに出来ていた。
 お世辞にも女の子の可愛い手だとは言えないが、久しぶりに握った麻衣の手は指先が冷えて冷たくなっていた。

「せっかくコート着てるのに、何で麻衣の手は冷たいんだ?」
「し、しらないよ……」
「あ〜、麻衣の手、冷たくて気持ちいい」

 照れてふいっと顔を背けたものの、麻衣は間違いなく知っている。俺の手はいつも熱くて冬だろうとすぐに冷たいものを触って冷やしている事を。
 だから自分の手を少しでも風に当てて冷やしていたのだ。熱を冷ましたい俺が握ると思って。

 麻衣がお望みのおみくじが引ける場所に先に向かう。これから日付が変わるに連れてもっと人で溢れかえるだろう。

「……この時間なると携帯も規制かかるなー。今頃雪ちゃん達も北海道でお参りだろう?」
「うん。叔母さんの家が神社の近くらしいよ。さっきメール来てた」

 麻衣が見せてくれたものは、北海道の逞しい叔父さん達に未成年だって言うのにバンバン酒を飲まされて酔い潰れた弘樹と、それを見て爆笑している雪ちゃんだった。

「あっちは寒くて大変だろうなあ。っても、こっちも寒ぃけど」
「兄貴、寒い?」
「いや、全然。麻衣がくれたコレあるし」

 俺は首にしっかり2巻きした麻衣お手製のマフラーを指さして笑った。『ついで』で作った割に本来提出した自分用の赤いマフラーよりも長いし気合いの入った編み目だ。どうしてこっちの出来栄えがいい方を課題で提出しなかったのかと先生に笑われたらしい。

「そ……よ、よかったね」
「おう、麻衣の『ついで』のお陰で今年も来年も寒くて辛い事はなさそうだな」

 耳まで赤くなり麻衣は俺の手を握ったまま俯いていた。そんなに照れる事なのか?

「麻衣、真っ赤」
「か、風が冷たいからでしょ?」
「ふーん。全然風吹いてないけどな」
「ま、マフラーのせいで熱いんでしよっ!     もう、本堂行こう?」

 おっと、これはさすがにいじめ過ぎたか。麻衣は不貞腐れた様子で俺からぱっと右手を離し、人波を避けて先に行ってしまった。
 規制も入るし人も多いから出来れば離れたくない。

 0時まであと5分だった。俺は先を歩く麻衣の手を再び握り、境内に入る。

「そろそろだな」

 あちこちでみんなが携帯を開き、カウントダウンを始める。俺も麻衣の手を握ったまま、年が明けるのを待つ。
 誰かの携帯ニュースで、年が明けた事と、新年を告げるコメントが流れた。大声であちこちから「あけおめ!」「ことよろ!」と互いに手を叩き合っている姿が視界に入った。
 電話は完全に通信規制がされており、数分間はサーバー混雑の通知が入り、メールも送れなくなっていた。
 弘樹に挨拶しようか悩み、またスマホをポケットに突っ込む。どうせあいつは酔い潰れているだろうし、挨拶は別に昼前でもいいか。

「麻衣、今年も仲良くな?」
「……兄貴が、バカな事しなきゃね?」

 ちらりとこちらを見上げた麻衣の瞳はいつもと変わらないが、俺の左手を握る麻衣の右手の指先には、少しだけ力がこもっていた。

 当初の予定通りにお参りの後は恒例のおみくじを引き、俺は『吉』という微妙な結果に少しガッカリしていたが、『待ち人来たれり』という一文に、一人ガッツポーズをした。
 麻衣は『大吉』だったようで、持って帰ると言い大切にそれを財布にしまっていた。

 中身は「ご利益が無くなるからダメ」と言われて見せてもらえなかったけど、まあ、麻衣が嬉しそうだからいいか。



 今年こそは、麻衣のツンデレが治りますように。


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