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官能ショートショート『メビウスのとき』(976文字)

床がきしむ古いアパートの部屋。
襖一枚隔てた隣の部屋で小学3年生になる娘の夕子が眠っていた。
午後10時。
離婚して初めて出来た年下の彼。
一週間振りに私に会いに来てくれた。
力強く突き上げる彼の腰の動きに、思わず高い声が出てしまう。
襖の向こうを気にしながら口を手で塞ぐ。
私の声で夕子が起きてしまわないように。
襖は建て付けの悪さで、合わさり目に大きな隙間が出来ている。
「美智子、今日はいいだろ? 中に……」
「だめよっ、あっ、だめっ!」
彼の動きが更に早くなる。
彼が終わりに近づいているのがわかる。
また襖に目をやる。
幼かった頃の記憶が断片的に思い出される。あの時も私は今と同じような古い小さなアパートで母親と二人で暮らしていた。
ある晩、私は、襖の隙間から母親が若い男と裸で抱き合ってるのを覗いていた。
母親の上げる声に目が覚めたのだ。
狭い視野の中、母に覆い被さり母の脚の間に腰を打ち付ける男。
腰が波打つように動いている。
その動きに合わせるかのように、顔をしかめ母の口から漏れる高い苦しそうな声。
でも、今、わかる。
苦しがっているんじゃなかったと。
母の両手が男の頬を挟み、下から口を押し当てる。
男が母の名を呼び、言う。
「恭子、いいだろ? 中に、な?」
母は喘ぎながら答えた。
「だめよ、だめ、今日はだめなの!」
男の腰の動きが更に早くなる。
母の細い体に太い腕が回り、二人の体が隙間なく密着する。
「あっ、だめよ! だめっ!」
会話の意味はわからなかったが、母は嫌がってる、子どもながらにそう思った。
広げた白い脚の間で、浅黒い男の腰だけが激しく動いている。
それが今も目に焼き付いている。
「外に、ね、外に出して!」
細い腕が男の背中に回される。
「いいだろ? な? 本当はお前も欲しいんだろ?」
「だめよ、だめだからね!」
口を尖らせ、首を左右に振る母。
男の顔がゆがむ。
「ああっ、いくっ!」
「だめよっ! だめっ!」 
母の声が震える。
「ああっ! いくぞっ!」
「ああっ! だめよっ! だめっ!」
母の首が激しく左右に揺れる。
母は嫌がってる!
苦しそうな顔をして嫌がってる!
「あああっ、出るっっ!」
「だめっっー!」
男が唸り、母が叫んだその時だった。
「お母さんっ!」
私は襖を開けたのだった。
「ああっ、夕子! だめっー!」
私は夕子の泣き顔を見ながら、彼にしがみつき、彼が私の中で力強く脈打つのを感じていた。




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