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45歳定年を考える

サントリーホールディングスの新浪剛史社長が2021年9月9日に行われた経済同友会セミナーの席上で「定年を45歳にすれば、20代や30代の人たちが自分の人生を考えて勉強するようになる」と語ったとされ、「中高年をリストラするための発言」と捉えた人たちによって炎上状態となったことを思い出されます。

この発言は見方によっては異なった意味になると私は思います。
私自身45歳という歳で社内にいながらにして強制的に定年を迎えたような状況になり、定年後の世界はこんな感じだろうなと思い知らされました。まさに生き地獄です。毎日の仕事があること、仕事を通じて多くの人たちと関わっていられたことのありがたさを疑似定年によって知ることができました。多くの会社員は1日の大半、人によっては起きている時間の8〜9割を会社で過ごしますから、人生=会社になっている場合が多いでしょう。かく言う私もそうでした。仕事の消滅によって自分の存在価値がわからなくなりました。正直なところ少し心を病みましたし、心療内科のお世話にもなりました。それだけ仕事人間にとって定年(仕事の喪失)は精神的に大きなダメージを与えるものだと実感しました。
幸いにも今ではほとんど回復することができましたが、人生についての考え方を変えなければ精神を崩壊させかねないと心底思いました。
どう変えなければならないと思ったか?
それは、(当たり前のことですが)会社に依存しすぎてはならないということです。会社に経済的にも精神的にも人間関係も依存してはならないのです。会社という場、会社員という立場(会社の看板)の恩恵を失っても自分だけでも生きていけるだけのスキル、経験、人脈を築かなければならないということです。これはかなり難しいことです。20年以上も会社員として生きてきたのですから「XXX社のAAA(氏名)です」と言いたくなります。「AAA(氏名)です」だけだと「は?あんた誰?」となり大抵の場合は誰も相手にされません。これは有名人・芸能人級の人間になれと言っているのはありません。ニッチな狭い業界でよいのです。狭い世界で「何々ならAAAさんがいいよ」と言われる存在になれればよいのです。決して珍しいことではありません。例えば家の外装塗装とか車の修理、歯医者さんとか、どこどこのお店が親切だよとか仕事が丁寧だよと口コミで選びますよね。狭い世界でよいのです。自分のスキルを評価してくれるように努力し、自分のコミュニティ、人脈を作っていくのです。そうしていくことで会社に依存せず、自分らしい生き方ができるようになるのです。そういう自分らしさを持って会社でも生きていけば、おのずの会社でも徴用されるようになるでしょう。私はまだまだ道半ばですが、これからも自分らしく生きていこうと思っています。

ところで、45歳という歳は大学・大学院の新卒で入社後約20年が経った頃ですね。そして今後65歳まで働くとすると、その中間にある年齢でもあります。20年という時間を考えると、かなりのことができたと思いますし、社会人としてかなり成長でき、多くのスキルを身につけられたと思います。そして、45歳からさらに20年を考えた場合、45歳という年齢からならば何かを1から始めても、やれるだけのバイタリティーが45歳という歳にはまだ残されています。これがもっと歳を重ねていくとバイタリティーが年々減ってしまい再起を図ることが難しくなっていくことでしょう。そう言いつつも残念ながら私は1からスタートできているわけではありません。会社という組織を飛び出す勇気がありませんでした。もし、45歳で定年だということが世の中でルール化されていて、もう一度新卒みたいに就活をするのが当たりになっていたら、新卒で会社に入社することがゴールで、あとの会社人生はゆっくり定年までのらりくらりと過ごそうなどとは思う人は少なくなるのではないでしょうか?
新卒で就職活動をしたとき、希望の会社に入社するためにさまざまなスキルや語学、できる限りの経験や資格を取得したように、45歳の再出発のために会社での経験、実績を精一杯積むことでしょう。今現在の多くの会社員たちの生き方とかなり変わると思います。特に生き方や心の持ち様がかなり変化することと思います。そして、会社員としての心の持ち方、生き方を変えた会社員たちによってもたらされる経済効果、日本のGDPはどれだけ増加することでしょう。これからも少子高齢化が進む日本において定年年齢を65歳、70歳と遅くするだけでは落ち込む日本の経済を回復させることはできないのではないでしょうか?一人一人の会社員たちの意識改革をして、一人あたりの生産性を高めていかなければならないと思うのです。45歳定年を制度化した場合、45歳以降の人生のために特定の会社内での社内政治にだけ通じるような生き方から、多くの会社で求められるスキルを身につけるように変わることでしょう。そして今の形式的なジョブ型雇用から本格的な、そして本質的なジョブ型雇用へと進化することになるはずです。社内政治だけが得意な管理職は淘汰され、ジョブ型雇用の社員をうまくコントロールして成果を出せる人間だけが管理職として生き残っていくことになります。若い世代も実力と成果次第で給与が決定しますから、ポスト待ちでモチベーションが低くなることもありません。無駄な人、無駄なことがなくなることでしょう。
このように考えるとサントリーホールディングスの新浪氏の発言は、日本経済全体のことを考えての発言だったのではないかと私には思えてきます。20年後、30年後、もしかしたら早かった場合には5年くらい先には「新浪氏の発言は正しかった」「あの時点で会社員の在り方を変えていればこんな日本にはならなかった」となるかもしれません。日本が45歳定年制を取り入れる可能性は極めて低いと思いまが、現状のままでは日本企業は海外企業との競争力を失い世界で全く相手にされないようになってしまうかもしれません。そうなったら中高年の会社員の雇用どころか日本の会社員全体の雇用すら危ぶまれることになるでしょう。
残念ながら「あの時に変えていれば」と思われることは大抵実行されることはありません。そしてそのままどうしようもないところまで突っ走ってしまって酷いことになります。もはや変えられない悲惨なゴールへと向かうしかないのかもしれませんね。


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