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ショートショート「物語の国」


 そこは、物語の国だった。
 
 物語の国という名前がゆえに、余所者が出歩ける範囲はやはり限られている。
 彼らはまるで常に舞台演劇に臨んでいるかのようにエネルギッシュに動く。慌ただしくも見えるが、皆キラキラとした顔で言葉を紡ぎ、スポットライトのような太陽に照らされている。
 このあたりの様子を伺いたくてカフェに入る。
 いらっしゃいませ、と店員に言われるだけでなんだか始まりそうな予感ばかりがする。
 カウンター席に座り、コーヒーを注文した。
 ふと、隣に座る金髪の青年が気になった。光が瞬くような、それはもうキラキラしている、という言葉が似合いそうな見た目だった。
 彼もまた何かの物語を紡いでいるのだろうか?
 彼は、私の視線に気がつく。
 そして、彼の口が微かに動いているのに気がついた。
 
 も、う、?
 
 まるで、ピンと張った釣り糸で引っ張られているのにも関わらず、逆らっているかのようにぎこちない。
 楽しそうな顔のまま彼の口は――
 
 も、う、い、や、だ

 そう、動いているように見えた。

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