しれー

<物語>を書きつなぐ。

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はじめに

 物書きを夢見たのは遠い昔。物語を書き散らしたのも、今となっては懐かしい。知らず知らずの間にも、ぼくらは年を重ねてしまった。  思い返せば、ぼくは熱心な文芸者でなかった。同好会を作ったはいいが、勉強やらなにやらにかまけ、ことばに心を尽くさなかった。なにより、ある程度の分量を書ききった例がなかった。ぼくは、自分が作家に向いていないことをよく知っていたし、父親もぼくの文才のなさに感づいていたらしい。出雲などに旅行に行った際には、夕食の席で「先生になるのはいいが、小説家という意味

    • 温泉という苦痛

       温泉が好きになれない。  かつて九州で入った温泉は、赤褐色で、どろどろしていて、そして臭くてたまらなかった。葉っぱも浮かんでいて気味悪かった。確かその前日は炭酸泉でぷかぷか遊び、さらにラムネまで飲んで、たいそう満喫した記憶がある。落差もあったのだろう。私の中で、そのころから温泉に対する苦手意識がゆっくりとできはじめた。  いま思えば、それは秘湯のたぐいだったのだろうが、小学生の私はその有り難みがさっぱりわからず、それ以来、あまり温泉は得意でなくなった。現にいまでも、割と

      • 「をかし」とは思わない

         遥か前の話だが、私が塾講師をしていた際の同僚から、以下のことを言われたことがある。  古典が面白くない/必要ない、といったことはよく聞かれるから、(本来はしないといけないのかもしれないとは思いつつ)特段の反論はしないのだけれども、この言い方は少し気がかりであった。  というのも、この一連の発言からは、どうやら文学部生を「ただの感想」に心を打たれるような「雅なのが好き」な変わり者、としか見ていないように聞こえたのである。  確かに、私もどちらかと言えば「雅なのが好き」な

        • 〈差延〉する〈北海道〉

           先日、『ジャンプ+』を利用して『ゴールデンカムイ』を通読した。丹念な資料調査と緻密な構成が生み出す作品世界は実に豊穣で、近年稀にみる秀作と呼ぶべきであろう。連載はいよいよ佳境に入っており、続きが待ち遠しい。  それにしても、『ゴールデンカムイ』を読み終えた今、私の北海道への憧れは大きく膨れ上がっている。特に食べ物に関しての憧憬が凄まじい。今まで食べたことのない食材はもちろんのこと、オハウ等の料理法にも強く惹かれている。できるかぎりの食材を集めて料理を再現してみようと思うま

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        はじめに

          〈深夜テンション〉という仮装/仮想

            我々がタンソンニャット空港に降り立ったのは、既に二二時をまわっていた。高校生だったぼくらは修学旅行ということもあり、騒がしく乗り継ぎの飛行機を待っていた。その待ち時間に、仲間内でやたらと多用されたのが「深夜テンション」ということばであった。  ぼくらは思春期であったから、素の自分を知ってほしいという欲望を抱え、そしてそれを発散する機会を待っていたのであろう。「おまえ、深夜テンションすぎやろ」だとか「いやほんま、オレ、深夜テンションやわ」だとか、そのような言挙げをすること

          〈深夜テンション〉という仮装/仮想

          実習を通じて思い上がったこと

           先日、教育実習を終えた。私の思い上がりは見事に砕かれた。授業なんぞ簡単だとほくそえんでいたのであるが、まったく巧くはいかなかった。殊に生徒と対話ができなかった。休み時間の話ではなく、授業中の話である。私は生徒に発問することを好むのであるが、発問に対する生徒の答えを有意義に活用して授業を展開することが困難であった。生徒と対話し、授業を形作っていく。その単純なコミュニケーションに苦戦した。指導教諭からの有難いアドバイスによって多少は改善したとは思われるものの、課題は山積みである

          実習を通じて思い上がったこと