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カフェに来た青年

街中のよくあるカフェ。

決して賑わっているわけでもなく、かと言って寂れすぎてもいない、普通のカフェ。

そんなカフェに彼は最近よく足を運んでくれる。

「カプチーノ、レギュラーサイズでお願いします」


いつも奥の壁際の席に座り、いつも同じカプチーノ。砂糖は2つ。

音楽を聴きながら右手でスマホを見て、左手でカプチーノを飲む。

それが彼のスタイルだ。



今日は絵本を読んでいるようだ。

お、あれは『100万回生きたねこ』だ。

懐かしいな。

彼はひとしきりスマホをいじった後は本を読んだり、何かを書いたりしている。


しばらく読んだり書いたりしながら、カップの底に沈んでいる泡と砂糖をスプーンで掬っている。

彼はなかなか通だ。

実はそこがすごく美味しかったりする。

甘くて苦い、カラメルのような、そういうスイーツを味わっているような感じを楽しめたり。



そろそろ帰るようだ。

「いつもありがとうございます」

「あ、いえ、こちらこそ」

「絵本読まれるんですね。いやぁ懐かしい気持ちになりましたよ」

なんだか今日はついつい話しかけてしまった。

大丈夫だろうか、そういうの嫌なタイプじゃないだろうか。


「そうなんですね!いいですよねぇあれ!」

あ、大丈夫だった。

意外とノリがいい子なのかもしれない。

注文の時しか話したことはなかったが、こんな風に明るく笑いながら話すタイプなんだ。

いつも声が小さいから大人しいタイプなのかと思っていた。




「あ、そういえば僕最近絵本作ったんです」



なんですって。


まさかの作家さんだったようだ。

「あ、いやまだ全然始めたばっかりなんですけど…」

謙遜してはいるが、他にも演劇だったり歌だったり色々やっているとのこと。

「まだどれもちゃんと形にはなってないんですけどね」

笑いながら話すその目の奥には、少しだけ寂しさと厳しさが見えた。



「今度持って来ますね。よかったら読んでください」

「ありがとう。あれ、てことは、いつもここで何か書いてるのはもしかして…」

「あ、そうです。なんか物語を色々。カフェで書くとよく進むんです」


きっとこの賑わっているわけでもなく、かと言って寂れすぎてもいない、普通のカフェの感じがよかったのだろう。

普通でよかった。




「じゃ、また来ますね」

「はい、お待ちしてます。ありがとうございました」


こうして、この街中によくある普通のカフェから、後世に名を残す大作家が誕生したのです。




なんてことになったらいいなぁ。

がんばれ、青年。





カランカラン。

「いらっしゃいませ。…あれ?」

「あ、すみません、傘忘れてました」





第1話〜カフェに来た青年〜





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