「迷いは自分の土壌を耕している証」元・地域おこし協力隊が運営する図書館に込めた思い
鹿児島県のほぼ最南端。鹿児島空港から車で2時間走ると、海と山に囲まれた錦江町(きんこうちょう)にたどり着きます。
”誰もが愉しみ続けられる世界をつくり、共にたがやす”をコンセプトにNPO法人たがやすの代表を務めるのは、馬場みなみさんです。兵庫県出身の彼女は、地域おこし協力隊の経験を経てNPOを仲間と共に立ち上げ、現在は活動の一環で図書館を運営しています。
「迷っていた自分も肯定したかった」と語ってくれた、図書館運営に至るまでの背景や思いを伺いました。
”知ること”から始まった地域おこし協力隊
ーー大学卒業後、新卒で鹿児島県の錦江町で地域おこし協力隊として活動することを決めたと伺いました。住んだことがない土地に移住する怖さはありませんでしたか。
もちろん怖かったです。最初は大学のゼミの活動を通して、錦江町の存在を知りました。錦江町に何回か足を運んで、頼りにできる人や協力してくれる人に出会うことができ徐々に安心感を感じるようになりました。
また「生きるように働く」ことに憧れていました。就職活動に対して言葉にできない違和感や地域で暮らすことへの憧れもあり、地域おこし協力隊として鹿児島県に移住することを決めました。
ーー地域おこし協力隊としてどのような活動をしていましたか。
地域おこし協力隊の活動の任期は3年間でした。まず1年目は地域を知ることが大事だということで、錦江町の町民さんへの取材と記事の執筆から始めました。
あとは地域ならではの自然を生かした体験コンテンツの企画も行っていました。ワーケーションを目的としたカヤックやSUPなどのアクティビティ体験、SDGsの対話イベントなど、地域の人たちと一緒に活動していました。
率いる人だけがリーダーではない
ーー地域おこし協力隊の任期は3年間。3年後には、次のキャリアを含めて自分の在り方を考えないといけません。
振り返るとその時期はすごく悩んでいました。何を収入源にしたらいいのか、何をやって何を諦めるのか、自分でもよくわからなくなっていました。
そんなときにNPO法人を一緒に立ち上げてやってみないかというお話をいただいたんです。地域おこし協力隊として培ってきた関係性の中から、お声がけいただいたものだったと思います。もちろんすごく驚きましたが嬉しかったです。
ーーNPO法人の立ち上げを選択した背景にはどのような思いがあったのでしょうか。
NPO法人の代表になることを自分で受け入れられるまで、半年間くらいかかりました。最終的に決意を固めることができた理由は3つあります。
1つめは、組織の立ち上げに関わった経験があったからです。地域おこし協力隊の同期が行っていたゲストハウスの運営会社に関わっていました。形態は違いますが、組織の立ち上げには何が必要かを間近で見ていたことは大きかったです。
2つめは、仲間がいたからです。全部ひとりで進めないといけないわけではありませんでした。一緒に頑張っていこうと、フラットに関われる人たちが周りにいてくれたことが心強かったです。わからないことはわからないでいいし、失敗しても何とかなると思うことができました。
3つめは、自分が考えるリーダー像に変化があったからです。協力隊の活動中に、地域を旅する大学さとのば大学の講座をオンラインで受講していました。
自分が代表をやることの想像が最初は全くついていませんでした。さとのば大学を受講していたおかげで、自分にとっての失敗の定義や自分にできないと思う理由などを考えられました。それを通してリーダーは率いる人だけではないんだということに気づきました。最終的には、怖さを持っていながらも代表になっている自分を想像してみると意外と面白いかもと感じるようになったんです。
迷っている自分も否定しなくていい
ーーNPO法人たがやす主体で運営している図書館「本と一筆」は、廃校になった中学校の一室にあります。図書館を始めたきっかけは何ですか。
私自身がふらっと訪れることができる場所があったらいいなと思っていたからです。自分が自分のままでいることができて本があって落ち着ける、そんな場所があればいいなと思っていました。
そんなときに、静岡県で本棚オーナー制度を用いて運営している図書館があることを知りました。本棚のオーナーさんが好きな本を置くことができて、それを誰でも借りられる仕組みでした。ただの図書館ではなく自分のちょっと知っている人が本を置いているっていいなと思ったんです。
人の繋がりをゆるく感じながらも、本を通してコミュニケーションが取れることを実現できる仕組みだと感じて、自分の地域でもやりたいと考えました。肩書きに囚われず、何者でもない自分のままで感じたことを素直に表現できる空間をつくれたらと思い図書館の運営を始めました。
ーー何者でもない自分のままで感じたことを素直に表現できる空間にしたかったのは、なぜですか。
感じたことを尊重して、表現したり対話できる環境をつくっていきたいと思ったからです。私自身、言葉を口に出して表現するのが苦手です。表現できないまま迷って悩んで、すぐに行動に移せない劣等感をずっと感じていました。
ただ白黒つけずに迷うことも大事なんだと気づいて、迷っていることを否定しなくていい、それは一歩を踏み出すために必要な時間だと考えるようになったんです。
そうやって一人一人が感じることはどんな感覚や感情も自由であるべきで、それを尊重する空間でありたいです。それによって今の自分を肯定できて、次の一歩を踏み出す人が増えてほしいなと思います。
ーー最後に、本と一筆をこれからどんな空間にしたいと考えているかについて教えてください。
ありのままの自分でいることができる空間にしたいです。いわゆる自分らしさって何かと比較しないとわからないと思います。周りから求められる役割やキャラクターに苦しんでいる人もいるかもしれません。
そんな人たちにとって、自分の感じたことや違和感を大事にしながら、それらを素直に表現できたり誰かと共有できる空間をこれからも育んでいきたいです。
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