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ショートストーリー:時間警察

「では、昨日から今日の20時までの時間が貴方が盗まれた最新の時間なのですね?」
「はい、そうです」
「成程。もう少し詳細を聞いても良いですか?」
そう言われ自室で取り調べを受ける俺。
聞いてくる相手は時間警察を名乗る男。
いつもより回転の鈍い頭でも、この男が胡散臭いと断言できる。

しかし、それでも俺はこの男に頼っている。
何故ならどうしても取り返して欲しいのだ!
今まで盗まれてきた時間を!

~~

時間が盗まれたことに気付いたのはつい2時間前のことだ。
半年ぶりの連休ということもあり、この2日間は久しぶりに有意義な時間を過ごそうと考えていた。
最近体重が増えてきていたから運動するでも良し。
資格試験に向けた勉強をするでも良し。
自由に使える時間をどう活用しようか悩んでいた。

だと言うのに、気がついたら既に休日終わりの19時だったのだ!
その間の記憶も曖昧だ。
今までの人生にも似たようなことは多々あった。

学生時代のテスト試験前の時間。
受験前の時間。
卒業論文締め切り前の時間。
就職活動におけるES提出締め切り前の時間。
そして今回の休日。

大事な物事の前の時間は悉く記憶にないのだ。
こんなに重要な時間に限り記憶がないなんておかしい。
間違いなくこれは時間泥棒のせいだろう。
いや、そうに違いない。

「くそ、時間泥棒め!俺の時間を返しやがれ!」

床に散らばる空き缶を部屋の壁に投げつける。
少しだけ残っていた酒が飛び散り、余計にイライラしてしまう。
タオルでも持ってこようと腰を上げようとした、その時。

「時間警察だ!時間泥棒の被害が出たと聞きました!」

突如白を基調とした服を纏った男が現れた。

「………………は?」

なんだ、こいつ。
わけがわからない。
誰?

「私は時間警察です。あなたが時間泥棒の被害にあった方で間違いないですか?」

…………。
警察を呼ぶか。

驚きのあまり固まってしまったが。
その硬直が解けると同時に無言でスマホを取り出した。

「あれ?被害にはあってないんですか?」

問答無用に119番を入力し。

「うーむ、どうやら被害にはあってないようですね。
いやー、良かった!時間返却処理をしないでも済みましたね!」

その言葉に動きが止まった。

「いやいや、いきなり押しかけてしまってすみませんでした。
それでは失礼しま──」
「はい、私が時間泥棒の被害者です!」

~~


「はい、話はわかりました。
これまでの被害総時間は約5年3ヶ月分。
これらの時間の補填が必要、ということですね」

5年分!
そんなに時間貰えるならやりたいことがなんでもできる!
早く、早く俺に失われた時間をくれ!

「ただ気になるのが貴方が被害にあったタイミングなんですが」
「?」
「貴方は学生のテスト直前に時間泥棒にあったと言われましたが。
先程時空データベースで調べたところ、その時間は漫画を読んでいたと結果が出ています」
「そ、それは」
「また、大学受験・浪人時代の被害報告は調査の結果ゲームセンター通いで時間を消費していると出ました」
「ち、ちがう……」
「就職活動・社会人後の休日の過ごし方はネットサーフィンとスマホゲーム、家でのお酒を飲む時間に費やした、との調査結果です」
「…………」
「もう一度お聞きします。
貴方は時間泥棒の被害に、本当にあったのですか?」

…………。

「……被害にはあってないようですね。
これでは時間返却処理は行えませんね」
「そ、それじゃあ、俺の5年間は……」
「貴方が正当に消費した時間となります。
これ以上はこちらでは関与いたしません。
それでは失礼いたします」

男が立ち去った後部屋に沈黙が訪れる。
散らばっている空き缶を拾いあげ。
無性に虚しくなり缶を壁に叩きつける。

自分が無駄に使った時間、その総計。
それを目の前に突き付けられてしまったようで。
布団に包まり。
大声で泣き叫んだ。


【あとがき】
過去の時間泥棒の合計時間なんて知ったら、鬱になりそうですw






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