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【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光- 25話 もう1人の自分2-鬼が出るか蛇が出るか-

前話】 【最初から】 【目次

永遠とわは体育祭の後、毎日遅くまでシェアハウス地下2階の修練場で鍛錬をしていた。冴木さえきに週に3時間、手合わせの時間を作ってもらい、そこで戦闘に必要な筋力の付け方や気力の練り上げ方、攻撃の受け身の方法等の技術を磨いていた。
たちばなくん、そろそろ休んだらどうだい?オーバーワークは体を壊すよ」
「・・・っす」
永遠はフェイスタオルを手にして座り込んだ。冴木も永遠の隣に腰をつける。
「体育祭の一件で、焦っているのかい?」
「それは・・・」
永遠は口籠くちごもってしまった。永遠は体育祭の時に戦意喪失してしまってから、現場に出ようとすると体の震えが止まらなくなっていた。白虎びゃっこと戦った時は無我夢中だったが、五麟ごりん怨霊おんりょうと同じくらい危険な存在と兼路かねみちに言われてから、永遠の中で迷いが生まれていた。
「橘くん。五麟の能力を発揮するために大切なものは何だと思う?」
「大切なもの?・・・生気っすかね。生気がないと戦えないし・・・・」
「まあ、それも必要なんだけど、大切なのは胆力だよ」
「胆力?」
聞き慣れない言葉に永遠は首を傾げる。
「恐れない精神力、度胸って意味だよ。五麟の力は全て精神力を源にしている。気持ちの強さがそのまま戦闘時の強さに現れるんだ。今の君はどんな怨霊に出くわしてもやられてしまうだろうね」
「ははっ、はっきり言いますね・・・」
「仕方ないだろう!心のすきは命の危険につながるんだ」
「俺、勝手に五麟は正義の味方だと思いこんでたんすよ。だから、あいつの言葉で混乱して・・・冴木さんの言う通り心の隙が生まれたんだと思います。俺が自分のやるべきことを信じ切れなかったから・・・」
「「信じる心も大切だが、僕は胆力の行き着く先は"覚悟"だと思うよ」
「覚悟・・・」
「何のために戦っているか、その答えを持ち合わせていないように見える」
「冴木さん、この間も言ってましたね」
「とても大事なことだから何度でも伝えるさ。橘くん、もし今後、命をやり取りする場面に出くわして、例え相性が悪く見えても絶対に気後れしてはならないよ。怨霊も僕たちが持つ力もそれぞれの特徴が可視化されているだけなんだ。実際に雷や樹を出している訳ではないからね。橘くんは初めてだから、余計にその感覚が難しいかも知れない。でも、気持ちの強い方が勝つんだ。自分が何のために闘っているのか、橘くんも見つけられると良いんだが」
その時修練場の扉が開いて、しゅうが顔を出した。
「ごめん、使ってた?」
「いや、今休憩中」
「茅野くん、もう動いて大丈夫なのかい?」
冴木は柊の顔色を伺った。柊が東雲医院しののめいいんで治療を受けてから、数日で戻ってきたためだ。
「休み過ぎたくらいですよ」
「この間はすまなかった」
「大丈夫です。分かっていますから。・・・ねぇ、永遠」
「ん?」と永遠が反応した。
「あれから千羽ちわちゃんはどう?」
「あぁ、千羽はピンピンしてるよ。前後の記憶が曖昧あいまいで自分が貧血で倒れたと思ってるらしい。俺もしばらく様子見てたんだけど、生霊いきりょうとか突っ込んだ話はしてないな」
「そう。千羽ちゃんが元気なら良いの」
「お互いに手の内を見せたんだ。警察もマークはしているし、あいつもしばらくは動けないだろう」
「兼路は逮捕されてないんすか?」
「物的証拠が出てこないんだ。防犯カメラに生霊は映らないし、警察が逮捕できる条件を揃えるのは難しいだろうね」
その時修練場の扉が開いて、「茅野かやのさん、お待たせしました」と言いながらみおが入って来た。あまりにタイミングの悪い登場に、冴木はバツが悪そうな顔をしていた。
澪は体育祭の一件で一族から命をねらわれる状態になってしまったため、借りていたアパートをその日のうちに出て、シェアハウスに転がり込んだ。入江が搬出と搬入を徹夜で手伝ったらしく、駒葉こまば高校の結界生成と合わせて2日連続徹夜になり、体育祭の代休は丸1日寝ていたようだった。
「すみません。タイミング悪かったですか?」
「いいえ、大丈夫ですよ。今日はありがとうございます」
心配そうにしている澪に対し、柊はきっぱりと告げた。
「俺も上京してから手合わせするの初めてなので、鈍ってなければ良いですが」
「柊達がここ使うのか。じゃあ俺は休憩しとくわ」
「そうしてもらえると助かる。ほら、澪さん以外に剣術の手合わせできる人って他にいないでしょ。対人が鈍ってそうだから心配で」
2人の手には木刀が握られている。
体育祭以降、柊や永遠、冴木は澪のことを名字ではなく、名前で呼ぶようになっていた。鷲尾わしのお家とは絶縁状態にあり、澪自身が鷲尾姓で呼ばれることを快く思っていないことへの配慮だった。
「では澪さん、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
柊が木刀を構えたのを見て、澪も木刀を構える。お互いの視線が一瞬交わった後、柊が一気に間合いを詰めた。木刀を振って来たのを見て、澪がいなしていく。
「冴木さん、2人の立ち回り早くないっすか?」
「あぁ、2人とも見事だ!体躯たいくの差からも、不利なのは茅野くんだとは思うがね」
「あれって剣道ではないっすよね?」
「あぁ、より実践向きの剣術だろう。僕も詳しくはないが、型は通ずるものがありそうだね」
決めきれなかった柊は間合いを取り直した。すると澪は体勢を低くして、トップスピードで踏み込んで来る。
ーーバシィ!!
柊の木刀の剣先が後ろに大きく反った。澪は笑みを作ったが、柊はそのまま柄を握り直すと、つかの頭をつちの要領で澪のこめかみに打ちつける寸前で止めた。
「・・・これは、参りました」
柊は小さく笑みを作る。
「素晴らしい勝負だったな!」
「勝ち方が本気すぎる・・・」
永遠は顔を引きずらせながら言った。
「茅野くんは負けず嫌いだからな」
冴木はうんうんとうなずいている。澪は負けたものの充実した表情を浮かべた。
「いや、久しぶりに本気で手合わせできて嬉しかったです。茅野さん強いですね」
「澪さんの間合いを詰める姿勢・・・知人にそっくりだったんです。姿勢が低すぎて、視野に相手の動きが入ってないというか・・・」
「知人?」
「・・・いえ、何でもありません」
柊は手を差し出して澪の体を起こした。
「身体を動かすとさすがに長袖ながそでは暑いですね」
柊はスウェットの上着を脱いで半袖になった。
「茅野さん、そのサポーターは?」
「あぁ、ここに火傷の跡があって・・・と周囲には言っていますが、五麟のあざを隠しているんです」
「火傷の跡・・・」
柊の言葉に澪が反応を示した。
「澪さん・・・?どうかし――」
ーーバタン!
扉が開いて芝山しばやまが現れた。
「訓練中にすまない。4人に話しておきたいことがある。上がって来てくれるか?」
「分かりました」
永遠が応えたあと、柊、冴木、澪の3人もそれぞれ頷いた。



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