【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-40話 交錯する思い3-人と屏風は直には立たず-
つばめヶ丘の夏祭りに来ていた永遠・柊・眞白であったが、永遠と柊の元に怨霊の出現の知らせが入った。
(このタイミングで怨霊が・・・!)
その様子を見て、眞白は1人立ち上がった。
「柊と永遠はここで待っていてくれる?俺が屋台に行って食べるものを適当に買って来るよ」
「え、3人で行けば良くねぇか?」
「アルバイトの連絡なんでしょう?ちゃんと確認した方が良いよ」
永遠の申し出を眞白が丁寧に断ると、「じゃあ行ってくるね」と言い残して2人の元を離れた。
「おい眞白・・・!」
永遠は眞白の姿が見えなくなるのを確かめると、くるりと柊の方へ向き直った。
「なあ柊、今日の眞白なんか変じゃねぇか?!あんなキャラじゃねぇだろ!」
「永遠、落ち着いて。いくら眞白が品行方正・成績優秀だからって、卑屈になっても仕方ないでしょ」
「おい!そうじゃねーって!」と永遠は思わず立ち上がったが、柊は気にする様子もなく「今はこの連絡でしょう?」と永遠にスマートフォンの画面を見せた。
「ああ、怨霊が出たなら早急に手を打ちたいところだが、情報が足りねぇ・・・!本来なら今日任務に就けるの澪さんしかいなかったよな」
「そうね。冴木さんは塾の夏期合宿に行ってる。それに、今日は駒葉市内でイベントが多かった・・・人が集まるところだと怨霊は出現しやすい」
「それって、前に言ってたやつか。人や場所に縛られやすいっつー」
永遠は駒葉高校で起きたガラスが割れる一件を思い出しながら言った。
「そう。そして、人が集まる場所では、日常生活を送る上で生まれた特別な感情が積み上がって、怨霊という形で露わになることが多い・・・澪さんは気配に聡いから怨霊に気づいたんでしょうけど、特定には至っていないんだと思う。怨霊の強さも分からないし、一旦様子を見ましょう」
「呑気なことを言っている間に、怨霊の被害が拡大しないか懸念もあるけど・・・一旦続報を待つしかねぇな。それはそうと、眞白にはどう説明するんだよ」
「アルバイトの人手が足りなくて、もしかしたらシフトに入ることになるかもってことだけ伝えれば良いんじゃない?」
「今から来てくれとか、どんだけ人手が足りてねぇんだよ・・・怪し過ぎて、闇バイトでもやってるのかと思われるんじゃねぇか?」
「闇バイトに近いけどね」
「柊!そういう事サラッと言うなよ・・・!誰が聞いてるかわからねぇだろ・・・!」
永遠は思わず立ち上がってしまったが、周囲の目を気にしながら静かに着席した。
「・・・なんか話あるっつってたんだけどな」
「私には話したくないことは話さなくて良いって言ってた。永遠に何か聞くというより、眞白から伝えたいことがあるんじゃない?」
「なんだよそれ・・・余計わかんねぇじゃん・・・」
「受け止める準備だけしておけば良いんじゃないの?」
「そういうの俺苦手なんだよな・・・俺のそういうところ眞白もよくわかってるだろうし、よっぽどのことなんだろうけど・・・なんだか緊張してきた・・・」
そう言いながら永遠はベンチに仰け反った。
「隠しごとするなって言っておきながら、なんで受け止めるの苦手とか言ってるの」
「うっせぇな」
その時、両手にいくつものビニール袋を携えた眞白が「ごめん!お待たせ!」と言いながら戻ってきた。
「夕飯まだだよね?色々買ってきてみたんだけど・・・これが焼きそばで、こっちがたこ焼き、あとりんご飴も」
「サンキュ」
「ありがとう」
永遠と柊がそれぞれパックを受け取った。
「そうだ、仕事の連絡大丈夫だった?」と、ベンチに座りながら眞白が尋ねてきた。
「人手が足りないみたいで・・・もしかしたらこの後シフトに入らなきゃいけなくなるかも知れない」と柊が手短に説明した。
「この後?!大変だね。じゃあ今のうちに食べておいた方が良いよ」
(え・・・物分り良すぎじゃねぇか・・・?)
永遠は眞白の反応に少なからず違和感を覚えたが、柊は別のことが気になってしょうがないようで「お金・・・」とポツリとつぶやいた。
「あぁ、今は良いよ。次は2人におごってもらうから」
「・・・そうか?」と言いつつ、永遠はたこ焼きを食べようとして手を伸ばしていたが――。
「・・・実は2人に言っておきたいことがあってさ」と眞白が切り出したので、永遠は唾をゴクリと飲み込んだ。
「おぉ、なんだよ」
永遠は緊張のあまり体を強張らせながらも、眞白に悟られないように言った。
(五麟として覚醒した時に筋肉痛と偽って入院してたことか?それとも柊と同じアルバイトを始めたことを言ってなかったことか?いや、東櫻大学100周年記念祭の服装かもしんねーし、この間の大怪我が理由かも知れねぇ・・・って言うか俺、地雷多くねーか?!)
「・・・永遠が聞かれるんじゃないかって思ってること当てようか?」
「へ?」
「この数ヶ月で2回も入院してるよね。それにアルバイト始めたことも知らなかったし、東櫻大学で会った時はこの世の終わりみたいな顔していた」
「そ、それは・・・」
図星過ぎて何も言えなくなってしまった永遠に対し、柊は2人の動向をじっと伺っている。
「――『隠しごとはするな、何でも言え』って、永遠、前に言ってたでしょう?」
「お、おぉ」
「でも、俺東櫻大学であった時に永遠に言ったよね?言いにくいことは言わなくて良いって。動揺してて忘れちゃった?」
「あ・・・」
――『自分で決めた道は迷わなくて良いよ。言いにくいことも俺に言わなくて良い。俺は二人を信じてるから』
永遠は眞白の言葉を思い出した。
(あの後本部長から連絡が来て、バタバタしててすっかり忘れてた・・・)
「この間の東櫻大学の記念祭の時に永遠と会ったけどさ、永遠すごくバツの悪そうな顔してたでしょ?でもアルバイトのことで、きっと言ってはいけないこともあると思うんだよね」
「――守秘義務があるからね」と柊が補足した。
「俺、2人に無理して言ってほしくないんだよね。だって、俺が2人と過ごす時間に嘘偽りはないし、2人が何かをしていたとしても、柊は柊だし、永遠は永遠でしょ」
「そりゃそうだけど・・・」
「――『言うことで救われる時もあるけど、言わないことで救われることもある』。俺は裏山で話したあの時と同じ気持ちだよ」
「眞白・・・」
永遠は言葉を続けられず、3人の間に沈黙が流れた。
「――俺から2人に頼み事して良い?」
「なんだよ?」
「俺のためと思って言わないでほしい。俺も聞かないから。俺といる時は”いつも通り”で居ようよ。俺が言わないこともあるかも知れないけど、それは2人のためでもあるから・・・信じて欲しい。俺にとって何よりも大切なのは永遠と柊だから・・・」
「眞白・・・お前そんなこと考えて――」
永遠がそこまで言いかけたところで柊は立ち上がり、周囲を見渡している。柊の行動に心当たりのある永遠は意識を研ぎ澄ました。
(この気配・・・まさか・・・!怨霊か・・・?!)
【次話】41話 交錯する思い3-人と屏風は直には立たず-
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