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【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光- 47話 思わぬ再会1-一樹の陰一河の流れも他生の縁-

前話】 【最初から】 【目次】 【第二章登場人物】【番外編

つばめヶ丘がおか神社の夏祭りから1週間後の土曜日の朝、永遠とわしゅう入江いりえの車でとある道場に向かっていた。
助手席に乗り込んだ永遠は、スマートフォンの画面を見てため息を吐いた。
眞白ましろは塾の夏期合宿中だからか全然既読つかねぇし、柊と話すこともまとまってねぇまま当日になっちまった・・・)
「いや〜!さすがに8月ともなると暑いね〜!夏都くんも来れたら良かったけど、夏期講習じゃしょうがないね!」
「・・・入江さん、やけにテンションが高いですが出かける訳ではありませんよ?」
後部座席に座っている柊がすぐさま突っ込んだ。隣に居る永遠の視界からは柊がとても苛立いらだっているのが見えた。
「もちろん分かってるって🎵」
「でも・・・今日は正服なんすね。道場って聞いたから、てっきり私服で潜り込むのかと・・・」
「各道場の人たちが交代交代で演武えんぶを披露する会だからね。みんな道着だし、2人だけ私服で行ったらどっちみち目立っちゃうよ。演武披露しないのもおかしいしね」
入江は運転しながら永遠の問いに答えた。
「なるほど・・・ということは、わざと目立たせて威嚇いかくするってことすか?」
「威嚇じゃなくて牽制けんせいね・・・」
柊がぼそっとつぶやくと、永遠はビクッと肩を震わせた。
「あの、今日の任務の資料を見たんすけど、道場で剣術の披露する会の警護っすよね・・・?要人がいる訳じゃねぇし、五麟ごりんを2人も手配するのはちょっと手厚すぎじゃないっすか?」
永遠の言葉で、柊は眉間みけんしわを寄せた。ミラー越しに柊の表情を確認した入江が「永遠くんは知らないのか!それはね・・・」と切り出したが、柊は入江の言葉に被せて話し始めた。
「――五麟と関係の強い人が来るから。彼の名前は朝海誠あさみ まこと・・・私の剣術の師匠であり、指南役なの」
「柊の師匠・・・?」と永遠は首をひねった。柊とは長い付き合いだが、剣術の師匠がいるという話を聞いたことがなかった。
「普段は有坂ありさか家が管轄する地域で道場を営んでる。今回は東京の道場から招待を受けて、新潟からわざわざ来ることになったんだって」
「そうなのか・・・ん?でも、待てよ。その師匠さんって普段新潟にいるんじゃないのか?・・・東京にいた時期もあったのか?」
「それは・・・」
「永遠くん、この話はこの辺にしておこうか?」
柊が言葉を詰まらせたのを察して、入江が強引に話を切ろうとした。
――『七中では彼女が転入して来てから、今日みたいに突然ガラスが割れたりしたの』
――『中2で戻ってくるまで、親戚しんせきに預けられたりしてたみたいだし、転入してからも怪奇現象も起きたりしてたし・・・』
クラスメイトの大石華奈おおいし かな吉川葵よしかわ あおいの言葉が永遠の頭の中によぎった。
(前世で剣術を習得してるから、現世は独学だと思ってたけど指導を受けていたのか・・・剣術を習っていたことも隠してたってことは俺に知られたくねぇことがあったはず・・・『新潟に居た時期があるんじゃねぇか』って突っ込んだら柊を困らせるよな・・・)
「――『善処する』って約束したよね」と柊が小さな声で自分に言い聞かせてから、大きく息を吐いた。
「柊?」
後部座席を振り返った永遠は柊と視線がぶつかった。
「――中1の入学式直後から1年間、剣術を学ぶために新潟に居たの」
柊の言葉に永遠だけではなく、入江も驚いた顔をした。
「柊ちゃん、それは言わないって話じゃ・・・」
「で、でも、つばめヶ丘の夏祭りで会っただろ?それに俺の大会も見に来たし・・・。もしかして・・・わざわざ東京に来たのか?」
永遠はしどろもどろになりながら尋ねた。
「そうだけど」
そう答える柊の声はよどむことなく澄んでいる。
「なんでそんな大事なことを今まで・・・いや、自分の身の危険を考えなかったのかよ。剣術を学ぶだけが目的じゃ――」
永遠はそこまで言葉が出そうになったがぐっと堪えて、前を向いて座り直した。
(なんで言わなかったのかを聞くのは野暮過ぎる・・・俺たちに危険が及ぶかも知れないからだろ?馬鹿か俺は・・・)
芝山しばやまさんのツテだと、より実践的な剣術を学べるのがたまたま新潟の道場だっただけ」
「・・・そうか」
「もうこの話しは良いでしょ」
柊は永遠がこれ以上詮索せんさくしないように、この会話を終わらせた。

車内にはしばらく沈黙が流れていたが、高速道路を降りたタイミングで入江が2人に声をかけた。
「――2人ともそろそろ着くよっ」
入江は5分ほど車を走らせると、道場の裏手に車を停めた。
停車を確認してから柊が車を降りて、永遠も続いた。2人が降りたのを確かめると、入江は車窓を開けた。
「俺はこの後予定があるからこのまま戻っちゃうんだけど、何か心配なことある?」
「・・・予定って珍しいですね」
柊が勘ぐるが、「ちょっとね〜」と言いながら入江が笑っている。
「俺は大丈夫っす」
「・・・私も問題ありません」
永遠と柊がそれぞれ答えた。
「じゃあ2人とも、後は頼んだよ☆」
入江はその言葉を残して車を発進させた。
炎駒えんく、行きましょう」
柊が道場の裏手の門の扉を開けると「おぉ、来たか」と言う歓迎の声が聞こえた。声の主は50代〜60代、白髪まじりの恰幅かっぷくの良い男性で、年齢の割には姿勢が良く筋肉量が落ちていない。
「――裏門から簡単に侵入を許してどうするんですか」
「そう言ってくれるな。不特定多数の人間が出入りしているんだからやむを得ないだろう?」
男性はかかかと笑っている。その様子を見て柊がため息をついた。
「・・・それはそうですが、警護する人間を自ら出迎えてどうするんですか、師匠」
「え?師匠?」
「紹介するわ、今日の警護対象者で私の師匠の朝海誠さん」
柊の紹介で、永遠は咄嗟とっさに身分証を取り出した。
「初めまして、俺は独立行政法人 国立情報調査局 ――」
「あぁ、メイのお友達だね。今日はありがとう」
「め、メイ?」
永遠が首を傾げていると、柊が「私の呼称なの、索冥さくめいの”メイ”ね」と耳打ちした。
「エンくん、すまないがメイと一緒に警護を頼むよ。まぁ、何も起きないとは思うんだが」
「え、エンくん?」
「師匠、炎駒だからそうお呼びかも知れませんが、変なあだ名つけるの止めてください・・・」
ポカンとしている永遠をよそに、柊が困惑しつつ指摘を入れた。
朝海は「相変わらずメイは頭が硬いな」と言いながらかかかと笑っている。
「・・・仕事の話をさせて頂きます。配置ですが、私達は道場内の表門と裏門に続く扉の前につかせて頂きます。手荷物検査をしたところで神官であれば無駄ですし、皆さん荷物が多くて時間ばかり取られてしまうので、省略させて頂きます」
柊は簡潔に本日の警護の内容を朝海に伝えた。
「あぁ、分かった」
「ところで、今日の演武は師匠が対応されるのですか?今日は、大和やまとさんはお見えにならないと伺いましたが・・・」
永遠が「大和さんって?」と聞くと、柊は「あっ」という顔をした。
「大和さんは有坂家の次期当主なの。道場の師範代もされていて・・・昨今の状況だと有坂家の立場も難しいでしょうし、色々お有りでしょう」
「俺はもう年だからやらん。今日の演武は”リョウ”に頼んである」
永遠は誰のことを言っているのか分からず首を傾げたが、柊は小さく息をついてから口を開いた。
「リョウさんは私の兄弟子なの。新潟の道場で1年間手合わせをしていて」
「メイは知らないのか、あいつ師範代しはんだい取ったぞ。昔じゃ考えられんだろ。今は東京の大学にいるがな」
「師範代・・・?あの人が・・・?」
柊が珍しく驚愕きょうがくの表情を浮かべている。
「学校にも行かず、稽古もせず、道場で寝転んでばかりだった奴がな・・・驚きだろう?」
「・・・はい。想像がつきませんね」と柊は真顔で答えた。
「なんだ、お前ら連絡取ってないのか?」
「えぇ、こちらに戻ってきてからは一度も。連絡先もお伝えしておりませんでしたし」
「まぁ、メイもリョウも訳ありだったからなぁ」と言いながら朝海は腕を組んだ。
「私が知っているリョウさんは・・・髪は青く染めてて、ピアスを2つも3つも付けてて、小さくて声変わりもまだでした。今お会いしても、おそらくリョウさんだと分からないでしょう。2年会っておりませんし・・・」
「お前の兄弟子パンチありすぎじゃね・・・?」
永遠が思わず突っ込むと、柊は「そういう人なの、諦めて」と軽く流した。
「久しぶりの再会か。仕事もあるだろうが、せっかくだからリョウとも話すといい」
「リョウさんはすでにお見えに?」
「まだ来ていないが、そろそろ――」
「師匠、遅くなり申し訳ありません」
その時背後から聞き慣れた声がしたので、永遠と柊は咄嗟に振り返った。
「え?!みおさん・・・?!」
「澪さん、今日休みっすよね・・・?」
柊と永遠が口々に驚きの声を上げると、澪はにっこりと微笑んだ。肩からは居合刀の入ったケース、手には道着が入ったバッグを携えている。
「驚かせてすみません。俺が”リョウ”なんです」



【次話】48話 思わぬ再会2-一樹の陰一河の流れも他生の縁-
6/14(金)22:00頃更新予定


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