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【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光- 9話 明かされる秘密2-隠すより現る-

前話】 【最初から】 【目次

雷は過ぎ去り、雨も小雨になっていたが、先ほどまでの雨で足元はかなり悪い。永遠とわしゅうも全身ずぶ濡れで、髪や服からは絶えず雨水が滴っていた。
「永遠は・・・どうしてここに?」
柊は木にもたれ掛かりながら尋ねた。
「柊が森に入っていくのを見たから、後を追ったんだよ。でも見失っちまって・・・」
「引き返そうと思わなかったの?咆哮ほうこうだって聞こえてたでしょうに・・・」
「お前のことを見つけ次第、引き返すつもりだったんだ。そんな危ない所にいるなんて見過ごせねぇし」
「そう・・・」と言うと、柊は息をついた。
「なぁ・・・あの化物は何だったんだ?」
「あれは怨霊おんりょう。この世に留まってしまった霊が長い月日を経て獣化した姿なの。学校でも突然ガラスが割れたでしょう。あれも怨霊の仕業なの」
「そうだったのか・・・でも、あの時は化物の姿なんて見えなかったぞ?」
「弱い霊は人に見えない。永遠が駆けつけた時にはすでに姿を隠してたし」
「それはわかったけど・・・なんで怨霊になるまでこの世に留まっているんだよ?」
永遠が疑問を口にすると、柊は物憂ものうげな表情でつぶやいた。
「理由はそれぞれだけど、人や場所に縛られてしまっていることは多い。後悔があるんでしょう・・・だから、誰かが解放してあげないといけない」
「それで、あの化物を退治したのか」
「・・・それが私の役目だから」
この言葉を聞いて、永遠には思い当たることがあった。
「待てよ。さっき仕事が残ってるって言ってたよな?兄貴の友達の手伝いってこれが・・・?」
「そうだけど」
「ったく、高校は柊の仕事の内容を知らねぇんだな?じゃなかったら、バイトの申請通るわけないもんな?」
「ううん、知ってるけど」
「知ってるのかよ!こんな危険な仕事、よく許可したな?!」
声を荒げる永遠に対し、柊は冷静に言った。
「怨霊は警察でも対処できないの・・・銃弾もすり抜けるし」
「そりゃ、霊には効かないかもしれねぇけど・・・でもさっき柊は斬ってなかったか?」
「そう、怨霊は斬れるの。本来、留霊るりょうや怨霊の対処は神官しんかんっていう人たちが生業にしているんだけど、この数年の怨霊の出現数が異常で、対処が間に合ってない。神官の中でも怨霊を対処できる人は限られているし」
留霊るりょう・・・?」
「怨霊になる前の霊のこと。怨霊になってからじゃ大変でしょ」
「えっと・・・その、シンカンってやつの手が回ってなくて、柊たちが手伝ってるってことか・・・?」
「ざっくり言うとそういうことかな」
淡々と告げる柊に、永遠はキッパリと言った。
「やめろよ。そんなアルバイト」
「え?」
「ちょっと聞いただけでもめちゃくちゃ危険じゃねぇか。そんなバイト、反対するに決まってるだろ」
「・・・私の話聞いてた?私達がやらないと、市民が危険にさらされてしまうの。それに、これは私の使命だから」
「あのなぁ、変な使命感で自分の命を危険に晒すことはねぇ・・・って・・・」
説得を試みる永遠だったが、柊に右腕の動物のようなあざを見せられて顔色が変わった。
「・・・何だこれ?」
「使命感で動いている訳じゃない。怨霊を浄化するのは私の使命なの。ーー私は五麟ごりんの力を宿した人間の一人、いかづち索冥さくめい
「は?お前、何言って・・・」
五麟ごりんは太古の昔から度々出現していたの。特殊な能力を宿した5人は、総称して五麟ごりんと呼ばれていて、彼らが出現する時は、決まって世界を揺るがす出来事が起きていた時だった。最後に現れたのは1000年前の平安時代。病や争いが絶えなかったし、あの化物も現れて、その時に出現していた五麟ごりんも怨霊の浄化に従事していたと聞いてる」
「ちょ、ちょっと待てって!話に全然ついていけねぇんだけど。柊、お前どうしちまったんだよ・・・?」
柊の秘密を知りたいとは思っていたが、あまりに突拍子もないことを言い始めるので、永遠は頭を抱えた。
「でしょうね」
「さっき柊が使ってた刀・・・ひょっとして、あれが特別な能力なのか?」
「そう。私はかみなりの力を扱うことができる。力を発動するとこんな風に一時的に模様が現れるの・・・これは麒麟きりんと呼ばれている伝説の動物で、五麟ごりんは5種類の麒麟って意味」
「悪ぃ、俺の理解が追いつかねぇわ・・・」
「それはそうでしょう・・・全てを理解してもらえるなんて思ってない・・・っ」
戸惑いを隠せない永遠をよそに、柊は大樹に体重を預けながらずるずるとその場にしゃがみ込んだ。
「おい!」
「・・・ごめん、ちょっと疲れちゃって。誰か来る前に、ここから離れないといけないんだけど・・・」
柊を安全なところに避難させたいが、永遠自身も負傷しているため、移動が覚束ないのは間違いなかった。スマートフォンを確認したが、森の中ということもあり、圏外になっている。
「どうするか・・・」

ーーカサカサ。
その時、前方の茂みが揺れて1人の男が現れた。
「茅野、無事か?」
その男は上下スーツに身を包み、黒い傘を刺している。
「・・・芝山しばやまさん遅いですよ」
たちばな永遠くん・・・だね?はじめまして。茅野かやのから話は聞いているよ。君は怪我していないか?」
「その、怨霊に襲われた際に左足を捻ってしまったみたいで・・・」
「君は怨霊のことを覚えているのかい?」
「あ、はい・・・それもあって、柊が五麟ごりんの1人”索冥さくめい”だってことも教えてもらいました」
ここまで聞いて、芝山は深いため息をついた。
「茅野・・・何のために箝口令かんこうれいがあると思ってるんだ」
「箝口令?」と永遠が首を傾げた。
「怨霊や茅野の正体について勝手に誰かに話してはいけない決まりでな」
「永遠には誤魔化しても無駄です。それに、善処するって約束していたので」
「善処?」と芝山は眉間にしわを寄せているが、永遠ははっとした。
――『どんなことでも俺たちには隠すな。絶対に言えよ』
――『・・・善処する』
(柊のやつ俺との約束を守っているのか・・・)
「・・・そうか」
芝山は柊に言っても聞かないことを悟ったのか、それ以上何も言ってこなかった。
「とりあえず移動しないと・・・」
そう言いながら柊は立ち上がったが、ふらついてその場に立っているのも覚束ない。すかさず芝山が柊の体を支えた。
「おい、大丈夫か・・・まったく、俺たちが到着するまで待機と伝えていただろう」
「強大な怨霊が永遠に襲いかかろうとしていたんです・・・戦うしかありませんでした」
芝山は柊の右腕の模様を見つつ、何やら考え込んでいる。
「やむを得ないな・・・それはそうと、2人とも治療が必要だ。病院の手配をしておこう」
「ここの後処理はどうするんすか。柊のやつ、結構派手に暴れましたよ」
永遠の言葉通り、周囲の木は根本から折れたりしていて、何かあったと捉えられるのは間違いない。
「この後のことは、あいつに任せておけば問題ない」
「あいつ・・・?」と、永遠が顔をしかめた。
「あの人来てるんですか・・・・」
「こんな日中に動けるのはあいつしかいないからな」
嫌そうな顔をする柊を見て、芝山はニヤリと笑いながら言った。
「でも学校にはなんて言うんすか。保護者が生徒を勝手に連れて帰るなんて聞いたことないっすよ」
「ここに来るまでに高校には話を通しておいた。高校としても事を荒げたくはないからな。問題ない」
「そういうもんなのか・・・?」
永遠はに落ちなかったが、芝山は気にも留めていない様子だった。
「この裏の駐車場に車を止めてある。そこまで移動はできそうか?」
「私は大丈夫ですので、永遠に肩を貸してもらえませんか」
「そうか、わかった」と言って、芝山は永遠に手を伸ばした。
「大丈夫です。歩けます」
永遠は差し伸べられた手を受け取らずに、左足を引きりながら歩き出した。すると、永遠の少し前を歩く柊の後ろ姿が目に入り、怨霊に襲われそうになった時に柊が現れた情景と重なって映った。
この背中に守られたんだと思うと、柊との距離が遠く感じた。




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