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銀座線でひゅー

まだだいぶ期間があるから絶対大丈夫。と思っていたチケットが期限ぎれ直前となり、急いで出かける。東京国立博物館のチケットの期限が迫っていた。
表参道で用事を済ませ、銀座線で上野へ。

企画展ではなくて通常チケット。本館だけでも広く、多くの美術品が展示されており、日本の美術が順番に見ていくと大体網羅できるようになっている。

量が多すぎるので、いつも見たいものだけをみることにしている。

今回はお能の面(おもて)の「写し」についての展示が展示室14(だったと思う)であるとのことだったので、それを目的に行くことにした。「伎楽面も一緒に見よう」と思う。面の日だ。

毎回、見たい展示と「国宝ルーム」で屏風を見て、あとは一つぐらい気になるものを見る。というのがいつもの見方。今回もそんな風にしようと思う。

最初に国宝ルームへ。今の時期は檜図屏風。力強い画風の檜がいっぱいに広がる、豪快な狩野永徳の屏風だ。屏風好きなので、屏風があるとつい目的のものでなくとも見てしまうけれど、今回はこれが国宝ルーム(と呼んでいるけれど多分2室)の絵。この部屋はソファーがあって、ここに座って絵を楽しんでいる人もいる。いつもここでこの絵だけ見ているという風情の人を見ると羨ましい見方だなと思う。なるべく屏風に集中し、それを見た時の気持ち、気分を忘れないようにしよう、と思いながら見る。

急いで目的の技額面の部屋へ。大袈裟なようでいてリアルな技額面。大体が結構激し目の顔なので、地味な顔の私は「うらやましいな」と思うこともある。大きめのものが多い印象だったけれど、今回の展示ではそれほど大きくないものもあり。後のお能の面へとも繋がっていくような、そんな雰囲気を持つものもあり。面白く見る。

お能の面は「よくわからない」とずっと以前は思っていたので、あまり見ていなかったけれど、最近見ると「おもしろいな」と思うようになった。以前じつは誰もいない(偶然)博物館でずらーっと本当にずらーっと並ぶ面を見たことがあって、その時ものすごく怖かった記憶があって、それでちょっと苦手だとおもっていたところもあるかもしれない。それより、小学校の頃、祖父母の家にあった面がすっごく怖かったという記憶もうっすら関係があるかもしれない。ほとんどないかもしれないけれど。

歳をとっていいのかわるいのかわからないけれど、とにかく以前怖かったものや何かがそれほどでもなくなることがある
その一つがお能の演じてない時の面だと思う。
特に女性の面。

今回の展示は「写し」をテーマにしたもの。写しとは古い面を傷や色の剥落したところや鑿跡まで写して作るもののことで、中世に作られたものを江戸時代に作り直した、写して作ったもののこと。その写しとは単なるいわゆる「本物」と「そうれないもの」ではなく、伝えていくもの。オリジナルからもう一つ、と写し取られ作られるもの、写しを参考にさらに写しが作られるものといった移り変わり、もとのものからキャラクターが変わったものなど、面の不思議と人の顔の不思議も合わせて考えさせられつつ、お能の面の色々を見ることもできる展示。

私は特に写しに興味があったわけではなくて、女性の面、「小面」(若い女性)をいくつか見たいな、という気持ちがあって行った。

少し前のことになるけれど、根津美術館で女性の面を多く展示したことがあった。そこでずらっと横から見ていって、最後のところからまた最初へ、と繰り返し見ていくと、あまりにそれぞれの顔の違い、あんなに決まりきったような顔のように見えて、全然違う顔にはっとさせられる経験をしたことがあったのだ。

それで、また見たいなと思っていたところ。
今回の展示は割合でいうと女性の面も多く出ていて嬉しかった。

「曲見」(しゃくみ)とうい中年女性(でも美しい顔)がいくつか、というところから小面という若い女性(確かにちょっと若くなった!と思う)、そして少し違う種類の面があって、万媚という可愛い系の顔が出てくると「か、かわいい・・・!」と思う。そしてまた曲見に戻ると「確かに落ち着いてる」と思うのでぜひ順番にじっくり見てみてください。

こんなふうに部屋をぐるぐる何回もみて回れるので、楽しい。

すぐれた面の存在感はものすごく、それだけがあっても「生きている」感じがある。お能で面をかけるのは素晴らしい発明(?)だなと思っているけれど、それも優れた面の力があるあらなのかもしれない。
お能をみていると、時々面が演じているような感覚が強くやってくることがある。あの感覚もすごく面白いと思っている。


面を堪能したので、疲れたから帰ろうかな、と出口へ向かう途中で「水禽図」と書かれているのが見えるコーナーで綺麗な水鳥たちの絵を見かけた。

「禽譜」 堀田正敦という人が編んだ鳥の図鑑のようなもの。みずみずしい千鳥や川鵜など素晴らしく綺麗だ。みていると「ダチョウ」があって、ダチョウだけなんだかすごく異質で「ダチョウって描きにくいのかなあ」と思いながら見る。
とても面白いし、江戸時代の絵だからか添えられた説明の文字も比較的読みやすい。美しく生き生きとした鳥の姿の美しい図譜の一群だと思う。

用事の帰りに寄ったので、くたびれてしまい、これ以上は無理と打ち切って帰る。また銀座線でひゅーっと帰る。

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