見出し画像

母、はじめて”あんこ”を作る

火を止める加減がわからない。
プツプツという音に聞き耳を立てながら、立ち上ってくる甘い香りを吸う。
私は今、鍋で小豆を煮ているところだ。最初はあずき粥をつくろうと思って、スーパーで小豆の袋入りを買ったのだ。
こんなことを書くとよく豆を煮る人なのかと思われるかもしれないが、乾燥豆を買って自分で調理するのは初めて。「豆を煮る=料理上手」なイメージを抱く自分としては、レベルの違う新たなジャンルに挑戦している。

先日息子が体調を崩してから改めて食事を見直そうという意識が私の中で高まっている。思えば少し前から毎朝の検温で、息子の体温が低いなぁとは気づいていたのだ。体温計は時に35度台を示す事もあった。驚いてちゃんと挟めてないよ!と測りなおしをさせ、2度目に6度台になるとほっとしていた。ちゃんと身体に現れていたのに気が付かなくてごめん、と反省。それからは身体の中心を温める食事や生活スタイルを心掛けている。

そんなこんなで小豆購入に至ったのだが、袋の裏面にあんこの作り方が載っていたのを見てあっさりこちらにレシピ鞍替えとなった。あんこの方が息子が喜ぶと思ったのだ。ぜんざいにあんバターサンド、そして寒かろうがなんだろうが時に食べたがるアイスに掛けてもおいしそう。(食べさせないと言う訳にもいかず)

***

袋の裏面の簡略化したレシピを頼りに初めてのあんこづくりは、いささか無謀だったのかもしれない。例えば、入れる砂糖のグラム数は250~300gと明瞭なのに、塩に関しては少々となっているのに迷う。
ここでいう少々はいつものひとつまみのショウショウでいいのでショウか。

慌ててここでネットのレシピなどを見たりする。すると、豆をつける時間も、水の量も手順さえもレシピそれぞれに違っていると気づき、もっとあたふた慌てる事になる。
砂糖は袋の指示通り分けて入れたが、入れる間隔の指示はなかった。レシピによっては残りの砂糖を入れるのはかなり最後の方で、それがふっくらのコツであったりする。
もう後の祭りであるので仕方ない、ふっくらはあきらめよう。何せ初めてなのだから。

そう、塩である。小豆の似た分量でいくつか検索すると、塩は小さじ1/2の表記が多いので、今回はそれに準ずることにした。
あとは弱火でじっくりと煮詰めながら、水分がなくなるのを待つのだと思う。

さっきネットのレシピを見た時には焦がすことに注意と書いてあった。
(袋にはそんな表記はない)
あまり、かき混ぜない方がいいともあつた。(袋にはそんな注意はない)

何度も鍋の中を覗きに行きながら、そうだ母に電話で聞いてみようと思った。私が小さい頃、冬になると母にねだって時々善哉をつくってもらった。
一度「ぜんざい」のつもりで「ぞうに」と言っていて、しっかり「雑煮」が出てきた時はおいおい泣いた。気が付かず泣いて抗議したのをまた母に叱られた。それも今は遠く懐かしい思い出である。

父にLINEを掛けて母に出てもらい、動画で鍋の画像を見せる。(母の携帯に掛けてもうまく取れない事が多いので)
母はえ!小豆?あなたが煮てるの?へぇ!と感心してばかりで、私の質問があまり届いていない。
そうですお母さん。あなたの娘はいよいよ豆を煮る娘になりました。遅...。

すでに1時間以上煮詰めていて、いまこんな感じなんだけどと、鍋肌に少し水分がぴちぴちと当たっている画像を映し出す。火はまだ止めない方がいい?あんこだから砂糖と塩はもう入れてあるんよ。

動画を見て、母があんこ、いいやないの~。と褒めてくれる。
それから、塩をちょっと入れたらいいのよ、とか指でつぶれたらいいとか、赤飯にするんだったらこうしてこうして、と話が続く。

あ、あんこだからもう甘いの。粒あんなの。という説明を何度かしてるけれど、母の塩と赤飯のアドバイスは繰り返される。高齢の母は、今聞いた話が覚えられない事が多々ある。それよりも自分が気になることが先に口をついて出るのだ。

苦笑いしながら、それでも良いかと私は思った。
なんだか、母と娘の会話っぽいなと思って嬉しかった。

その間もクツクツと小豆は煮え続けていた。結局母からは、止め時のアドバイスはもらえなかったので、わぁわぁ話して電話を切った。私は自己判断の頃合いで火を止め、そのまま冷まして味をなじませることにした。

***

夕方、学校から帰った息子に出来立てのまだ温かいあんこを出した。
これ作ったの、すごーい!と言って「美味しい!」の言葉をもらった。

お母さんも嬉しい。
思い出に残る、初めてのあんこづくりになった。

画像1

※このあと彼は、しばらくの間何もかもが「あんこづくし」になることをまだ知らない。(あの豆からこんなに沢山できるんだ。)

この記事が参加している募集

#至福のスイーツ

16,149件

興味をもって下さり有難うございます!サポート頂けたら嬉しいです。 頂いたサポートは、執筆を勉強していく為や子供の書籍購入に使わせて頂きます。