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随筆から人柄を知って文豪作品に興味をもつ。 志賀直哉の「衣食住」

志賀直哉の随筆「衣食住」という本を図書館で借りて読んでいる。

「暗夜行路」も「小僧の神様」も読んでないのに、文豪の書いた生活についての話を読むのが好きなので、こういうのもアリかと思っている。

時代のせいでもあるけれど、犬や猫は、当時は拾ったり譲り受けたりが当たり前だったのもあり、距離も言葉もかなりドライなところも読んでいて面白い。うちの子(犬)がコットの上で無防備な姿で横になっているのを見たら、なんと書かれるだろうか。

その中に、「今度の住まい」という随筆がある。初出は昭和30年9月の芸術新潮とあるので今から65年ほど前のものだ。

まだ自分にその気のない時分に、谷口吉郎さんに(建築家 谷口吉生のお父さんだ)に「全く洒落気のない、丈夫で、便利な家を作るとして、坪、幾ら位かかりますか」と問うたそうだ。
谷口さんは「それが一番贅沢な注文なんですよ。洒落た事をしてもよければ幾らでも誤魔化せますが、洒落れちゃあいけないと云われて、いい家を建てるのは一番六つかしいですよ」と云ったという。その1年後に結局家を建てることになり、谷口さんはその意を汲んで苦心してそういう家を建ててくれたと書かれている。

建築好きとしては、この家を拝見してみたい。
そう思うとすぐネットで画像を検索してしまうのだけれど、noteでちょうど同じ随筆をひいて常盤松の志賀直哉邸について書かれている方がいて、拝読した。谷口吉郎が設計者としてこの偉大な文豪の真贋にかなうよう、苦心して取り組んでいたことが知れる。

↑引用させていただきました。ありがとうございました。

室内の写真などはネット上では見当たらないので想像するばかりだけれど、ここは志賀直哉にとって、それまでに22回も各地を転々としてきた末の終の棲家。本の中で「住」は何処までも自分たちの住む所で、客にみせるためのものではないという事に徹したいと思っていたと書いているので、あとから画像が散見されるようなことにもなっていないのだろうと思う。
深い庇の玄関、居間に置かれたペリアンの黒い椅子など、想像して楽しむばかり。建ったころには既に発表されていた谷崎潤一郎の陰翳礼讃なんかは影響があるのかしら、など夢想する。志賀は谷口の設計に大変満足していると書いている。

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読んでいるのは随筆集なので、志賀直哉が様々な媒体に掲載した文章を「衣食住」というキーワードであとから集めたもののようなのだけれど、日常を綴った文章なのでとても読みやすく文豪を近しく感じる。
人物像を"明治生まれの亭主関白 "と勝手に想像していたが、奥様との些細なやりとりからはそればかりではないコミカルな人柄がにじみ出てぐっと親近感がわいてくる。

同時代の文学界を歩んでいた人たちもそうそうたるもので、夏目漱石や武者小路実篤やらの話が、普通にでてくるのも面白い。
芥川龍之介の作品批判を直接本人にむかって伝えた際には、その小説の話の中でどうやって読者をつれていくのかについて、絶対的な自分の技巧の自信が見える。
そんな風に連れられていくのかどうか、実際読んでみたくなるのだ。


先に書いたが「暗夜行路」や「小僧の神様」などは敷居が高いと思い込んで読もうともしなかった私だけれど、「志賀直哉」という人物に対しての興味もぐっとわいたうえで、これらの作品を読んでみたいと思っている。
本当の文学好きからは邪道なのでしょうが、こういう入り方もありですよね。


新刊の取り扱いがないみたいです。ご興味ある方は図書館で探してみてください。


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