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【適応障害日記#2】さみしいときは海海海

 小説がもっぱら読めなくなった。

 自宅、電車、カフェ。どこで単行本を開いて文字を追いかけても頭の中に入らない。調べてみると、適応障害の特徴らしい。集中力が欠落して、今まで普通に読めていた文章も読めなくなると。

 試したくなった。
 文字通り「今まで読めていた文章」、つまり、今までに読んだことのある本なら頭に入るのではないだろうか。
 そうして、自宅の書斎という名のロフトからお気に入りの本を引っ張り出した。

村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』
川上弘美『神様 2011』
桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』
寺山修二『さみしいときは青青青青青青青——少年少女のための作品集』
(作品集)
宮沢賢治『新編 銀河鉄道の夜』
(作品集)

 選りすぐりのこの五冊の中で、見事「頭の中に入った」のは、寺山修二だった。

ぼくは不完全な死体として生まれ
何十年かかかって
完全な死体となるのである

寺山修二『さみしいときは青青青青青青青——少年少女のための作品集』
2023年10月10日、ちくま文庫、p334より引用。

 寺山修二によると、海で死んだ人はみんなかもめになってしまうらしい。
 これがチェーホフの戯曲『かもめ』に影響を受けていると思われるが、私はそれ以外、かもめがなぜ神格化して書かれるのか甚だ疑問が残るのである。けれども、海で死んだ漁夫の魂がかもめになって会いに来るのなら、さみしいときは海に行けばいいと思ったのだった。


2024年8月7日 水曜日

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