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天邪鬼という鬼を味方にして (閑吟集19)

「思へど思はぬ振りをして しゃっとしておりゃるこそ 底は深けれ」

恋と気付く前に、
気になる人だけど、まだ自分がその人に恋をしているかどうかわからない期間がある。

その人のことが本当に好きなのかもわからず、本当にこの人でいいの?というためらいもある期間。

素直に恋に落ちるのもまだ早いと言う理性や、誇りが心の中を錯綜している状態。

ただ、何かのきっかけで、ストンと甘美な恋の奈落に落ちる予感がほのかに漂っているのもわかる。

その期間においては、相手に対してまだ自分の曖昧な想いをさらけ出すのはためらわれ、好きだと一言言えば良いものを、あえて気のない素振りや言葉を発してしまいがち。

この時、天邪鬼という厄介な鬼が、密かに男と女の恋の始まりをこっそりと演出し、
想えども、想わぬ振りをして、その時の相手の反応を見ながら、お互いの気持ちを探りあっている。

想わぬ振りをして、相手が寂しそうな雰囲気を出してくれれば、自分に対する気持ちが確かめられ、無頓着ならば逆にこちらが寂しくなってしまう。

しかしその無頓着が逆に相手の天邪鬼のいたずらだと伝わってきたならば、その素振りもまたかわいくて、さらに愛しくなったりする。

言葉と裏腹に、その目は自分に対する興味、関心で満ち溢れているから。


「思へど思はぬ振りをして しゃっとしておりゃるこそ 底は深けれ」

「思へど思はぬ振りみせて すき間に見る目のいとしさよ君」 

(閑吟集)

「私を想っているのに想っていない振りをして、無理している。でもそれが私に対する想いの底が深いことを伝えてくれるのですよ」

「私を想ってくれているのに想っていない振りをして、でもふと合間に私を見る目がその想いを語ってくれている。あなたのその目がとっても愛しいのですよ」

恋の始まりにおいて、こんな天邪鬼の恋の駆け引き。

これを経てついに体を重ねあった時、お互いに何も隠すことなく、想いをぶつけ合えることになるのだろう。

天邪鬼と言うかわいい鬼。

味方につければ、恋という奈落の底に向けてあなたの背中を押すだろう。


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