見出し画像

ホテルのスイートルームに泊まるのをオススメできない理由

一流ホテルのスイートルーム、泊まったことありますか?

僕はあります。

というか、こないだ初めて、旅行で泊まってきました。

そしたら、とんでもない目に遭いました。

だから、オススメはできません。


何があったのか、順を追って話しましょう。


ー スイートルーム、行ってみよう


住んでいるマンションから車で1時間くらいのところに、ある歴史的な観光地があるのですが、先週末、嫁と一緒にそこへ行ってきました。

コロナ禍の2年間、我々夫婦は家でおとなしく引きこもる生活を送っていたので、旅に出て散財する機会もなかったのですが、今回はその鬱憤を晴らすかのように奮発し、その街にある外資系ホテルのスイートルームに乗り込んできたわけです。

チェックインのときには、オーランド・ブルームのような容姿のホテルマンが、早速VIP待遇してくれました。

ホテルに到着するやいなや、こちらが名乗ってもいないのに、向こうから「青砥さんですか?お待ちしておりました」的なことを言ってくれたんです。

まあ、名乗らずに気付かれたのは僕らが日本人で目立つからだと思いますが、それでもこんな形で声をかけてもらえるなんて、スイートルーム客への対応は一味違うな、と早速思わされました。



ー スイートルーム、お邪魔します


オーランド・ブルーム激似男に案内されたのは、ホテル最上階にあったスイートルーム。

目を見張るのは、まずその広さ。軽く100平米以上はあるでしょう。

室内に扉が多く、部屋がいくつかに分かれています。

リビングには、ジャイアント馬場が横になれそうな巨大ソファや、ツイスターが置けそうな大きなテーブルが鎮座していました。

そして、入口から一番遠くに位置する奥の寝室には、100人乗っても大丈夫そうなサイズのベッドがありました。

寝室の窓からは、街の中心街を見渡すことができます。
まさに、贅沢の極みの空間でした。

一通り室内を満喫したあと、一旦外に出て、大人な雰囲気のプールサイドでくつろぎ、その後VIP感漂うホテルラウンジで暴飲暴食をカマし、また部屋に戻ってきました。

さて、お風呂の時間です。

これまでの経験からすると、ハイクラスのホテルでも海外だと浴槽がないところが多いのですが、やはりスイートルームは別格。
ジャグジー付きの浴槽がドデンと置かれているのです。

当たり前のように泡風呂を堪能したあと、持参していたパジャマや下着には目もくれず、柄にもなくバスローブを羽織りました。

旅行中はつい夜更かししがちですが、今回は日中にはしゃぎ過ぎて疲れていたからか、24時前には眠りについてしまいました。


ー スイートルーム事件簿


夜中、急に目が覚めました。

尿意を感じたので、トイレに向かったんです。

このスイートルームの中にはトイレが2つあるんですが、寝ぼけていた僕は、何故か寝室から遠い方のトイレに行きました。

夜中の何時なのかもわからず、トイレに向かう足取りもフラフラしていたはずです。

トイレに入り、便座に腰を下ろし、おとなしく用を足しました。
どうでもいい話ですが、僕は入籍して以降、嫁から立ちションを封じられているので、この日もいつも通り、座りションです。
いくら寝ぼけてたって、この型は、体が覚えてるんです。

目的を果たした僕は、水を流し、手を洗い、ドアを開けて、トイレから出る、という基本動作を行いました。

ジィー、バタン、ガチャ。

トイレから出ると、背後でそんな音が聞こえました。

重いドアがゆっくり閉まり、鍵のかかる音です。

あれ、なんかおかしいな。

トイレから寝室に戻るつもりだったのが、廊下に出ている…?

そう、僕がトイレのドアだと思っていたものは、スイートルームの出入口のドアだったんです。

部屋のドアにはオートロックがかかっており、外側からドアノブを引いても、扉は当然開きません。

寝ぼけていた頭が、一気に覚めました。






やっちまったぁぁぁああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!




僕は気がついたらホテルの廊下にいて、自力で部屋に戻れなくなってしまっていたのです。



ー スイートルームに戻りたい


そのときの僕は、バスローブ一丁に室内用のスリッパという、まあまあワイルドな格好でした。

こんな露出狂みたいな姿を、誰かに見られるわけにいかない…

一刻も早く、部屋の中に戻らねば…

中にいる嫁に、ドアを開けてもらわねば…


普段は嫁の睡眠を妨害しないことを美徳としている僕ですが、背に腹は変えられません。なんとしても、嫁に起きてもらおう。

と思った矢先、気がつきました。

呼び鈴がないのです。

僕の経験では、この手のホテルのドアには大体インターホンがあるのですが、このホテルのスイートルームにはそれがついてなかったんです。

僕は頭がクラクラしてきて、悪い夢でも見てるのかと思いました。


ー スイートルームのドアと格闘


この場合、残された手は何か。

それは、ドアをノックすることに他なりません。

スイートルーム前にいるバスローブ男がすがりつくようにノック、これはともすれば危険な絵ですが、もうなりふり構っていられないので、恥をしのんでやりました。

が、2、3回ノックして、すぐに悟りました。

このノックの音、寝室まで、届くわけない。
ベッド、入口からめっちゃ遠いんだから。

いやそもそも、ドア自体も、無駄に重厚過ぎるんです。
スイートルームの入口、堅くて重くて分厚くて、防音が過ぎるんです。
このときほど、スイートルームのクオリティを恨んだことはありません。

いや、実際には、ドアは、スイートルームも普通の部屋も同じかもしれません。
でも、そのときの僕は、スイートルームのドア、なんかやたら重いなと、そう感じたんです。

嫁に気付いてもらうために数段階強めにノックすることも考えましたが、同じフロアの宿泊客がこんな夜中に何事かと廊下に出てきたらそちらの方がマズいと思い、ノック強行作戦は諦めました。


ー スイートルーム前で考え込む男


一度状況を整理すると、身につけているものは、バスローブとスリッパのみ。

このとき僕は、マスクもしていなければ、メガネもかけていませんでした。

このご時世、マスクなしもヤバいですが、メガネなしも僕にとっては非常事態です。

僕はいつも、日中はコンタクトレンズをつけており、度数は両目ともに−6.5とかなり目が悪いので、朝晩はメガネなしではまともに動けません。

裸眼では目を凝らそうと細目になるので、人相も悪くなります。

スイートルーム前でバスローブ姿で細目で考え込む自分の姿は、不審者そのもの。

数分間、スイートルームのドアを前に、ただただ仁王立ちしていました。

そもそも、今何時なんだろうか。夜中の3時だろうか。5時だろうか。

ー スイートルームに戻るべくフロントにSOS


もうこうなったらホテルの人に助けてもらうしかないと、フロントに行こうと決めました。

バスローブにスリッパという格好で、マスク無し且つほぼ目が見えておらず、室外を闊歩するには思いっきりアウトなわけですが、このまま廊下で固まってるわけにはいかないので、「ホテルマン以外とは誰とも出くわしませんように」と願いながら、泥棒のような足取りでエレベーターホールへ向かいました。

人の出入りが殆どない時間帯だったからか(体感的には夜中の3時くらい)、無事に誰にも会わずに、ロビーまで辿り着きました。

フロントに見えるのは、男性っぽい人影2人分。

が、表情まではわかりません。

僕の視力では、半径30センチくらいの距離まで近づかないと、相手の表情がわからないのです。

なんとなく、昼間のオーランド・ブルームではなさそうだな、ということだけはわかりました。

フロントの男性2人に向けて、恥ずかしさをこらえながら、伝えました。

「間違えて部屋の外に出てしまいました、部屋番号はXXXXです。妻に鍵を開けてもらいたいので、電話を貸してください」

マスク無しだったので、口元を手で覆いながら、「飛沫は絶対に飛ばしませんよ」というアピールも欠かしません。

人相が悪いと思われないように、目をくっきり見開きながら2人の男性を交互に見つめました。

片方の男性が、「そちらのデスクにある内線をどうぞお使いください」と優しい声で対応してくれました。


ー スイートルームへ電話


早速その電話を借りて、部屋番号に内線電話をかけました。

僕は焦っていました。
一刻も早く、部屋に戻らねば。

電話が無音状態からコールに切り替わりました。
よし。このまま、応じてくれ、嫁よ。

しかし、何コール鳴っても、嫁は出ず、そのまま電話が切れてしまいました。


ああ、終わった・・・。
嫁、呑気に寝てやがる・・・!


なんてことは紳士な僕は当然思わず、「嫁、頼みます。起きてください」と低姿勢で念じながら、2回目の電話をかけました。

すると、念が通じたのか、ようやく嫁が電話に出ました。

僕「オレ、オレだけど。ちょっと、部屋の鍵開けてくれない?外出ちゃって戻れなくなった」

嫁「・・・え、なんで?」

警戒心MAXの嫁に、「夜中にトイレに行ってそのまま間違えて部屋から出てしまった」というのを、努めて落ち着いた声で伝えました。

嫁から了承を取り付けると、僕はフロントの男性2人にお礼を言い、競歩選手のようなスピードでエレベーターに乗り込みました。


ー スイートルームに戻るんだ


エレベーターに乗り込んだあと、最上階のボタンを押してもボタンが反応せず、そもそも自分のフロアに行くためにはカードキーが必要なことを思い出しました。

そのとき、ホテルマンの1人がスタッフ専用キーを持ってエレベーターに現れ、最上階のボタンをさっと押してくれました。

僕がそのホテルマンに全身全霊でお礼を言うと、彼は僕に微笑みかけてきたような気がしました。

いや、実は、微笑んでいるのではなく、僕のことを笑っているのではないか?

笑っているに違いない。

この後、フロントの2人で、この出来事をネタにして話すことでしょう。

A「さっきの日本人、なんだったんだろうね?スイート客だよね?」
B「いやぁ、変人だったな。そもそもスイートルーム自体、間違えて予約したんじゃねえか?あの感じ、普通のスイート客とは思えないだろ」
A「ククク。たしかに。にしても、なんで鍵持たずにあの格好で部屋出たんだろうね?」
B「さあな。嫁さんとケンカでもして、部屋を追い出されたんじゃねえか?」
A・B「HAHAHAHAHA☆」

ああ、絶対こんな会話してるはず。


ー スイートルーム、ただいま


こうして最上階に戻り、嫁がドアを開けてくれて、無事に室内に戻れました。

嫁は完全に呆れていましたが、僕は部屋に戻れたことが嬉しくて、安堵に包まれていました。

寝室に戻ってスマホを見て、そこで初めて、まだ夜中の1時だったことを知りました。

なんと、眠りについてから1時間しか経っていなかったんです。

夜中1時だったらホテル客とすれ違ってもおかしくなかったな、あのスタッフ2人以外には誰にも会わずに済んで良かったなぁ…としみじみ思いました。


これが、スイートルームで僕が体験したトラブルの一部始終。

これからスイートルームに泊まる人がいたら、夜中に寝ぼけて部屋の外に出て締め出されないように、気をつけてくださいね。


ちなみに、部屋に戻ったとき、バスローブがはだけていた僕を見て、嫁がこう言ってました。

「いろんな意味で、珍顧客だね」

そういえば、エレベーターのボタンを押しに来てくれたホテルマンの視線は、なんとなく僕の下半身の方に向けられていたような・・・。



おわり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?