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白の残骸

何年前のことだったかな
もう二十年も前のことだ
君は学校の屋上から飛び降りて
自殺したね

しっかりと遺書に
僕の名前が書いてあったからさ
その呪縛にずっと
取り憑かれていたよ

実は僕はその瞬間を見ていない
そしていまだに
飛び降りるシーンを想像していない
リアルに考えようとすると
身体がガタガタ震えてしまうから

いつも呼ばれている気がしてた
あの世から
地面から這いでる君の白い手が足首を掴む
そんな夢ばかり見てた
これって悪夢って言うの?
いや
悪夢じゃない
不確かとはいえ君の一部に会えたんだから

君は永遠の若さのままでこの世を去った
僕は生きていれば楽しいことあるよと生きた
でもこの有り様さ
どちらが正しいか分からない始末
生きて行くことを選んだはずなのに

確か君が屋上から飛び降りる一週間前に
僕らは食事をした
僕の就職祝いという名目だったかな
でも君は決めていたんでしょ
命を断つことを

その時だよね
僕にぬいぐるみをくれたのは
白いクマのぬいぐるみ
名前はミルク
二人でそう決めたんだっけ

僕といえばぬいぐるみだよねと
訳分からない事を呟いた君
なんだよそれって
ちょっと引きながら受けとった

ずっと棚の上に飾っていた
ずっと棚の上からミルクは僕を見てた

日々は過ぎる

僕が君のことを忘れかけたときも
ミルクはずっと僕を見てる
ずっと見てる
ずっと

そのミルクがいま僕を見てる
目が合った
どうしたらいいんだろう
ミルク
教えてよ

僕は死の誘いを受けていた
死の誘い?
あなたは笑うかもしれない
あるんだよ
あなたの知らないところで
闇の世界のしきたりが

こんな僕を
君の分身のようなミルクが見てる
ただただ無言で見てる

いまじゃ
白いミルクは色褪せていた
棚の上に放置され埃まみれ
そうなんだけど
なんだけど
なんだけど
それでも
それでも
それでもさ
微笑んでいるように見えたんだ
僕にはさ

ほんと僕だけの感覚かもしれない
だけど
それでも
救われた気がしたんだ

あなたはそれを聞いて笑うでしょう
百パーセント想像できる
そうだよ
笑われてもいい
なぜなら
いま
また生きることを
選ぶことができたのだから

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