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セラムン二次創作小説『打ち上げ花火、上から見るか下から見るか?(まもうさ)』


『打ち上げ花火、上から見るか下から見るか?(まもうさ)』

「うわぁ~、すっごく綺麗~♪」

隣で喜んでいるうさぎを見て安堵の表情を浮かべる衛はここに来てよかったと心から思えた。
見えないかもしれないと言う恐れは持ち合わせていたが、どうしても衛自身がここに来てみたかった。

「そうだな、よく見えるな花火」
「うん、特等席でゆっくり見られて。ここで見るって発想が無かったから驚いたけど、ロマンティック♪」
「気に入ってくれましたか、プリンセス?2人きりだし、誰にも邪魔されなくて最高の場所だろ?」
「まさか月から花火を見下ろすなんて考えてもなかったな。まもちゃん、天才だよ!」

そう、花火を見るのに衛がうさぎと来たのはうさぎの前世の故郷である月だった。
故郷に来た事で上機嫌になったのか、うさぎはとても饒舌になっていた。
2人がいる場所はクインメタリアを倒すにあたり、祈りの力で解放した銀水晶で見事に蘇ったムーンキャッスルのバルコニー。
前世の時、地球から月へ行くことは許されず、平和だった時の月へ行ったのはたったの1度だけ。
余り堪能する事は出来ない中で記憶に鮮明に残っているこの場所で打ち上げ花火を見る事にした2人。
衛もうさぎも蘇ったあの日以来だった。

「まさかまたここに来ると思わなかったな……」
「嫌だったか?」
「ううん違うの!よっぽどの事が無いと来ないでしょ?ましてや一人で来るなんて寂しくて出来ないから、こうやってまもちゃんと来られて単純に嬉しいんだ」

複雑な表情でうさぎが言うから衛は来たくなかったのでは無いかと不安になるが、嬉しいと喜んでくれてホッとする。
うさぎの口振りからしても本当はもっと来たかったのではないかと読み取れる言動に衛ももっと早く提案してみればよかったと思った。

「花火大会に人が多過ぎて逆に感謝だな」
「本当だね。あんなに人が集まってくるとは思わなかったよ……」

そう、何故月に来る事になったかと言うとそれは一時間程前まで話は遡る。
夏休みのイベントの一つである花火大会に行く約束をしていた2人は出店もあるからと早めに出たのだが、どこから集まって来たのか人でごった返していて、身動き一つ取れそうにない状況だった。まさに花火の人気がどれほどのものか思い知らされ、洗礼を受けた形だ。
これは花火の時間に間に合わないどころか、出店にもあり着けそうにない。
ガッカリしているうさぎを見て何か打開策は無いかと考えた衛はうさぎの銀水晶で月へ行く事を思い付いた。

衛のマンションに帰って見てもいいが、それではいつもと変わらない。それに今回の花火が上がる方向はマンションからは方角的に見えにくい。
違う場所でうさぎと思い出を作りたいと考えていた衛は月が最適なのではと考えたのだ。
そしてその考えは甲を制した。
もしかしたら見えないかもしれないと考え、一か八かの賭けだったが、地球の様子がとても身近に見えていて驚いた。
そりゃあセレニティが地球に憧れて降りてきたくなるのも納得だった。
あの頃、衛がエンディミオンとして月に憧れ見上げていたように、セレニティもまた地球に憧れていて同じ気持ちだったのだとムーンキャッスルのバルコニーで花火を見ながら衛は思い知った。

「ごめんな、うさ。せっかく浴衣まで着てたのに」
「全然、大丈夫だよ!まもちゃんが私の為に連れて来てくれたんだもん。まもちゃんさえいれば、まもちゃんに見てもらえれば私はそれで満足♪」

うさぎは張り切って浴衣を着ていたのだ。
しかし、うさぎはそんな事は気にしないどころか、どうでもいい感じだった。
笑顔でそんな事を言われ、衛はもうそれだけで満たされた気分になる。

「俺もそんな可愛く浴衣を着こなしてる恋人を誰にも見せたくないし、うさがいてくれたらそれだけで幸せさ」
「まもちゃんったら!」

照れながら喜ぶうさぎと視線がぶつかり、どちらとも無くキスをした。
そんな2人を祝福するかのように花火の音が響き渡った。

衛は月に来られたことに感謝していた。こんな事でも無い限り、来る事はないから。
今回もあまり長居出来なかったけれど、うさぎが喜んでいたのが衛としてはとても大きかった。
今度来る時はもっと時間に余裕を持ち、ゆっくり月を見て回りたいと衛は思った。

「じゃあそろそろ帰るか?」
「うん」

花火が終わり、帰る時間になってしまった。
うさぎは銀水晶を取り出し、衛と二人で地球へと転移した。
お互いにまた前世では叶わなかった月でゆっくりデートをできる日を夢見て、うさぎの銀水晶で地球のうさぎの家の近くまで戻ってきたのであった。

おわり

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