夏休みの自由研究


世間の子どもたちは夏休みであるらしい。
どこへ行っても夏休み中の子どもたちが集っているし、買い物に行こうなら夏休みの自由研究キットが並んでいる。
良い研究題材を並べる博物館や教育施設も出てくる。
博物館実習で子ども向けギャラリートークの原稿を書いたっけ。

自由研究。
毎年この時期になると思い出す同級生が居る。

小学校一年生の秋。
机の上に夏休みの宿題と各々作ってきた工作やら絵やら自由研究を出していく。
その中で一等クラスの目を引いていたのはYちゃんの昆虫標本だった。
それはA4サイズにも満たない小さなものだったが、中身は博物館にあるような本格的な標本。
きちんと加工され針で展翅してあるような。
私はその頃読んだ昆虫図鑑に標本の作り方を思い出していた。
昆虫を採集し、できるだけ生きている時の色を保つための〆作業、防腐加工、昆虫針で展翅……

Yちゃんはどちらかと言えば、虫から逃げそうなタイプの女の子であった。大人しく、静かな方である。
が、見かけによらずとはこのこと。
とにかく昆虫が好きだった。昆虫を素手で捕まえてキャッキャしている子であった。……私は成人した今でもセミを素手で捕まえてキャッキャしているが。

私がそうだったからだろうか。
今思えば、凄い事だと思う。
今でこそ、好きなものに男女などないということは理解している。
昆虫=男の子のもの 女の子なのに虫が好き、気持ち悪い
それらを超えて堂々と提出してきたのである。
私は恐竜が好きだと言って、「えー女の子なのに?」と祖母に言われたことを思い出す。悪意はないだろう。
そういう世界なのだ。

Yちゃんは二年に上がる時に転校した。
クラスの全員に小さなプレゼントを残して。
女子はヘアピンをもらった。そのヘアピンもどこかへ行ってしまったが。
連絡先も知らない。交換すらしていないぐらいの仲だった。
だから、Yちゃんのそのあとは知らない。
昆虫への興味がどのぐらい続いたのかも、もちろん今何をやっているのかも知らない。知る手がかりもない。

ただ、どこかで同じように、好きなものを堂々と好きだと貫いて追いかけていたら良いなと思う。
夏が来るたびに思い出す人。どこかで元気にやっていることを願う。


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