見出し画像

意味が問われる時代のカラー ーミラノデザインウィークに関するメモ 2

今年のミラノサローネ国際家具見本市を核としたミラノデザインウィークにおいても、素材メーカーの存在感が十分に発揮されていました。その象徴的な事例がKartell x Liberty です。

以下、サローネ会場におけるカルテルのブースです。フィリップ・スタルクがデザインした手前のチェアがリバティ柄になっています。

サローネ会場におけるカルテルのブース

カルテルは化学者のジュリオ・カステッリなどによって1949年に創業したプラスチックをコアとする雑貨・家具メーカーです。1960年代に成功した後、一時、低迷期を過ごしますが、1990年代以降、フィリップ・スタルク等のスター的デザイナーの登用で再びデザイン界の主役として注目を浴びます。

ただ、この数年、環境問題などにより人々の自然素材への親近感が高まり、プラスチックそのものをより「選択的」に吟味する傾向にあるのは確かでしょう。その影響はカルテルも免れ得ないです。

他方、リバティは1875年にロンドンにリバティ氏によって創業された企業です。当初、アジアからシルクを輸入する商社でしたが、小売業にも拡大していきます。アーツアンドクラフツ運動を主宰したウイリアム・モリスの植物などをモチーフにした柄がヒットし、上の写真にあるような「リバティ柄」が多くの人の記憶に残っていきます。

ロンドンにあるリバティのデパート店内

アーツアンドクラフツの植物などを描いた柄はフランスにおいてはアールヌーボーとして広まり、一方、イタリアにおいては「リバティ様式」との名称で普及します。雑貨から建物に至るまで数々の「痕跡」があります。下の建物はミラノ市内にあるリバティ様式です。

ミラノ市内のリバティ様式の建物

それほどに普及しているにもかかわらず、リバティを「自由」という意味で捉え、固有名詞からきている言葉であることを知らないイタリア人がかなり多いのが実態です。

そのイタリアのメーカーであるカルテルが英国のリバティにコラボレーションを提案したのです。逆ではありません。

シェイクスピアを例にとるまでもなく、英国とイタリアの両国の人たちは「相思相愛的」なところがあります(雑誌”The Economist”のイタリアへの辛口批評をそのまま信じてはいけないです。現在、リバティの企業としてはテキスタイルのOEM商売とリバティの最終商品の2本立てがメインですが、今回のカルテルとのコラボレーションは、スタルクのチェアにあるような柄の提供によるロイヤリティビジネスとアウトドアのソファなどへのテキスタイル供給の2種類です)。

ミラノ市内にあるカルテルのショールームがリバティ一色になったのは、素材メーカー冥利に尽きるでしょう。縁の下の力持ちとは、なにも「隠れていろ!」ということではないのです。

カルテルのショールームでパーティを準備する人たち

また、ご覧いただけるようにリバティはカラフルです。以下の記事でカラフルはコンセプトの構成要素か、構成外要素か?との問いをたてましたが、リバティにおいてカラーはコンセプトの構成要素であるのは明らかです。この点は同社のデザインマネージャーと話していても確認できました。

さて、冒頭の写真はグーグルのMaking sense of color の展示ですが、この壁にある花柄デザインをみたとき、会場のスタッフに「このデザインはリバティ柄を想起させるが、何らかの影響があったのでしょうかね?」とぼくが聞いたら、「自分は直接やっていないから分からないが、そう想像してもおかしくない」と言われました。

花はカラフルが自然であるという認識が当然であるとすれば、カラー要素をコンセプトから外す試みは逆に不自然であることになります。Materia Naturaというフオーリサローネの今年のテーマからカラーの存在感が自ずと浮き上がってくるのは必然です。そうすると素材メーカーはその自然の理に沿った提案を出していくことになります。

1980年代に一世風靡したメンフィスは新しいデザイン言語を提案しましたが、その活動を支えたのがメラミンの表層材をつくるAbet Laminati社です。ピエモンテ州の小さな町にあるメーカーです。上述の「素材メーカーはその自然の理に沿った提案を出していく」に沿うと、下の写真にあるメンフィスがつくる空間も「人工的に過ぎない」と見えてきます。

メンフィスギャラリーにあるダイニング空間の提案

今回のミラノデザインウィークでの2つ目の問いです。

それは意味を問うことに比重がおかれるデザインが期待されるとき、CMF(カラー、マテリアル、フィニッシュ)が注目を浴びるのか?ということです。1970年代にCMFが語られはじめ、1980年代、まさしくメンフィスにあるように新しい意味を問うことが重要視されたときCMFが強調されました。

2024年、問題解決や機能から意味にデザインの役割がシフトしつつあるとき、CMFが多く語られるようになり、素材メーカーのコンセプト提案がさらに重要になってきているのか?です。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?