見出し画像

三人目の恋人候補


会社や仕事周辺では、相手候補を探さないようにしていた。

なぜなら、何かあった時に仕事に影響が出てしまうのが怖かったからだ。

なのでネットでしか出会いを探していなかった。

でもこの時期、一人だけ、仕事関連で知り合った人が恋人候補になってしまったことがあった。


当時の私の仕事はちょっとだけ特殊で、いろいろな人と知り合う機会があった。

ある時、モデルを数名使う、とあるイベントに駆り出されていた。

そのモデルの中の一人に、Rがいた。

彼は24歳で、スタイルが良く端正な顔をした、黒い髪に緑色の目をしたポルトガル人だった。

彼は日本に来たばかりで、友人に誘われるままモデル事務所に所属していたらしい。

他のモデルたちは既に日本語が話せたり、それぞれ顔見知りが多かったようで、休み時間に固まっていたようだ。

そのイベントに私が関わったのは初日から2日間だけだったが、その現場で英語が話せる人が限られていたため、何かの拍子に言葉を交わしたRは、私に確認に来ることが多かった。

休み時間も、わざわざ私を探して来るほど、不安そうだった。

「大丈夫?日本に来たばかりなのね?」

「一昨日、日本に着きました。まだ何も分からなくて。」

「そうなんだ。(今日の仕事で)何かわからないことがあれば聞いてね。」

そう言ったら、慌てて鞄から何かの紙を出して聞いてきた。

・・・出前のメニュー表だった。(苦笑)

何でも、友人宅に泊まっていて、食べものを頼むのはこれで、と言われたらしいけれど「どれが食べれるか分からない」ということだった。。。

まあ、仕事のことだったんだけど…と思いつつ、とりあえずその場で簡単に好みを聞いて(肉系が好き)、「この辺りは好きかもしれないよ?」と言う目星をつけてあげた。(親子丼とかカツ丼とか…)


翌日の仕事場で、彼は私を見つけると駆け寄ってきて、

「ありがとう!カツ丼がすごく気に入った!」

と喜んでいたようだった。よかったよかった・・・と思った。

Rはまだいろいろ話したそうにしていたが、一応仕事中なので、

「今は仕事に集中しようね。」

と言い含めて、私はまた仕事に戻った。


その日で私の担当の仕事が終わったので、翌日からは通常通りのオフィスに戻っていた。

でも現場から私宛に電話がかかり、「Rさんが、Mさんに聞きたいことがあるとのことで」ということで、なぜか連絡が来た。

「何かありました?」と尋ねると、Rからは「すみません…連絡先を聞きたいんですが。」とのことだった。

「ごめんなさい。仕事じゃないのは理解しているけど、話しやすかったので…いろいろ話せる人がいなくて、友達になってほしい。。。」

と言う感じだった。

私も以前、外国で不安な時に助けてもらったことがあったので、簡単に断るのには少し抵抗があった。

でも、彼にも多分すぐ他のネットワークができるだろうからそれまでのつなぎならいいか、と思い了解した。

「私はいつもバタバタしているので、いつも反応できるわけではないし、何でも助けてはあげられないかもしれないけれど、それでもいいかしら?」

ということで、個人の携帯電話を教えた。


Rからは、早速その週の週末に連絡が来た。

「よければ、ちょっと会えませんか?」

日曜日の午後から2時間程度なら、ということで、彼がたどり着けそうな駅のそばの喫茶店で待ち合わせした。

時間より少し早くいくと、既に彼はそこにいて私を待っていた。

さすがにすごく格好の良い彼が座って待っているのに、ちょっと見惚れた。

簡単に挨拶をして、Rに日本でのこの一週間の感想を聞いた。

「全く違う世界で、まだ戸惑っている。。。」

とちょっと不安そうだった。

いろいろ話していると、一緒に住む友達はかなり忙しい人のようで、あまり話せないようだった。だから不安で、少し話せた私にコンタクトを取ったのか、ということが分かった。

日本に来たのは、モデルの仕事だけではなく、いろいろ旅行するためらしい。

ポルトガルで働いていたのでお金を貯めた、と言っていた。ポルトガルでも、モデルとカメラの仕事もしていたそうだ。

日本ではモデルの仕事といっても、エキストラ系の仕事が多いようだった。

その日は2時間、と決めていたので、次の週にお互い時間がまた合えば、観光でもしてみる?ということで別れた。


次の週は、私に仕事が入ってしまい流れた。

もしかしたらこのまま流れるかな?と思っていたら、またRから「今週末は会えますか?」と連絡があり、今度こそ付き合わなくてはと、土曜日に約束をした。

その日は、ランチを食べて、外国人が喜びそうなところを案内したら喜んでいた。

実は時々、外国人のアテンドをしていたので、何となく外国人が好きそうなリストがあったので役立った。

Rは、その日のお昼に食べたお好み焼きと焼きそばが気に入ったようで、「カツ丼の次に好きかも!」とすっかり喜んでいた。


それ以降も、週末にはRから連絡が入るようになり、すっかり保護者のような気持ちでRに付き合っていた。

Rも自分で動き回れる範囲も増えて、日本での生活を楽しんでいるようだった。友人も増えたようだが、私への連絡も結構マメだった。

その頃は私も仕事がとにかく忙しく、デートの候補をチェックしたりする時間が無かったため、デートの予定も入れられず、飛び込むRの予定にはそれなりに合わせることができた。

ただ、Rとの予定はできるだけ午前か午後の早い時間にして、後は私の友人達や女友達との時間にしていたため、Rに「夕食も一緒にしよう」と誘われても、謝って予定を切り上げていた。

私の中では、Rとの時間はちょっとだけ「ボランティア」な気持ちがあった。

ある時、「どうして夕食は一緒にしてくれないの?」とRが少し怒ったので、「私には、私の時間もある。しばらくデートだってしていないし。。。」とうっかり行ってしまった。

「今までのは、デートじゃなかったの?!」

「友達だけど保護者みたいな気持ちで、心配して付き合っていた部分もある。多分すぐに、あなたにも彼女とか友達とかできるかな、と思っていたから…。」

「・・・僕は、ずっとデートだと思っていた。」

Rの、美しい顔が悲しそうにゆがんだのを見て、少し申し訳なくなった。

「・・・でも、12歳も違うんだよ?分かってる?」

「そんなの関係ない!どうしてMは逃げるんだ?」

そう言われて少し、ハッとした。

確かに私は、年齢という壁を作って逃げていたのかもしれない。


「じゃあ、ちゃんと僕とデートして。それから、恋人になれるかどうか、判断してほしい。」

と言われた。









この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?