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分かったこと


その日以降、Cとは会うたびにラブホテルに行った。

彼はラブホテルがすっかり気に入ったようだ。

アメリカでは車で行く郊外のモーテルとかはあるけれど、はっきりとこういった用途向きのものはない、と珍しがっていた。

「日本は、何だか不思議な国だよ。」

「・・・ちょっと恥ずかしいよね。真面目な顔して、こういうのが好きな人が多い、ってことだから。」

「まあ、国は違ってもみんな好きなんじゃない?(笑)」


Cはいつもすごく小食だった。そしてアルコールをあまり飲まない。

ホテルだけではなく、時々一緒にお祭りに行ったり、イベントに行ったりもしたが、ビールを一杯飲むぐらいで、おつまみをあまり食べないタイプだった。

私はお酒も好きなうえに食いしん坊なので、すごく不思議で,ちょっと不満だった。

「ちゃんと食べないとダメなんじゃない?」

「あんまり普段からそんなにお腹が空かないんだよね。プロテインは飲むけど。」

「いいカラダしているけど、鍛えてるの?」

彼の腹筋を触りながら聞いてみた。

「うん。好きなんだ。」

ジムに行ったり、走ったりするのが好きらしい。アメリカの実家には、家族で一緒に利用するジムの部屋があるらしい。

体作りには結構ストイックなようだ。

だからあの、彫刻のような美しい腹筋があるのだろうけど。

「私はブヨブヨしてるよねえ…」

多少自虐で言ってみたら、彼はこう言った。

「自分に無いものに惹かれるもんじゃない?それに君のはブヨブヨじゃなくて、ところどころぷにぷにしてるけど、柔らかくて好きだよ。」

微妙な褒め言葉にも角が立たないのは、彼が若いからなんだろうか。正直すぎるからなんだろうか。

Cとの会話は楽しかった。

若いのに、時々謎なぐらい哲学的だったりする。そこが面白かった。

彼も「国の友達より話しちゃってるかもな。」とよく言っていた。

確かに彼にとって私は、身体だけでなく、いろんな感覚が合っているように感じていたんだと思う。

多分、私の仕事経験も影響していたこともあるのかもしれない。包容力とか歳の甲,とでもいうのか。


最初に謎だったのは、Cはバイトぐらいしかしていないのになんだかお金の使い方が「お坊ちゃん」だった。

いつもホテル代を払わせてくれないので、私は時々お茶を出したりするぐらい。

別に他にお金使わないし、と暮らしぶりは普通の質素さのようだった。

お酒をあまり飲まないので、こっちでの友達もそんなには多くないようだった。

よくよく聞くと、彼の実家は不動産関連の会社をしていて、実家は結構大きいらしい。(笑)

母親からの仕送りは望むままだったようだ。

父親はかなり厳しいみたいで、通っていた大学も父親の意向で建築科なんだそうだ。

「父は多分、後を継いでもらいたいんだろうな。」と言っていた。

最初に待ち合わせした公園では、彼はよく走ったり、本を読んだりしているらしかった。

「あの公園ってなんだか落ち着くんだよね。多分、最初に自分で見つけた場所だからかも。一番気に入っている場所だよ。」

彼は私を抱き寄せて、ぎゅっと抱きしめてくれる。

「これも気に入っている。」

「私はモノではないよ。」

「君とこうしているのが好きだ、って意味だよ。」

こういうことをさらっと言えるのが、アメリカ人ならでは、だ。


彼とは、週末に会うようになっていたが、時々私の仕事で会えない時もあった。

彼は無理を言う訳でもなく、すごく聞き分けよく「わかったよ。じゃあ、また来週ね。」と言う感じで、あまり深入りもしてこない感じだった。

元々はそういう簡単な関係の「愛人」が良い、と言っていた私だったが、あまりにも素直に聞き訳の良いCに、ちょっと寂しく感じてもいた。

・・・それにしても、確かに身体の相性は抜群だった。

このまま、溺れてしまいそうなところまで来ていた。

それで、なかなか会うのを止めようと思っても止められなかった。

やっぱり私には愛人と言う付き合い方は無理なのかも、と思い始めていた。


私の仕事が重なって何度か会えなくなって、しばらく時間がたってしまった時、やっと週末に時間の出来た私はCにメールを送った。

「来週は会える?」

彼からの返信がすぐ来た。

「ごめん。実は今、実家にいるんだ。急に家の事情で帰らなければならなくて、先週帰ってきた。でも、またすぐに日本に行けると思うから。」

というチャットのメッセージが来てびっくりした。

「実は、君のこと、両親に話したんだ。」

「なぜ?!」

「今付き合っている人が日本にいるから、またすぐ日本に帰るって言ったんだ。」

「・・・ご両親、なんて言ってた?」

「大人の人のようだから、きちんと尊重(respect)しなさい、って言われたよ。反対はされてないよ、大丈夫!」

・・・何だかキリが良いような気がした。

「ねえ、折角のチャンスなんだし、大学に戻ってみたら?」

「・・・実はそれ、今回も親にも言われているんだよね。」

「じゃあ、戻ってみたら?とりあえずきちんと卒業してから、また日本に来ても遅くないかもよ。」

「・・・それじゃあ、しばらく会えなくなっちゃうよ。。。」

「大丈夫。また会えるよ。だから、頑張ってみなよ。」

それを最後の会話にした。

未練を断ち切るために、私はそのメールアドレスを消し、携帯電話の番号も替えた。


私の愛人とは、約半年間ほどの関係だったけれど、私に色んなことを教えてくれた。

やっぱり、身体だけの関係は不自然だし、不十分だ。

そこに気持ちはどうしても入り込んでしまうのだ。


Cとのことが終わってから、私はもう、無理して恋人も愛人も探さないことにした。

もう十分、身体の女性の機能は使った気がしたから。

そして、もう恋愛からも卒業してもいいかな、とさえも思った。

いろんな経験をもう十分してきたから、これ以上はもういいかな、という気分になったのだ。


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