2023年度の研究より:Leafoneyを使った、ビニールハウス内の飽差の管理

実験に使用した模擬ビニールハウス

はじめに

ビニールハウスでの植物栽培において、飽差の管理が重要であり、現在は複雑な式や早見表を使用しています。そこで、小型のIoTデバイスLeafony Basic kit2とLTE-M Leafを活用し、スマートフォンなどで飽差を可視化・管理するプロジェクトを行いました。
Leafonyはビニールハウスに設置され、データ送信はLTE-M Leafを使用し、AC100Vが不要な乾電池駆動です。クラウド上での可視化と飽差計算はSORACOMの標準機能(SORACOM HarvestとLagoon)を使用しています。これによってLeafoneyの運用負荷を減らし、乾電池での長期間の安定運用が期待できます。
プロジェクトの目的は、ビニールハウス内の飽差をリアルタイムにモニタリングし、農家がより効果的に植物を育てるための環境を整えることです。これにより、生産性向上や病気の発生抑制などが期待されます。最終的には、IoTを活用して飽差を自動モニタリングし、データ通信が可能な環境を提供することが解決策とされています。

飽差(ほうさ)とはなにか

「飽差」とは、ビニールハウス内の植物栽培における重要な要素です。1立米の空気中において、ある温度・湿度条件下で存在できる水蒸気の量を示す数値です。湿度が同じでも、温度が異なる場合、その空気が保持できる水蒸気の量に違いが生じます。例えば、湿度が70%の場合、低温では少ない水蒸気しか含まれず、高温では多くの水蒸気を含むことができます。これにより、ビニールハウス内で栽培される作物にとっては、最適な飽差が設定され、適切な成長環境を提供する上で重要な指標となります。
飽差は温度・湿度がわかれば求めることができますが、複雑な計算が必要です。そのため、ハウス農家さんでは、飽差の早見表が使われています。

飽差とは/飽差早見表の例(施設園芸.com)

IoTを使った問題解決へのアプローチ

もっと簡単に飽差をハウス栽培に活用できれば、ハウス農家さんは大きなメリットを得られるはずです。そこで、今回はIoTデバイスで温湿度を測定して、早見表を使用しなくてもリアルタイムで農家さんがスマホなどで飽差を確認できるプロジェクトを作りました。
今回、IoTデバイスにはLeafony Basic kit2とLTE-M Leafの組み合わせを選定しました。このデバイスは乾電池駆動で長期間(測定結果は後述)稼働し、またLTE-Mでクラウドへデータを送信できるので、ビニールハウスへの設置には最適です。

Leafoneyについては、下記のリンクをご参照ください。

Leafonyは、ビニールハウスに設置され、LTE-M Leafを使用してデータ送信を行います。コーディングは環境データの取得に特化した簡潔なものにして、飽差の計算はクラウド上で行います。ソラコムのテクノロジーを活用し、クラウド上での可視化と飽差計算にSORACOMの標準機能を採用しています。データの蓄積にはSORACOM Harvestを、また飽差の計算と可視化にはSORACOM Lagoon(V3)を使用しています。

今回のシステム構成図

飽差の計算には大きく分けて3つの式が必要であり、さらにべき乗などの計算が求められます。Leafoneyに限らず、クラウドで計算することによりマイコンの負荷低減が期待できます。

SORACOM Lagoonについて

飽差の計算式をSORACOM Lagoon V3のExpression機能に実装する。

解決できた問題

このプロジェクトでは、LeafonyとSORACOMの技術を活用して、ビニールハウス内の飽差をリアルタイムかつ効果的にモニタリングできる環境を提供することで、以下の問題を解決できました。

①飽差の複雑な管理方法の簡素化: 現行の飽差の計算方法が複雑であるため、農家が効率的に管理できるように、LeafonyとSORACOMを使用して飽差の計算をクラウド上で行い、スマホでも確認可能なインターフェースで提供できるようになりました。

②リアルタイムなモニタリングの実現: 早見表や複雑な計算ではなく、Leafonyを使用してリアルタイムかつ正確な温湿度データを取得し、これをもとにクラウド上で飽差を算出・可視化することで、農家が常に最適な環境を保つ手助けとなります。

③商用電源のない環境下下のデータ通信の運用: LeafonyとSORACOMの組み合わせにより、単三乾電池3本での長期間運用が可能な環境を提供し、電力消費や送信コストの低減を実現します。これは、農場などの屋外設置型の場所での利用に適しています。


半年程度の長期間運用に関して(予測と運用の工夫)

このプロジェクトのもうひとつの重要なポイントとして、Leafoneyが単三電池3本でどの程度の期間運用が可能であるか予測しました。
下の図は、今回の実験期間(約3週間)にLeafoneyから5分間隔で送信されてきたバッテリー電圧データをグラフ化したものです。

安定運用に必要な電圧の閾値をどこに求めるかは別問題として、この期間に5861回の送信が成功しました。これによって、1時間に1回程度の送信であれば半年程度の運用期間を期待できそうです。※実測による追試を行う予定です。
先述のSORACOM Lagoonにはアラート機能もあるので、バッテリー電圧が任意の閾値以下になった場合、交換を促すアラートを送信することも可能です。

今後について

ビニールハウスでの栽培は通年行われているので、今後は実際のハウス農家さんと共同でこの研究を継続したいと考えています。また、研究に参画した農家さんがいらっしゃいましたら、ぜひご連絡いただければ幸いです。


 







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