信州をめぐる冒険 5日目
2020.10.31 Sat.
5日目――松本良い。神
旅の予定
0800 ホテル → (徒歩) →0830 立石公園
0900 立石公園 → (徒歩) →0930 諏訪湖湖畔公園
1000 諏訪湖湖畔公園→ (徒歩) →1100 下諏訪駅
1137 下諏訪駅 → (中央東線)→1214 松本駅
(一泊)
愛しの諏訪湖ギャラリー
昨日の夜の歩きで、朝から立石公園に行って夜とは違う景色を眺めようという計画はなしになった。朝っぱらからあんなとこ行きたくないですね。なのでゆっくり起きて湖畔を散歩しようと思った。
0830 諏訪湖湖畔公園
朝の諏訪湖である。夕方と見紛う寒空の青。湖面に空が映って、空面に湖が映っている。昨日の夜だった空は湖に沈んで、星たちが吐き出した空気が湖面で朝には鳥たちになる。昨日、湖だったものは蒸発して空へ昇って今日の空を作る。
土曜日の朝である。湖畔の公園には穏やかな時間が流れている。家族連れ。ランナー。歩き人。絵描き。釣り人。流浪の旅人。学者。賢者。詩人。そして私。
あ、おはようございます。きれいに水面に反射している。いい景色だと思った。
この方こそ、諏訪湖公国を生み出した諏訪子さんである。何を言っているんだ。この像を中心にして円形の領域に発生した力によって諏訪湖は形を保ってい、湖への街の侵入を防いでいる。
湖の中にある神社。どこから撮っても、後ろに街が写るのが良い。向こうへ行くには湖の周りを回らないといけない。船もあるだろうけれど。その点、鳥たちは自由に空を駆けていく。
雲ひとつない。とはこのことである。望遠レンズ持ってきていてよかったね。
公園の芝の上を歩いているのが可愛かったです。
でもって一斉に飛び立つ。散歩をしている人々に見せつけていく。
鳥たちに目線を合わせてしゃがんで撮る。カメラを持って歩くだけで楽しい。立石公園に行かなくて正解だった。もっと近づいて撮ろうとすると気配を察知して逃げてしまう。やはり動物を撮るには500mmぐらいのレンズが必要なのか。買うつもりもないけど。
見ていて飽きないのである。どんな行動をするだろうか。こっちを向いてほしい。横を向いてほしい。でも、そんな僕の思いとは裏腹に後ろを向いて水の中に入ってしまう。
鳥がいっぱい。わいわい諏訪湖。左の湖岸から向こう岸までレースをしている。
白いアイツ。何篇もの詩が生まれそうな景色が続く。
桟橋とブルース。
位置について。
よーい
どん!
素敵な時間が流れている。
黒服たちの集い。
ゆっくり歩いて写真を撮っているだけで一日過ごせそうだったけれど、そんなわけにはいかない。
もう少しいたい。名残惜しいけど、僕は行く。湖を眺めながら。湖に沿って。下諏訪駅はもっと近いと思っていたけれど、意外と遠かった。途中で湖沿いを逸れて、街中を歩く。なにをしているんだろうと思う瞬間だ。知らない街を一人歩く。一番不安で寂しい反面、一番楽しい時間。次はどんな街を行く?
みんな大好き松本
下諏訪駅に到着した。そういえば、諏訪なのに諏訪大社に行っていない。まあいいや。そもそも僕はあまり旅先で神社や寺に行かない。信仰心がないからな。道教者だからな。そういう問題か? また今度行きます。下諏訪といえば、中山道の宿場だし。また、中山道とここでも出会う。やはりいつか歩き通さないとダメみたいだ。
ほう。富士山が見えるのか。
一応見えたよ。これじゃあ富士山かどうかわからん。富士山も行きたいな。
1035 下諏訪駅 → (中央東線)→1116 松本駅
さて、下諏訪駅から、中央東線に乗って松本を目指す。塩尻からは篠ノ井線だけど、大体、東京方面からも名古屋方面からも中央線は、塩尻を通って松本まで列車は走る。
下諏訪駅を出たら、次は岡谷駅。そこから中央線は分岐し、まっすぐ塩尻を目指す本線と、一度南へ下る辰野支線がある。地図や路線図を見たら、当然、直線の方の本線が後でできたものだと推測できる。トンネルを掘る技術が進歩したからだ。ここもそのとおりだった。御殿場線が昔、東海道本線のルートだったように。しかし、こういう路線を見ると、本線じゃない方に行ってみたくなるのが旅人である。今回は行かなかったけど。辰野駅からは、飯田線が伸びている。あの伝説の路線の一つ、飯田線である。乗りたい。行きたい。端から端まで94駅あって、乗るだけで7時間ぐらいかかる。絶景も秘境駅もある人気路線である。3泊4日飯田線の旅とかすればいいんじゃないかな。夏に。18きっぷで。夜は星を撮ったり。きっと素敵だよ。
土曜日なので、人が多く、賑やかだった。みんな飯田線に目もくれないで(かどうかは知らないけど)松本へ向かう。このあたりの人たちは、ちょっと都会へ行こうという感覚で松本へ向かうのだろうか。ええやん。
こうして松本へ再び降り立つのである。昨年、長野県行ったことないから行ってみようかなと、名古屋から中央西線を通って松本へ来た。帰りはあずさで新宿まで乗った。そのときになんて素敵な街なんだろうと感動した。もっとじっくり滞在したい泊まろうかななどと逡巡したけれど結局泊まらなかった。なので今回は泊まる。
山ばかりの長野県で最大の盆地、松本盆地。「松本~。松本~」とアナウンスが聴こえる。澄んだ空気。想像以上に都会なことに旅人は驚くだろう。新しい駅舎もきれいで、お店もいっぱいある。東西通路のアルプス口方面の窓からは槍ヶ岳や穂高岳を望む。東のお城口から出ると、広い駅前広場が出迎える。ビルが立ち並ぶ。人々で賑わう。活気のある街だ。
まずはホテルに荷物を預けて出かける。通りの一つに入っただけで、心が躍る。近代的なビルがあってお店もいっぱいある。貸店舗なんてほとんどない。道はおしゃれに整備されている。見知った居酒屋の看板もあれば、やはり蕎麦屋も多い。通りを北へ。お城の手前に女鳥羽川が流れている。この川に僕は魅了された。去年。なんと言ってもきれいなのだ。街の中を流れる川がこんなにきれいでいいのか? 都会の汚い川とは違う。透明で、秋の日差しを反射して、草木が揺れる。観ているだけで癒やされる。こんな街に住めたら素敵だろうな。
そして城へ。
城
やはり松本城はかっこいい。水に映る黒い城。青い空。そして城の向こうに高い建物が見えないのが良い。背景の空にビルが写ってしまうとこの城は良さが半減してしまいそうだ。
とりあえず歩きながら写真を撮る。かっこいいなぁ。ほれぼれするなぁと。観光客も多い。入場には30分40分待たされる。人気が高い。
お腹が空いたので昼食にしようと思った。近くに蕎麦屋はないかとグーグルマップさんに訊いてお店を探す。そして行ってみたら行列ができている。すごい。並んでなんかいられないよ。ということで違うお店へ。店主が一人でやっているような小さいお店だった。並んではいないけど、待たされた。他に探すのもめんどくさいしここでいいかとそのお店に入る。
値段とかは記録していない。レシートもない。もらったっけ? 天ざるそば950円。みたいな感じだった。もうちょっと高かったかも。味は普通に美味しかった。めちゃくちゃ美味しかったというわけではない。たぶんつゆが個人的に合わないのだろう。まあ、でも蕎麦は美味しい。
そしてここからまた松本城へ戻るわけだが、今度はレンズを70-300に変えて。去年来たとき、望遠がほしいと思ったのだ。だから今回は望遠レンズを持ってきた。
この城に来ると印象的なのは鳥たちで、堀の水辺にもいるし、そこらへんを歩いていて人間にえさをもらっていたりもする。そして屋根の上に降り立つ。高みの見物というところだ。松本城は現存する国宝の天守で、500年前からある。また500年だ。中山道で出会った武士たちが活躍していた時代。その当時から、鳥は空を飛び屋根に降り立つ。変わりゆく街を眺めながら。歴史のある街でその歴史を見続けて見下ろしてきたのはこのお城だけ。
秋っぽい写真が撮りたいと思って紅葉と一緒に撮ってみたけど、うまくいかない。ここしか一緒に取れそうな場所に秋はなかった。
あらためて癒やされて、城を後にする。城内には入らなかった。前回入らなかったからリベンジしようと思っていたはずなのに。あまり中に興味がないのかもしれない。それも一興。あるいはまた今度のお楽しみ。
城を出て南下。また女鳥羽川に向かう。川沿いに縄手通り商店街というのがある。ここが素敵。いろんなお店があって楽しい。たい焼きとかも売っていて食べ歩きもできる。そして川はきれい。
カエルがシンボルなのだ。みんなでガンバロー。
信州の片隅で
川を渡ると、こんどは蔵の町並みが現れる。昔ながらの。でも古臭い街じゃない。蔵が何百年も前から使われているものなのか、復元したものなのかはよく知らないけど、たぶん前者だ。昔から蔵の街だったのだ。それを補強とか内装リフォームとかして利用している。歩いているだけでここも楽しい気分になる。
このあたりは去年歩いた。なので今年は違う道を行く。もう少し南を。そして東へ。そしてたどり着いたのは、あがたの森公園。
とりあえずあがたの森公園に来たもののどういうところかは全く知らない。歩いてみる。旧制松本高等学校の校舎跡が遺っている。その記念館に入る。一階に喫茶店があるので、ケーキセット(750円)をいただく。何故か写真はない。しばらくくつろいで、どうしよっかなぁーと考えている、その瞬間。それは素敵な時間だった。こんなきれいな街で。一人で楽しい。まだ2時頃で、こんなことなら、松本城に入ればよかったなんて思い始めている。まあいいや、ということで、2階3階の資料館へ行ってみる。
全然興味がないというか、何も知らずに来たので、どんな感じなんだろうと逆にワクワクしていた気がする。
中に展示されている資料はどれも興味深く面白かった。先日読んだ、『若きウェルテルの怪死』の時代だと気づく。あの小説の舞台は仙台の二高だった。あの時代の雰囲気が蘇る。当時の学生の生活が伺える。壁の落書きや寮の生活、学校の行事。いっちゃあなんだが、清潔とは言い難い。男臭い。大時代的。良い。小説の中で出てきた、ストームがどんなものかが資料でわかる。当時の繁華街の様子や学生の楽しみもわかって面白い。当時から栄えていた賑やかな街だったと知る。山岳部の活動展示もあって穂高岳かどこかに挑戦した記録が残っていて、誰それが亡くなったとかいうものもある。当時の登山装備を観ることもできる。当然だが今とは全然違う。当時の試験の資料も遺っていて、かなりレベルが高いことが伺える。芥川龍之介とか志賀直哉のような僕の好きな作家たちも旧制高校に行っていたのだと思うと彼らの存在が余計遠くに思えてきた。今は大きく時代が変わってしまったことを実感する。
外に出て観たのは現在の松本なのに、かつての旧制高校の学生たちの幻を見る。変わりゆく町並みの中で、そういう喧騒は変わらないだろう。山あいの中に拓けた盆地に発展してきた街。旅人も武士も学生もいた。色褪せることない、これからもこの街は続いていくのだろう。翌日には11月だというのに温かい日に、そんなことを思った。
最後の夜
明日でこの旅も終わる。最後の晩餐といこうかと意気込んでみたものの、居酒屋で飲んで食べてという気分でもない。定食屋ぐらいが丁度いい。
そして駅ビルにあったお店に入った。疲れていて探すのめんどくさかったとかそういうのではない。はずだ。駅の中にあるならハズレはないと思いたい。
まずはビール。うまい。
そして山賊焼き。碓氷峠で襲われなかった山賊とここで出会うとはな。
とてもおいしかったです。定期的に食べたい。あえての蕎麦じゃないチョイスも我ながら変化があってよかった。
ところで、ここのレシートが見当たらない。昼の蕎麦のレシートもそうだけど、この日は写真もあまり撮っていない。お城しか。いったいどこにいったんだろう。この日はそんなに疲れていたのかしら。それとも松本という素晴らしい街は幻想で、本当はそんな街は存在していなくて、全部僕の錯覚だったのだろうか。でもまた来るのだろう。日本で一番好きな街かもしれん。
その後は土産屋でお土産を買ってホテルに帰って寝た。今度来るときは、アルピコ交通に乗って新島々に行こうかな。しんしましま。かわいい。あるいは姨捨に夜景を観に。そして、上田や長野の方へ。信州をめぐる冒険は今回の旅では実は上巻に過ぎなかったのだ、となるのかな。それはまたいつかの話。
ルート
(6日目に続く)
もっと本が読みたい。