月刊読んだ本【2024.09】
アーモンドの木
ウォルター・デ・ラ・メア/和爾桃子 訳 (白水Uブックス)
読み終えたあと、作中の人物はその世界にひとり取り残されているんだなという感じがした。どの作品でも。きっと笑顔ではない。悲しみか無表情だろう。
マーティン・イーデン
ジャック・ロンドン/辻井栄滋 訳 (白水Uブックス)
やはりジャック・ロンドン。さすがジャック・ロンドン。ジャック・ロンドンの自伝的小説。20世紀に人間によって書かれた小説の中でも最高傑作かもしれない。翻訳も素晴らしい。
逆説的に社会主義小説だった。アンチブルジョワ。アンチ資本主義。どうしてあのとき誰も俺に食事をくれなかったんだ。
作家になろうという主人公を誰も信じてくれない。そして働けと言う。そらそうだよなという感じではあるが、頑なに主人公は自分の才能を信じている。現代人が、ユーチューバーで稼ぎたいとか言っているのに近いものを感じる。うまくいく保証なんてないのに。ある程度軌道に乗ってから会社を辞めるとかそういう行動を取れない主人公の痛々しさが苦しい。でも作家になることに全力投球の姿勢は憧れてもしまう。
婚約者がいるから、彼女のために夢を諦めるとかまっとうな仕事に就くとか、そういう事ができなくてどんどん破滅していく。どっちも得ようとするけどそんなことは簡単ではないというのが人生である。僕は、働きもせずに作家を目指す男を選んでほしくないから、その道を選ぶタイプだ。好きな人にこんな人間を選ぶ人間になってほしくない。だからその道を行く。偉大なるあの人に万が一でも振り向かれてしまわないように、就活もしなかった。僕のことなんて忘れてしまえばいいと思った。嫌われてしまえばいいと思った。マーティン・イーデンには僕はなれない。本を読みまくって書きまくる狂人に僕もなれたら良かった。
ジャック・ロンドンはやはり飢えを知っている人だと思った。頬は痩せこけて、服もボロボロで、でもギラつく眼光は失われていない。そういう時代を生きたんだろう。
今年読んだ本でダントツで面白かった。
読んでいるとき、平井堅の『ノンフィクション』という曲が頭で流れていた。人生は苦痛ですか? 成功が全てですか?
マーティン・イーデンをだれも信じてやれない悲しみがこの曲とシンクロする。マーティン・イーデンはただ生きようとしているだけなのに、みんなはそんな彼を認めようとしない。きちんと仕事に就いて真っ当な生活を送っている幻影をマーティン・イーデンに投影していて、そんな彼に会いたいと願っている。でもマーティン・イーデンにとってはそんなものはもはや別人でマーティン・イーデンではないのだから、コイツラはなにを言っているんだろうとしか思えなかったのだ。どうしてうまくいかないんだろう。でもそれが人生なのだ。ノンフィクションというこの曲のタイトルすごいな。
かもめ
チェーホフ/沼野充義 訳 (集英社文庫)
この訳が新しいらしいのでこの訳をチョイス。
登場人物の名前が全然馴染めなくて、何度も冒頭の登場人物一覧を覗き込むハメになる。しかも関係性がややこしいので混乱する。そのややこしい関係性こそがこの戯曲を喜劇に仕立てあげている気がする。誰もが誰かに片思いしている。みんなそうなのか。それが生きるということなのか。そして撃ち落とされるかもめになってしまうのか。
あと解説がすごい。
若い読者に贈る 美しい生物学講義 感動する生命のはなし
更科功 (ダイヤモンド社)
高校生ぐらいにおすすめの本といいたいところだけれど、何歳でもおすすめです。生物学は興味深いし興奮する。そういうことに気づくきっかけになるであろう。そうじゃない人はそうじゃないとわかるし。丁寧で読みやすく、トピックも身近なものでとっつきやすいです。なぜ人間が二足歩行なのかなんて考えたこともなかった。
はだかの太陽〔新訳版〕
アイザック・アシモフ/小尾芙佐 訳 (ハヤカワ文庫)
『鋼鉄都市』の続編。
ロボットだらけの惑星の捜査に赴いた主人公は、はだかの太陽にさらされて苦しむ。太陽から隠れてドームで暮らす地球人とどちらが奇妙だろう? 細菌を恐れて他人と接触しない文明人を滑稽だと笑える立場にいると思えないだろう。でも彼らからしたら現代の我々の生活も恐ろしく理解しがたいものであろう。SF世界をミステリ仕立てで描きながら読者を引き込んでいく、前作に引き続く名作だった。殺人事件の捜査がメインの物語でありながら、その後ろに人類の未来を見据えるテーマを鮮やかに描いていた。ロボット三原則という前提に切り込んでいく展開もおもしろい。
課題図書【小学校低学年の部】
上記記事に文字数の都合で書ききれなかった感想等をここに書く。
アザラシのアニュー
ページ数の表記がないのが気になった。
筆のタッチがよい。
読みながらThe Birthdayの『シャチ』が頭の中で流れた。
ごめんねでてこい
僕もごめんなさいが言えない子供だった。
子供向けの本だからこんな事を言っても仕方ないのだけれど、世の中そんなに善人ばかりではない。
再会した祖母が全く口も聞いてくれない、なんてことだってありうる。本当に歪んだ人間というのは現実に存在する。人々はこういうフィクションに触れて、そういうふうに振る舞おうとしがちだし、それこそが童話の役目ではあるだろうが、世の中そんなにきれいじゃないといつしか子どもたちは知るだろう。自分の信じていたものの大きさによってはその崩壊に耐えられずに苦しむこともある。なのでもう少し大きくなった子どもたちにはほんの少しでいいから残酷な現実を伝える本を読書感想文の題材として読んでほしい。
感想文のタイトルにつけた『異邦人』というのはさだまさしの楽曲のことです。
おちびさんじゃないよ
そういえば小学生の頃は背の順で並んだときに前から数えたほうが早かったな。中学の時に25センチぐらい身長が伸びたな。だからといってなにも変わらないな。
どうやってできるの? チョコレート
これで感想文書くの難しくない?
参考文献▽
課題図書【小学校中学年の部】
上記記事に文字数の都合で書ききれなかった感想等をここに書く。
といっても特にないけど、全体的に小学校3、4年の課題図書の選定は難しそうだと思った。もっと子どもな気もするし、意外とそうでもない気もする。5年生ぐらいになるともうワンランク上の本を読んでもいいと思うけれど、その線引が難しいだろうと思った。
聞いて 聞いて! 音と耳のはなし
参考楽曲▽
課題図書【小学校高学年の部】
上記記事に文字数の都合で書ききれなかった感想等をここに書く。
ぼくはうそをついた
バイオリン少年が登場する意味がわからない。おそらく同作者の他の作品のキャラクタがゲスト出演しているのだろうけれど、課題図書としてこの作品だけを読んだ場合にその存在を理解できないように思う。
ヒロインが髪を切った本当の理由を説明しないことが物語のいい部分なのに、カバーあらすじにその理由が書いてあるのが少し残念だった。小学生の想像力を信じてあげてくれよ。そして想像できなくてもそれを考えることがやはり読書の重要性なのだよ。
ドアのむこうの国へのパスポート
ビザづくりを通して、お互いのことをわかり合うことが目的で、人に対してもビザが必要なときがあると絵本作家は言う。作者からのメッセージだ。小学校の先生はきちんと子供たちにそういったことを教えられているかな? もちろんそれは簡単なことではないが、小学校の先生にとっても立派な課題図書になりうるだろう物語だった。
ラヴィニア・アケノミョージョとか、イワン・オソロシといった名前はもちろん日本の読者向けにアレンジされているわけだけれど、原語ではどうなっているのか気になる。「悪口」を「割る口」と書いている子供がいて、そこも日本語で訳す際に工夫した点だろう。メインの読者である子供たちに伝わるように訳さないといけないのも頭を使うのだと思った。
感想文のタイトルとピロウズの曲とは関係ないです。タイトルをお借りしただけです。
図書館がくれた宝物
まじ名作なので、課題図書とか関係なく読んだほうがいい。児童書とか関係ない。こんな素敵な本と出会えるとは思えなかった。
ひとこと
課題図書の感想文を書くのに時間がかかってしまったので9月分を投稿するのが10月の終わりになってしまった。
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