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月刊読んだ本【2024.05】


ハイペリオンの没落

 ダン・シモンズ/酒井昭伸 訳 (ハヤカワ文庫)

 前作『ハイペリオン』はジョセフ・セヴァーンが見ていた夢(であると同時に実際に巡礼たちに起こっている出来事)だった。ということは、夢の中の各人の物語の中の日記、という構造の話があったということだ。話の中の話の中の話。ということは、この『ハイペリオンの没落』も何かしらの中に含まれているのかもしれない。
 前作に引き続き、上下巻なので長すぎる旅だった。でもプロットが完璧すぎる。破綻せずにこの距離を冒険できて読者としても嬉しいものである。彼らの運命はどうなっていくんだろうと気になって読まずにはいられない。結局、シュライクが何なのかわからないので、エンディミオンへもそのうち旅立ちたい。

バット男

 倉持裕/原作 舞城王太郎 (白水社)

 先月は戯曲を読めなかったのでその分。
 もちろん舞城王太郎の原作は読んだことはあった。
 舞城と戯曲なんて変なの、と思っていたけれど存外悪くない。方言があったり砕けた口調のことが舞城作品には多いから、人間が動いて喋る演劇というジャンルとは意外と相性がいいのかもしれない。演劇に自然な会話を求める必要はないけれど、普段発する言葉を喋るから違和感がない。
 作品については、もっとバット男の存在感を出してもよかったのではないか。と思うと同時に、(あとがきにもあるけど)バット男は主人公の妄想みたいに読み取れるから、「バット男」と呼ばれているものだけでなく主人公もバット男なのだろうと思うのでちょうどいいのかもしれない。
 全体的にテンポが良くてよかった。

ニュートン式超図解 最強に面白い!! 宇宙

 佐藤勝彦 監修 (ニュートンプレス)

 宇宙とかいう切り口。
 そして宇宙意味不明すぎる。
 佐藤勝彦さんといえば、インフレーション理論で有名な日本を代表する物理学者だけど、その説明のページに自分の名前出しているの面白かった。「佐藤勝彦が~」って書いてあるけどあんたじゃん。論文じゃないんだ。それだけの権威が一般向けに読みやすく入門書を書いてくれることは感動する。尊敬する。

人形の家

 イプセン/矢崎源九郎 訳 (新潮文庫)

 タイトルは知っていたけど、全くどんな話か知らなかった。そもそも戯曲だとも知らなかった。
 みんな結構辛辣な言葉を吐いていておもしろい。誰もが誰かをバカにしていて、自分が優位に立ちたいという感情がある。あなたの言うように私は浪費家かもしれないけれど、子どもたちを育てているから偉いとかそんなようなことを。能天気だってばかにするけど、苦労はあったし、それに今しあわせだからねってマウントを取り始める。
 でもそう思っているのは、周りに従っていたからで自らの意思で掴み取ったものではない。私は操られているだけの人形にすぎない。そう気づいた主人公の終盤の激アツ展開。誰がえらいとかえらくないとかそういうことじゃなくて人権を尊重しろよなという話だったように思う。他人を支配しようとする高圧的な男性社会に生きている輩は現代にもいる。21世紀にもなって。それを19世紀に描いていたのだからかっこいい。主人公も、旦那と子供を捨ててやっていけるかわからないけど、自分の人生は自分で切り拓こうとしている。女性がどうとか、そういうことじゃなくて、世間の圧力とか社会のしがらみから僕は逃れて生きていたいと思うので、痛快な名作だった。
 なんやこいつっていう主人公が終盤かっこいいのは『風と共に去りぬ』を観たときと同じ感覚でよかった。

中世への旅 都市と庶民

 ハインリヒ・プレティヒャ/関楠生 訳 (白水Uブックス)

 書泉グランデの声から復刊したシリーズ第2弾。
 ドラクエの町が壁で囲まれているのはこういうことなのかと思った。壁の中に町があって、他所からの侵略に備えている。もちろんドラクエの場合は魔物たちから守るという名目があるのだろうけれど、そういう設計には元ネタがキチンとあったんだと感動する。
 実際の中世の生活を知ると、映画や漫画を見る目が変わる。制作者側もリサーチして丁寧に作っているのだと気づく。あるいは、そういう作品に触れ続けたため、自然とそういうものだと無意識のうちに中世のイメージが出来上がって作品づくりに影響を及ぼしているのか。
 あと、裁判と処刑の話が面白かった。殺人の容疑者が死体の傷に触って傷口から出血するか死体の顔色が変われば有罪、てそんなばかなということが信じられていた時代。死刑執行人の身分が低いとかユダヤ人が迫害されていたとか、そういうことは全然知らなかった。

ヴァーミリオン・サンズ

 J.G.バラード/浅倉久志 他 訳 (ハヤカワ文庫)

 ハイペリオン2部作を4月中には読めなかったので、今月はSF2作です。
 謎の砂漠地帯の奇妙な物語たち。歌う植物や増殖する彫刻(音楽を奏でる)や生きている服や生きている家など、何らかの薬をキメたときに見えた幻覚を小説として描き出しているのだと思った。どこか別の惑星の話だと思っていたけれど、きっと地球のどこかの話なのだという気もする。『スターズのスタジオ5号』が個人的には好き。
 もちろん(?)、僕はサガ・フロンティアの術にヴァーミリオン・サンズというのがあるからこの作品に興味を持った。そしてその時すでに絶版だった。神保町の古本屋で3850円で売っていた。復刊したらサガファンに売れるかもしれないよ。そんなことはないか。それはともかく、少し翻訳の文章が読みにくい作品もある。というか急に新しい登場人物が多数出てきて、誰なんだこいつ、と思っているうちに物語が進んでいって、結局どういう関係だったのかわからぬうちに物語が終わりかけて、もう一度パラパラとページをめくって内容を理解していった。新訳で読みやすく復刊すればいいのかもしれない。

ニュートン式超図解 最強に面白い!! 人体

 橋本尚詞 監修 (ニュートンプレス)

 杉田玄白にも若い頃はあったんだなぁと思った(そらそうやろ)。
 人体というテーマをこの1冊にまとめようというのが難しい試みだろうと思うので、説明不足な点や物足りなさはしかたがない。逆に言えば、入門書として、知識の取っ掛かりとしてうまく1冊に収まっている。

マンガでわかるジャズ

 山本加奈子 著/及川亮子 監修 (誠文堂新光社)

 もっとマンガかと思ったら、マンガなのは3割ぐらいだった。べつにいいけど。
 ジャズの歴史がよくわかった。聴いたことのあるアルバムも聴いてみたいアルバムも多数載っていて全部聴きたい。もっとジャズのこと知りたい。

時間は存在しない

 カルロ・ロヴェッリ/冨永星 訳 (NHK出版)

 遠い宇宙に「現在」は存在しないという話が奇妙な感覚だけれど、宇宙というのは奇妙なものだ。その感覚を研ぎ澄ませば、時間は存在しないと納得がいく。過去の宇宙はエントロピーが低かったから。エントロピーは増大する方向にしか進まないから。時間そのものも量子化できる。粒子の相互作用が時空で、時間という変数を用いなくても宇宙を記述できる。
 そんな内容です。
 この本を読んだという有意義な時間があったと私は錯覚している。時間は存在しない。

ひとこと

 5月なので気がMayっていた。

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