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「最後の決闘裁判」|呪われた男たち

久々にどっぷりと夢中になって見入った映画でした。2時間半は長かったけれど、最後まで緊張感たっぷり。

リドリー・スコットは83歳らしいですが、どんなおじいちゃんなんだよ、信じられないです。

かなりテーマ性がはっきりとした映画でした。
女性の社会的地位の問題や、性暴力や、今でいうマタニティーハラスメントなどなどかなり分かりやすく問題提起をしている作品ではあります。

ちなみに海外版ポスターでは、二つの剣のイラストの間にマルグリット(レイプの被害女性)が挟まれて俯いているというものでしたが、このデザインはよくこの作品を表していると思いました。(それに比べて日本版のポスターは見栄えだけ重視していて、海外版ポスターのようにテーマ性ガン無視で好きになれませんでした)

女性に纏わる社会問題を内在していると書いたものの、例えば社会に対して立ち向かう女性の奮闘劇を描くような単純なものではなく、立ち向かおうとした意思さえも結局のところ、男性的な原理の中に組み込まれ、自分が処刑されるリスクまで負わされてしまうというさらに大きな悲劇を描いています。
封建的な時代設定ではありますが、現代の社会にも全く綺麗に重ねられるように作られているし、終始悲しそうなマルグリットの表情はとても印象的でした。

また、これは最近個人的に気にしているテーマでもあるのですが、いわゆるトキシック・マスキュリニティを扱った作品としても見れるのではと思いました。

そもそもこの作品の重要なトピックである「決闘裁判」。

なぜカルージュは自分のみならず妻の命を賭けてまで決闘裁判に挑まなくてはならなかったのか。対する、ル・グリは聖職者から教会裁判で軽い罰を甘んじて受けろと忠告されたにも関わらずそれを跳ね除けて、決闘裁判を受けたのか。

それは劇中でも何度か発言がありましたが、代々名誉のある「名」を守るためであったり、騎士としての栄誉やプライドのためという事なのでしょう。

この封建的な社会(今だってそうだけど)では、女性は尊厳を得られず、男性も「男らしくあること」の害に打ちのめされていたのだという事です。そしてこの作品において「男らしくあること」という呪縛から逃れられていた男性は一人だけでした。それは国王です。敢えてなのでしょうが、彼だけが異質な空気を放っていましたね。

現代社会でも、もちろん女性の権利問題は現在進行形でたくさんありますが、常に「稼ぐこと」という自分や周囲がかけた呪いから逃れられない男性という問題もかなり見過ごせないものだと思いました。

という事で、今作のテーマ性から端を発して少し遠いところまで来てしまいましたが、今作はテーマ性はおいて置いたとしても、決闘ものとして本当にドキドキして最後まで体が強張ってしまうほど、惹きつける作品でした。


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