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夜ふかし的おじさんとガクチカ

大学生の時、新宿の衣料品チェーン店でバイトをしていた。
新宿とはいえ、そこまで客も入らないので気楽に適当に過ごしていた。

そう、あの日も普通の何気ないバイトの日になる予定だった。

しかし、その日は違った。

チンピラというには年老いていて、ヤクザというにはインテリ感がない、若干呂律が不安な、月曜から夜ふかしでインタビューされるタイプのおじさんが、サーモンピンクの麻のような素材のパンツを裾上げしてくれとレジに持ってきた。

当然、完全一致する色の糸はないので、出来る限り近しい色で縫うのだけれど、その糸の色がどうも気に入らなかったらしい。

「お待たせしました」

「うおあああああああ!!!(こんな糸で縫ったやつ履けるか的な内容)」

ものすごい大きめの声で怒鳴られた。

お店にある最も近しい色で縫ったのに。

縫う前に「こちらの色でいかがですか?」ってちゃんと聞いたのに。(おじさん頷いた)


人生で初めて過呼吸になった。

トラウマ。

そこから暫くの間、過呼吸が続いた。
今なら、なんで怒鳴られなきゃいけないんだと疑問にも思えるし、逆切れもできるけど(もちろん心の中で)、当時はどうしようもできなかった。

得体の知れないあのおじさんと偶然すれ違ったらどうしよう、何ならこっちが一方的に見かけたって動悸がするだろうし、目が合った日には卒倒する勢いだ。
見つかったら付け回されるのではないか、何なら殺されるのではないか、とか。

もうすべてが怖くなってしまった。

当然、この店でバイトを続ける強靭な精神力は兼ね備えていなかったので、店長に辞めると言ったら、

「こんなことで辞めたら社会人やっていけないよ」

と言われた。

職業差別するつもりはないが、私は夜更かし的おじさんが怒鳴るような場所で店長したいと思ったことは一度もなかったし、今も憧れてない。
私にも職業選択の自由はあるんだよ、店長。

なんでこんな話をしたかというと、大学卒業して20年がもうすぐというところになってガクチカを聞かれたから。

こんな経験ならお話しできますけど、聞いてくれるな。

また動悸がしたらどうしてくれんだ。

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