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【掌編小説】Happyオムライス、シクラメンbirthday

 親のお金で買ったケチャップをリュックに放り込む。おつかいを早々に済ませて、スマホ片手に街を歩く。シクラメンが敷き詰められた花壇、色とりどりで可愛い花が花壇いっぱいに咲いている。
 11月の誕生花であるシクラメンの花言葉は誕生を祝うような言葉ではなくて、「遠慮」、「気後れ」だった。私は内弁慶で、親しい人には強気でいけるのに、慣れない人には気後れしてしまう。内弁慶だからパパやお兄ちゃんには遠慮しない。だけど、あの人の前では変に遠慮してしまって自分で勝手に気まずい空気を流す。うちにあるカップ麺はどうせ私に取られてしまうからと、全て私の好きなカレーうどんのカップ麺になった。ママは白い服を着れなくなったと嘆いている。優しいママだけど、怒ると手がつけられなくて、内弁慶はママ牛若丸の前では無力だった。
 彼にさっきスマホで撮ったシクラメンの写真を送ってみた。白、赤、ピンクのシクラメン。可愛いでしょ? 気付く訳ないと思うけど、今月は私の誕生月。誕生月どころか今日は誕生日だ。気付く訳ないんだけど、私の特別な日に彼と関われてる事が嬉しかった。
 今日のおやつはドーナツ。気分はドーナツみたいに丸。食べていけばいく程、丸とは掛け離れていって、まぁ私の気分はドーナツの形同様、時間が経てば経つ程彼の返信が遅い事が気になってしまって、凹んでいく。
 今日の晩御飯はオムライス。その為のおつかいのケチャップだった。私の好物のオムライス。年に一度の私が主役の日だからオムライス。この家ではずっと私が主役だから珍しくは感じない。だけど、私はこの家を出たらどうなってしまうのだろう?
 家族団欒、幸せな誕生日。幸せ。でも、いつか私も年を重ねて、ここを出ていく。私にはこんな素敵な家庭を築く事が出来るのだろうか?
 オムライスに書いた彼の名前をママにバレない様にスプーンでぐちゃぐちゃに撫でる。彼からの返信はいつもは雑なのに、今日が私の誕生日って知ってたみたいで、特別なメッセージをくれた。

『今度ピンクのシクラメンをプレゼントするよ』

 彼からのメッセージ。ピンクのシクラメンの花言葉は、「内気」、

『憧れ』。

 オムライスの文字も、今顔が真っ赤な訳も、話してないのにママにはバレているようだった。
 私もいつか素敵な家庭を築く。パパやママ、お兄ちゃんみたいな素敵な家族を持ちたい。

『Happybirthday、ハッピーな私』。

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