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剛さんのために。「2011年1月1日」の国立競技場で体感したアントラーズの結束力。

こんにちは、コミュニケーションチームの松本です。

今回のnoteは、「Jリーグ30周年記念スペシャルマッチ」に向けたSNS企画「#鹿島国立」のスタッフ思い出シリーズ第3弾。2009から2010シーズンにかけて、新聞記者として当時のアントラーズを取材していた私のエピソードを紹介したいと思います。

思い出の試合は2011年1月1日、第90回天皇杯全日本サッカー選手権大会決勝の鹿島アントラーズvs清水エスパルスです。

私が勤務していた地方新聞社では、アントラーズ担当は通例として2年ごとに交代し、2010シーズンのリーグ戦が終了した時点で、私自身は翌年から別部署への異動が決まっていました。担当期間中は、毎日クラブハウスに通い、公式戦全試合を取材。2017年より「中の人」として働くことになったのも、記者時代に生まれたクラブとの縁がきっかけでした。

2010シーズンのアントラーズはリーグ戦で4連覇を逃し、最終順位は4位。翌年のAFCアジアチャンピオンズリーグ(ACL)出場条件となるリーグ戦3位以内に入ることができず、その時点で勝ち残っていた天皇杯は、タイトル獲得とともにACL出場権を手にするための戦いでもありました。個人的には担当として最後の取材機会となるため、2009シーズンに達成したリーグ3連覇の過程や、(内田)篤人の海外移籍など2010シーズンの出来事とともに、天皇杯に向けて抱いていた特別な感慨を今でも覚えています。

そんな中、リーグ戦終了後の12月8日、クラブから剛さん(大岩剛)の2010シーズン限りでの現役引退が発表されました。

剛さんの現役引退発表

思い出の試合までの前段がもう少し続きますが、そこに至るエピソードをしっかり紹介したく、何とぞご容赦ください。

当時38歳、剛さんはその年のJ1最年長選手でした。自分が担当記者として取材していた期間、決して出場機会は多くありませんでしたが、試合に向けた準備を常に怠らず、ベテランとしての役割を理解しながら、ピッチ内外でチームに安心感をもたらしていました。センターバックとして何度もコンビを組んだ岩政(大樹)監督は、「自分のサッカー人生に大きな影響を与えた人。剛さんと一緒にピッチに立っている時は、言葉を交わさなくても、あうんで守れている感覚があった」と語ります。

12月25日にカシマスタジアムで行われた天皇杯準々決勝、名古屋グランパスに勝利を収めた後のピッチ上で、剛さんの引退セレモニーが行われました。鹿島サポーターだけでなく、プロ生活をスタートさせた名古屋のサポーターもスタンドで見つめる中、剛さんは丁寧に感謝の言葉を紡ぎ、最後にこう締めくくりました。

「まだ、戦いは終わっていません。あと2試合、元日のピッチに立って、皆さんと笑顔でサッカー人生最後の道を飾りたい」

試合後の取材ミックスゾーン。アントラーズの選手たちは口々に「絶対に負けられない」と話し、タイトル獲得という目的だけでなく、剛さんのために戦う準決勝、決勝へと目を向けていました。

天皇杯決勝で見せた意地と粋な計らい

12月29日の準決勝FC東京戦は、延長戦の末、2対1で勝利。清水との決勝、元日の国立競技場へ駒を進めました。

試合は、前半26分にコーナーキックからフェリペ ガブリエルのヘディングで先制。後半に入って同点に追いつかれますが、同32分に拓さん(野沢拓也)がゴール正面からのフリーキックを決め、勝ち越しに成功します。思えば、担当記者だった2年間、拓さんのチームを勝利に導くゴールやプレーには、記者席から何度も舌を巻いていました。決勝点となったフリーキックも、拓さんが助走を始める前から「入りそう」と無責任に想像し、縦回転のかかった美しいフリーキックが決まった瞬間、思わず叫んでいたことだけは覚えています。

2対1。リーグ戦で4連覇を逃したチームは、天皇杯を制してACL出場権を獲得するとともに、自身の出番はありませんでしたが、現役最後の試合となる剛さんを最高の形で送り出しました。試合後の表彰セレモニーでは、キャプテンの(小笠原)満男さんが天皇杯を受け取ると、迷わず剛さんを選手たちの中央に導き、代表してカップを掲げるよう促しました。当時の自分が書いた記事には、満男さんのこんなコメントが掲載されていました。

「本当のキャプテンは剛さん。俺なりの感謝の気持ちだった」

また、天皇杯決勝も含め、剛さんの現役引退が発表されて以降、印象深かった選手がイバさん(新井場徹)です。

決勝でのプレー写真を見て分かるように、イバさんは1月の冬場に半袖、手袋を着用していました。実はこの組み合わせ、剛さんの冬場のスタイルを恐らく真似たもので、剛さんは袖をつかまれることを避けるため、1年を通じて半袖ユニフォームを選び、冬場は防寒として手袋をつけていました。多くの選手と同様、気温に合わせて半袖と長袖を使い分けていたイバさんでしたが、2010シーズンの天皇杯準々決勝からは、すべてこのスタイルで戦いました。「恐らく」と書いたのは、剛さんの引退発表以降に半袖+手袋で戦っていることを、本人が「たまたまや」と私たち記者に認めなかったためですが、あえて否定しない態度に対してそれ以上の詮索もしませんでした。

ピッチ外でも剛さんと親交の深かったイバさんは、引退セレモニーでは選手を代表して花束を渡し、抱き合った後、サポーターに向けて挨拶する剛さんの後ろでしばらく顔を上げることができませんでした。それだけに、剛さんを天皇杯優勝で送り出すことができた試合後の表情は、喜びと安堵感に満ちていました。

クラブの底に流れる結束力と一体感

剛さんを中心とした2010シーズン天皇杯優勝までのストーリーは、ある種ドラマのような、美しい物語でした。ただ、一連の戦いで見せたアントラーズの結束力、一体感は、今もクラブの底に流れる不変の力です。

新聞記者時代に見えていた、試合日はキックオフ約2時間前にスタジアムを訪れ、用意された記者席に座り、取材と原稿執筆を終えて帰るという景色は、スタッフになってから良い意味で一変しました。私は広報担当として、業務の中心はメディアの受け入れとなりますが、運営、チケット、グッズ、セールスなど、当時は見えなかった多くのスタッフが試合を支え、チームが勝利するためにまずはスタッフが結束し、各自の業務にあたっていることを知りました。

5月14日まで約1週間。直近の試合に必要な対応を手抜かりなく進めるとともに、国立競技場開催に向けた準備も佳境を迎えています。Jリーグ30周年となる2023シーズンに掲げたスローガン「Football Dream-ひとつに-」を胸に、ともに戦いましょう。

それではまた、次回のnoteで。

5月14日(日)国立競技場で開催する名古屋戦のチケット購入は「鹿チケ」から。

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