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"MOONSHAKE"の事。

バンドにとって、音楽史に名を残すってのは、大変な偉業だと思う。長い活動だったり、ヒット曲を残したり、たとえヒットしなくったって名曲を残せば可能性はある。でも、一番厄介なのは、短命に終わってしまった別ユニットとか、バンド解散後の一時期のユニットとかで、短い期間だけ活動して、元のバンドが再結成すると、忘れ去られてしまう。でも、そういうバンドに限ってスゴイ曲を残していたりする。このMoonshakeもそんなバンドというか、一時的なユニットって感じでした。

1980年代のUKインディ・シーンに、革新的で攻撃的なサウンドで鋭い爪跡を残しながら、早すぎたサウンドで成功を収められずに去ったバンドとして知られる英国エセックス出身のバンドWolfhounds。その中心人物だったDavid Callahanが、バンド解散後に結成したユニットがMoonshakeでした。Wolfhoundsの解散が1990年、Moonshakeが結成されたのが1991年と、インターバルを置かずにスタートしています。初期メンバーは、David Callahanを中心に、ヴォーカル、ソングライティング、ギター、サンプラーも操る才女Margaret Fiedler、ベーシストのJohn Frenett、ドラマーのMiguel "Mig" Morelandからなる4人組。David Callahanの構想では、Skyscraperという名前を考えていたようですが、他に同じ名前のバンドがいたため、彼が敬愛するバンド、Canのアルバム"Future Days"収録曲からMoonshakeとなりました。バンドを始めた経緯は、David CallahanがWolfhoundsでの活動中にサンプラーに可能性を感じ、最大限に有効活用した音楽を志向したため。実際、Wolfhoundsの後期作品はノイズ・コラージュが絶妙に使用された実験的なサウンドとなっており、成功できなかった理由にもなっていました。つまり、早すぎたバンドでした。

[First EP] (1991)

バンドを結成するとすぐにCreation Recordsからデビュー・シングル"First EP"をリリースします。奇しくも、Wolfhounds時代のメンバーの新バンドCrawlもCreation Recordsからデビュー・シングルをリリースしています。元々はDavid Callahanがソロ・ユニットとしてはじめたMoonshakeでしたが、もうひとりのソングライターでヴォーカリストのMargaret Fiedlerがおり、個々の個性を重視した派手に2面性を持ったサウンドには驚かされました。Margaret Fiedlerがヴォーカルを担当する曲では、ノイジーで浮遊感のある非現実的なサイケデリアとファジーなヴォーカルが混ざり合った混沌としたサウンド、一方のDavid Callahanは、クセの強い異質な個性を持ったヴォーカル、サンプラーを駆使したサウンドと耳障りな程に歪んだノイズギターによる極端なサウンドを志向していました。My Bloody Valentine、Moose、Revolver、Air Miamiなどを手掛けたGuy Fixsenがプロデュースを担当したこの作品は、My Bloody Valentineに近い感じの極端なノイズ・ポップで、Creationのレーベル・カラーに合っていたかもしれませんね。後にメンバーは「これは大失敗だった」と語っており、次作以降の大爆発に繋がったのではと思います。Creationとは単発契約に終わり、バンドは1990年設立の新興レーベルでありながら、Th' Faith Healers、Stereolab、P J Harveyといったアーティストを擁するToo Pureと契約します。移籍後の初シングル"Secondhand Clothes"も引き続きGuy Fixsenが手掛けています。デビューEPのノイジーでサイケデリックでエレクトリックなサウンドに、ダブの要素を取り入れたカオティックで実験精神に溢れた作品となっています。ダブへの傾倒は1992年のシングル"Beautiful Pigeon"に顕著で、ノイズと化した男女混成ヴォイス、歪んだノイズやビッグ・ビートに彩られたサウンドがもの凄い作品です。

[Eva Luna] (1992)

同じく1992年には、イサベル・アジェンデの小説『エバ・ルーナ』からタイトルを取ったデビュー・アルバム”Eva Luna”をリリースしています。キンキンに鳴り響く耳障りなノイズ・ギター、サンプラーを駆使した不安定なノイズ、ポスト・パンク期のダブを取り入れたバンドを髣髴とさせるベースや変幻自在なリズムなどが混然一体となった、スリリングな程に不安定なサウンド。それはやはり2人のソングライター/ヴォーカリストが協力する事なく、各々の作った楽曲を明らかに分けたため、一体感がまるで無かった。それがこの作品を唯一無二のものにする一方、危うさを感じさせました。David Callahanの奇妙に捩れた異質のヴォーカル・スタイルと、卓越したボトムやノイズとのせめぎ合いも凄い。その反面、Margaret Fiedlerの作り出す捩れたフォーク調のメロディと呪術的なビート、突如として挿入される特異なノイズとギター・サウンドの個性も際立っており、この作品を一層不気味なモノにしています(←誉めてます)。

[Big Good Angel] (1993)

1993年には、ミニ・アルバム"Big Good Angel"を、同じくToo Pureからリリースしています。この作品は、David CallahanとMargaret Fiedlerという2人のソングライター&ヴォーカリストが3曲ずつを担当していますが、そのサウンド志向があまりにも異なり、それに端を発してバンドに亀裂が入り始めます。バンドが全米ツアーに出た時には激しく衝突し、一緒にやっていくのは無理と判断し、バンドはツアー終了後に分裂します。Margaret FiedlerとJohn Frenettは脱退、プロデューサーだったGuy Fixsenと共に新バンドLaikaを結成しています。これに関しては、かなりの激しいケンカ別れだった様で、2つのバンドはレーベル・メイトでしたが、殆ど顔を合わせない程の険悪なムードになってしまったと、後にMargaret Fiedlerが語っています。

[The Sound Your Eyes Can Follow] (1994)

Moonshakeは、残されたDavid CallahanとMiguel Morelandのデュオ編成となって活動を始めます。この頃から、David Callahanのサンプラー依存が顕著になり、よりアーティスティックで実験的なサウンドとなっていきます。1994年には新ラインアップとなってから初のフル・アルバム"The Sound Your Eyes Can Follow"をリリースしています。今作は、数々のゲスト・ミュージシャンの助力を借りて完成させています。元Death By MilkfloatでCollapsed LungのJonny Daweや、サックスやトランペットなどのホーン・セクション、Too PureのレーベルメイトであるStereolabのKatharine GiffordやPJ Harveyが参加しています。全曲の作曲をDavid Callahanが担当し、ギター・サウンドを一切を排除した、サンプリング・ノイズに彩られたアヴァンギャルドな作品となっています。参加ミュージシャンをメンバーとして加入させると、今度はMiguel MorelandがMooseに加入するために脱退してしまい、ついにオリジナル・メンバーはDavid Callahanたった一人になっています。新メンバーで行ったライヴ・サーキットでは、Katharine Giffordが全面的に参加し、貴重な女性ヴォーカルとしてバンドを支えて過去の楽曲の演奏をサポートしました。

[Dirty & Divine] (1996)

1996年にアメリカでの活動を視野に入れ、シアトルのインディー・レーベルであるC/Zと契約します。この年のLollapaloozaに参加しますが、アメリカで無名なイギリスのバンドが大きなステージに上がれる訳もなく、小さなステージでの少ないオーディエンスの前での演奏は彼にとっては屈辱だったのでは。同じ年に、ずっとサポートしてくれたKatharine GiffordがSnowponyを結成するためにバンドを去ってしまいます。新たにメンバーを加えてアルバム"Dirty & Divine"を制作、アメリカではC/Zから、World Domination Recordingsのライセンス契約で英国でもリリースされますが、度重なるツアーで経済的にも体力的にも疲弊していたバンドは、同年に解散しました。

[EP / The $urplus!] (2001)

バンド解散後、David Callahanは、Anja Bücheleと共にデジタル音楽プロジェクト"The $urplus!"を立ち上げますが長続きせず、様々なデジタル音楽プロジェクトやDJでの活動を経て、2005年に再結成したThe Wolfhoundsに参加、デビュー20周年のライヴを行い、翌2006年には"NME C86"のリリース20周年ライヴに参加、バンド単独でもツアーを行い、2016年には、16年ぶりとなるフル・アルバム"Untied Kingdom (...Or How To Come To Terms With Your Culture)"をリリースし、本国英国で絶賛される程の傑作アルバムとなっており、見事に再結成を成功させました。

[Untied Kingdom (...Or How To Come To Terms With Your Culture / The Wolfhounds] (2016)

The Wolfhoundsは素晴らしいバンドだったし、過去の作品は再評価されて、再結成後の作品も評価が高いけど、その狭間に存在したこのMoonshakeは、評価も知名度もイマイチでした。でも、サウンドは革新的そのものでした。惜しむらくは、このバンドのふたりの強烈な個性を、もっとうまくミックスできれば多くの作品を残せただろうになあ..と思いますね。何事も独善的なのはいけない。やっぱバンドって、長く続けるのが難しいのですね。

今回は、第1期Moonshakeが初期に残した、スリリングなノイズのせめぎあいとクセの強いヴォーカルと、意外とポップなメロディを聴くことが出来るデビュー・アルバム収録のこの曲を。

”Spaceship Earth" / Moonshake

#忘れられちゃったっぽい名曲


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