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"HEAD OF DAVID"の事。

バンドって不思議な集団だ。初期メンバーによる初期衝動のインパクトはもちろん刺激的で、私のような新しもの好きのポスト・パンクの出の人間となると特にそう。でも、サウンドを進化させていくのはバンドの矜持だし、チャートに尻尾を振らずにそれを成し遂げていくのを見届けるのは、ファンとしても嬉しいことだし、バンドとしては素晴らしいことだと思う。しかし、後から知名度もテクニックも凄い才能の人物が加入すると、元々のメンバーの実力が足りないのかマッチしなかったのか、あまり上手くいかない事が多い。有名なバンドにいた実力派ドラマーが後から加入してバンドが注目されて知名度が上がったのも束の間、彼が脱退すると注目度が急降下、優れた作品を残しながらも数年後に解散...という、悲しい終焉を迎えたバンドがいました。その名はHead of Davidと言いました。

[LP] (1986)

英国イングランドはウェストミッドランズ郡のブラック・カントリーで結成されたHead of Davidは、ヴォーカリストのStephen R. Burroughs、ギタリストのEric Jurenovskis、ベースのDave Cochrane、ドラムスのPaul Sharpの4人で結成されたバンドでした。彼らはイギリスのバンドですが、アメリカのアンダーグラウンドなジャンクやノイズ・ロックをイギリス向けに知らしめるためにRough Trade Recordsが出資して1985年に設立されたレーベルBlast Firstと、あのSonic Youthに続く第2弾アーティストとして契約しています。1986年に同レーベルからリリースされたシングル"Dogbreath EP"でデビュー。耳障りな程に極端に歪んだノイズ・ギターを中心に、がなり立てるヴォーカルや疾走するビートによるカオティックなサウンドはエクストリーム系に近いものではありましたが、Suicideの"Rocket USA"のカヴァーを収録するなど、インダストリアルやNYパンク系の影響が大きかったかと思います。プロデュースはBlast First主宰のPaul Smithが手掛けています。デビュー・アルバムも同じ年にBlast Firstからリリースしています。この作品は、発売メディアによって"CD", "LP", "TC"と名付けられたシンプルなもので、先のシングル"Dogbreath"全曲をA面に、新録の"Godbreath"をB面に配した内容でした。このアルバムはUKインディー・チャートで3位まで上昇するヒットとなっています。今作を最後にPaul Sharpが脱退し、Napalm Deathを脱退したJustin Broadrickが新ドラマーとして加入しています。

[Dustbowl] (1988)

1988年には、2作目のアルバムとなる"Dustbowl"をBlast Firstからリリースしています。プロデュースをBig Black~RapemanのSteve Albiniが手掛け、YazooやDepeche Modeなどが使用したロンドンのBlackwing Studioでレコーディングされるという、レーベル大きな期待を感じる力の入れようでした。金属的にノイジーではあるけども、狂暴というよりは知性に抑制されながらもカオティックなギター・サウンド、卓越した変幻自在なドラミングとノイジーでファットなベース・ラインによる強靭なビート、パワフルながらも直情的一辺倒では無い進化したヴォーカルが冴える、ヴァラエティに富んだインダストリアルとノイズ・ロックをクロスオーヴァーした作品に仕上がっています。世間としては、元Napalm DeathのJustinが在籍するという事で、ヘヴィ・メタルやエクストリームなグラインド・コアを期待していたのかも知れませんが、ハード・ロック風味はあったとしても、グラインド・コアの過激さは感じなかった。Naplam Deathだってメタルというよりはハードコア・パンクの影響が色濃いバンドと思っていたし、そもそも、Naplam DeathではJustinはギタリストだった気が...。個人的には、このアルバムのサウンドが好きでしたが、世間の目はそうではなかった。後にメンバーは、ヘヴィ・メタル・バンドにはなりたくなかったし、Throbbing GristleやBoyd Rice(NON)やインダストリアル系のサウンドに傾倒していたので、自分たちの好きなものをやっただけだと語っています。

[The Saveana Mixes] (1989)

1989年には、ロンドンのI.C.A.でのライヴを収録したアルバム”The Shit Hits The FansをH.O.D.I.C.A. 名義でリリースした後、同じ年にリミックス・アルバム”The Saveana Mixes”をリリースしています。この作品が、個人的には大好きです。Cocteau Twins, Depeche Mode, Nine Inch Nails, Die Krupps, This Mortal Coil, Love And Rocketsなどを手掛けたJohn Fryerがプロデュースを担当、基本的に前作”Dustbowl”収録曲のリミックス集ですが、新たなミックスでカオティックに壊れていく様がスリリングでした。しかし、この頃からバンド内に不協和音が鳴り始め、Justin BroadrickはG. C. GreenとのユニットGodfleshを始めるために脱退、ベーシストのDave Cochraneも脱退してしまいます。同じ年にアルバム”White Elephant”がリリースされましたが、これはJohn Peelのラジオ・セッションに出演した時のレコーディングを編集したものでした。窮状に陥ったバンドは活動休止を余儀なくされます。

[Seed State] (1991)

残されたStephen R. BurroughsとEric Jurenovskisは、新しいベーシストとしてBipin Kumarを迎えて3人組となり、1991年にアルバム”Seed State”をリリースしています。Nitzer EbbやDepeche Modeを手掛けたプロデューサーのPaul Kendallを迎えて制作され、ドラマー不在のため、Eric Jurenovskisがプログラミングしたドラム・マシーンをバックに従えた3人組での再スタートでした。このアルバムのサウンドこそ、彼らが求めていたものではないかと思います。ノイジーとアコースティックを交えた、メロディアスでカオティックなギター・サウンド、凶暴さを抑えたダークなヴォーカル、効果的なシンセサイザーや、打ち込みドラムによる無機質でも躍動感のあるビートなど、聴き所の多い作品です。このBig Black編成を、Steve Albiniがプロデュースしていたら、凄いものが出来上がっていたんじゃないかな、などと思ってしまいます。Paul Kendallのプロデュースが、もっと突き抜けてくれてたらな。この頃にはBlast Firstの親会社はMuteになっていたってのもあって...。

[Soul Spark] (1993)

しばしの沈黙の後、1993年にシングル”Soul Spark”をBlast Firstからリリースしますが、これは1991年にレコーディングされていたもので、既にバンドは解散していました。解散後、Stephen R. BurroughsとEric Jurenovskisは、Comicideを結成しますが長続きせず、Stephenはソロ・ユニットのTunnels Of Āhで活動、他のメンバーは、音楽からは足を洗っている様です。バンドを先に抜けたJustin Broadrickは、Godfleshでの活動と並行して、Dave Cochraneと再度組み、Sweet Tooth, God, Ice, Grey Machine, The Courtesy Group, Transitional、元SwansのTed Parsonsが参加したJesuなどで活動しています。Head of Davidは、バーミンガムで毎年行われている音楽とアートのフェスティバル、Super Sonic Festivalに出演するために、2009年にStephen R. Burroughs, Eric Jurenovskis, Dave Cochrane, Paul Sharpというオリジナル・メンバーで再編してライヴを行っていますが、これが最後と公言しています。一方のGodfleshは、2023年のSuper Sonic Festivalのヘッドライナーという、やはり大きな差をつけられてしまった...。

タラレバを言っても仕方がないのですが、あの時、こうなってれば、こうしてれば、違う運命があったんじゃないかなあと思ってしまいます。Head of Davidという早すぎたバンドが残したものは、Pitchshifter, Fear Factory, Rammsteinといった後発のバンドたちに確実に受け継がれているでしょう。今回は、いい意味でバンドが一番壊れていた時期にリリースされたデビュー・シングル/アルバムの冒頭を飾るカオティックなこの曲を。

"Smears" / Head of David

#忘れられちゃったっぽい名曲


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