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”The Kane Gang”の事。

英国イングランドのニューカッスルにて、元々は"Soul Kitchen"という、映画みたいな名前のクラブを前身として、そこに集った人々により1982年に設立されたレコード・レーベルが"Kitchenware Records"でした。元々は、"Martin Stephenson & the Daintees"や"Hurrah!"のレコードを作るための小規模なローカル・レーベルでしたが、1980年代中盤に、所属アーティストの作品がメジャー・レーベルの目に留まり、レーベルに在籍させたままメジャー流通させるライセンス契約というビッグ・ディールが舞い込みます。初期から在籍していた”Prefab Sprout"はアメリカのCBSレコード、そして英国のロンドン・レコーズとのライセンス契約となったのは"Martin Stephenson & the Daintees"、そしてレーベル初期から在籍していた"The Kane Gang"でした。

"The Kane Gang"は、イングランドのダラム・カウンティで、 Martin Brammer、Paul Woods、Dave Brewisにより結成された3人組。バンド名の由来は、オーソン・ウエルズの映画「市民ケーン」をもじったもの。1983年にKitchenwareから1stシングルをリリース、2作目からはロンドン・レコードから全英に流通され、破格なデビューを飾ります。デビュー・アルバムとなる"The Bad And Lowdown World Of The Kane Gang"を1985年にリリースしています。トラディショナルなフォークやカントリー的なアコースティックなサウンドと哀愁味のあるメロディ、そしてジプシー音楽的な要素を取り入れ、非常に緩急のある彼らのサウンドは勢いがあり、同時に味わい深いものでした。アルバム収録の"Closest Thing to Heaven"や、ステイプル・シンガーズのカヴァー"Respect Yourself"は、全英チャートにランクインしました。

彼らのセカンド・アルバム"Miracle"は1987年にリリースされ、1枚目には及ばなかったものの本国では好意的に受け止められました。シングル"Motortown"と、Dennis Edwardsのカヴァー"Don't Look Any Further"もヒットします。この曲はアメリカではダンス・チャートの1位を記録する大ヒットとなり、正に"Miracle"となりました。しかし、ダンスチャートとは...。それがバンドに亀裂を生む事になったのかは想像でしかありませんが、メンバーのPaul Woodsが音楽性の不一致からか脱退。残された2人は、3枚目のアルバム制作に取り掛かりますが、完成する事は無く、そのまま消滅してしまいました。成功を手に入れながらも、世間の要求する音と、自身のサウンドのギャップにより消えてしまった残念なバンド。でも、成功したのがカヴァー2曲、更にダンス・バンドとしての成功となると、Paulの選択が正しかったとも思えます。だってバンドは、最盛期の音だけを残していますので、私たちが忘れない限り、いつだって全盛期のサウンドに触れられるのですから。

余談ですが、先の”Kitchenware Records"は、以降はバンドの発掘が上手くいかず、ロンドンとの業務提携を解消して純正インディ・レーベルとして再出発し、あのEditorsを見出し、雄々しく復活か?と思わせましたが、結局はヨーロッパ盤のライセンスを持っていた"PIAS"に横取りされるような格好となり、レーベルは2017年に解散しています。やはり資本力には敵わなかったのか...。

今回は、デビュー・アルバム"The Bad And Lowdown World Of The Kane Gang"のラストを飾る、彼らの哀愁味が一番感じられる名曲を。

"Crease In His Hat" / The Kane Gang

#忘れられちゃったっぽい名曲

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